彼の感情に触れるとき 2

屋敷に入ると外よりも更に空気が冷えていてリリアナに防寒魔法をかけて貰っていても震えが止まらない。今は外でリリアナがこれ以上の被害が行かない様に抑えて貰っているけど10分程度が限界だと言っていた。この状態が続けば凍死してしまうのも時間の問題だった。



(改めてジャックの魔法の強さを実感するわ……魔力が漏れ出た状態の被害が大きすぎる)



幼いころは今よりも魔力が無かったにしても制御なんて出来なかっただろう事はリリアナを育てているから分かる。……その時に彼の傍には誰かいたのだろうか?



「早くこの状態をどうにかしないと……。」



滑る床に気を付けながら食事場に行くと彼は其処でうずくまっていた。駆け寄ろうと一歩踏み出すと先程とは比べものにならないくらいに気温が下がり息を吸うと冷気で喉がやられて咳き込んでしまった。



「アシュリー? 」



私に気が付いたのか声をかけてきたけど、咳が止まらないので返事をすることも出来ない。それを彼は返事をする気が無いと捉えたのか仕方ないよねと呟いた。



「俺はアシュリーを傷つけてしまったんだよね。話したくないは辛いけど仕方ない……。」



(いや、現在進行形で物理的ダメージを負っているんですが!? 何で傷つけたことが過去形になっているの!? )



驚くことに話したくないよりも話せないという状況を彼は理解していない。圧倒的な認知の歪みが生じている事を何とか知らせようと歩みを進めていくけど彼に近づくにつれ最初は痛痒いと感じていた手が感覚をなくしていく。



やっと彼の目の前に来る頃には意識が朦朧としてきて立っている事がやっとで、そんな状態にも関わらず思った事は随分と暢気なものだった。



(やっぱり彼はリリアナとそっくりだわ)



癇癪で魔力暴走を起こして家をめちゃくちゃにしてしまった時も娘はこんな表情をしていた。まるで怒られるのを怖がるみたいに。



殆ど感覚のない手でジャックの手を握った。息は苦しいし意識は朦朧とするしで散々だったけど苦しいのはジャックだって同じだから。



(これじゃ……話が出来ない……)



喉が痛すぎて止めての一言すら言えなかった。これ以上喉に冷気を入れたら肺が可笑しくなってしまいそうだ。どうしようかと再び彼を見ると無意識に体が動いていた。



「え……? 」



彼が驚くのも無理はない。私は両手でジャックの頬を包み額に口付けをしていたのだから。そして最後の力を振り絞って彼に思いを伝える。



「泣かないで……私はずっと貴方の傍にいるから。」



そう言って抱きしめてから意識が遠のくのを感じる。



(結局話し合いも出来ずに私は何をしてるんだろう……)



不甲斐なさを感じながらとうとう意識を手放してしまった。





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意識が戻った時に息苦しさを感じず不思議に思っていると先程までいた場所じゃない事に気が付いた。


「此処は私の部屋……? 」



ベッドから起き上がろうとするともう一つの違和感に気が付いた。何とジャックが私の手を握りしめながらこちらを見ていた。



「……こうやって手を握ってもらって嬉しかったから。」



何の事を言っているのか分からずに戸惑っているとジャックは話を続けた。



「俺は、貰ったものを返す事しかできない。」


「人間は大体そうだと思いますよ。」



そう言うと違うといってきたので尚更理解が出来なかった。



「俺は君の様な行動を起こせないし今だってあの行動原理は分からない。これじゃ俺の事を愛してくれるわけもないなって納得したんだ。」


「何だか話が飛躍してる気もしますが……私はあんなことをしておいて良くその言葉を私に言えたなって思っただけですよ。」



すると今度は彼が理解できないといった表情を見せた。



「責任も取らずに肉体関係に持ち込んだ挙句に私に目もくれずにリリアナと家族になろうと勝手をする人の愛の言葉を信じられると思いますか? 」



そう言うと今度はきりっとした表情をして私に向き合った。


「じゃあ、俺の言葉が本当だって思ってもらえれば君は俺の事好きになってくれるの? 」


「ばっかじゃないの!?!? 」



あまりの楽天的な考えに怒りが芽生えたけどそれも彼のニコニコと笑う顔を見てしぼんでいった。



(そうよ……ジャックはこういう人間だったわ……)



過去に何があってどんな心の痛みを抱えているかは知らないけど、今此処に居るジャックはあの朝の時に感じた無神経で何処か憎めないそんな男だのだと再認識するのだった。








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