本当に欲しかったもの~sideジャック~
頬がじんじんと痛みを感じるけど、今までもこの痛みは経験していたから慣れている。それなのにこんなに痛みを感じるのは何故なのだろうか?
叩かれたのは頬の筈なのに俺はじくじくと感じる胸の違和感に頬ではなく胸をぎゅっと押さえていた。
(アシュリーのあの顔が頭から離れない……)
そんな俺に呆れたようにリリアナはため息をついていた。
「お母様に良くそんなこと言えましたね。新手の笑えない冗談かと思ったわ。」
「俺は嘘は言っていないよ。何でアシュリーはあんなことを言ったんだろう……。」
その言葉にリリアナは心底嫌な顔をして部屋から出て行ってしまった。
一人取り残された部屋の静けさにソワソワと落ち着かない。本来であればこの場所は賑やかである筈なのに。
(ここは今までのどの場所よりも暖かい場所なのに今は凄く冷たい……)
物心がつく時には一人だった。
親は知らない。このご時世いろんな理由があるけど分かっているのは俺は彼らにとって必要のない存在だったという事実だけだった。
そんな出生にもかかわらず生きて行く事に苦労したことはなかったのは俺が人よりも魔法に優れていたからだ。幼いころから大抵の事は出来てしまったので最低限以上の生活が送れていた。生きることに興味が無かった俺を生かしていたのはこの世界への探求心や好奇心の類だった。
そして俺が大きくなるにつれて家族というものに興味を持った。何故なら俺が得られないと思っていた家族というものは自身で作れるものだと知ったから。
しかし、その家族を作るには俺には致命的な欠点があった。---俺の種はどんな方法を使っても子供を作ることは出来なかったのだ。
調べた結果、魔力が高すぎて女性の胎が俺の子供を作ることを拒否しているらしい。
知ってから暫くは時間を無駄にしたことを後悔していたけど、どうしてか女性と関係を持つことを止めなかった。
純粋に楽しかったのも大きいけどそれ以上に諦めたくなかったのかも知れない。
子供のころに感じた手をつないで楽しそうに歩いていく親子を羨ましいと……俺もあれが欲しいと願ってしまった気持ちが今も消えていないのだ。
そんな時にリリアナの存在を知った。母親は正直覚えていなかったけど窮地の侯爵令嬢だと知って使えると思った。家族を得るついでに地位を確実なものに出来る事に喜びさえ感じていたのに心は何処か冷えた感覚だった。
欲しかったものじゃない事に勝手に失望してまた本当の家族を作るために色んな女性と関係を持った。それでも俺の心はずっと穴が開いたような感覚で満たされる事なんて無かったのに。
「アシュリーが作ったポトフは美味しかったなぁ……。」
完全に俺の自業自得なのにアシュリーは自分の事の様に心配してくれた。俺の頭を撫でて苦しい時はずっと傍で手を握ってくれた。熱で苦しかったのに俺はこの時に心が満たされていく感じがした。これだ、これが欲しかったのだと本能で理解した瞬間だった。
「欲しいと思った時にはいつも手遅れなんだよなぁ……。」
やっと分かったのに彼女は手を取ってはくれなかった。何で手を取ってくれないのか分からないから改善することが出来ない。
「寂しいよ……。アシュリー……。」
冷たくなっていく感情と一緒に部屋が凍っていくのを俺は見ないふりをした。
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