やらかした事は後に必ず返ってくる

窓からの光が差し込んできて眩しくて目が覚めた。



(やってしまったわ……)



下着姿の男女がベッドの上にいる。そして、誤魔化しきれないほどの体の違和感。

私は前世でもやらなかった『一夜の過ち』を冒してしまったのだと実感した。



「白々しいわ、止めましょう。全部覚えているのだから。」


「さっきから何言ってるの? 」


私の声で起きたのか声をかけてきた彼に本音を言う気がなかったので適当な言葉で誤魔化すことに決めた。



「……名前を聞いていなかったと思って。」


「へぇ? そんな事を気にするような子だったんだ。」


(クズ過ぎる……。もう会う事がないにしても名前を聞くくらいしてくれてもいいじゃない!? )


完全に自分を棚に上げた考えをしていたけど、私に関心が無さすぎではないだろうか。


「夜を共にできれば何でもいいって事? 」


「君みたいな美人に誘われたら誰だってOKすると思うけど? 」



(論点をずらしたわ、この人)



昨日の夜の事はこの人にとって特別でも何でもないんだって事はこの人の態度を見て分かる。そんな彼の事を考えていると何だかどうでも良くなった。服を着て帰り支度をしていると目を丸くしてこちらを見ていた。


「何かしら? 余り見てほしくないわ。」


「え? 帰るの? てっきり此処に住まわせてー!って言うと思っていたのに。」


だって君、帰る場所無いんだろう? と言う彼の言葉に決心がついた。


「少なくとも貴方と居るよりは可能性の低い方にかけた方が何倍もいいわ。」



心外だなぁなんて思ってもいない事をゴロゴロと寝転がりながら話す彼を見ていたらなんだか根拠のない自信が出てきた。


(お父様とお母様は私を信じてくれるかもしれない。それに屋敷に戻ったら何でこんな事になったか分かると思うし)


彼の言うように懇願すれば住まわせてくれると思う。でも、それでは事態は前にも後ろにも進まない。



「自分の目で確かめないといけない事があるから。」



私を見つめる彼はそっかと言って自分の体を起こした。



「そんな表情が出来るなら良かったよ。昨日なんていつ死んでもいいって顔してたからさ。」


(そんな事を考えていたのね)



少し胸が温かくなるような感じがして彼に感謝を伝えようとした。


「ありが---」


「まぁ、昨日の俺の慰めが効いたようで何よりだよ!! 」



さっきの温かい感情は気のせいだったみたいだ。余りのデリカシーの無さに帰り支度を終えて家から出ようとした。


「泊めてくれてありがとうございました! もう二度と会う事はないでしょうけど背中には注意して生活することね!! 」


勢いよくドアを閉めて彼の家から出る時はこの事が理由になるのは癪だけど大声をあげたせいか心が随分と軽くなっていた。


「……結局、彼の名前聞きそびれちゃったわね。」


もう会うことは無いだろう彼の名前が気になっていると思いたくなくて無心で自分の屋敷に向かうのだった。



---------------------


「あぁ、アシュリー……っ! 母は信じていましたよ、貴方は生きていると……っ!」



私が屋敷に帰るとお母様達は私を抱きしめてくれた。


「信じてくださるのですか? 此処に居るのが幻ではなく本物の娘であると。」


「貴方の亡骸だと見せられましたが私達は直ぐに違うと分かりました。貴方を探しに行こうとしたけれど動けずにいた私達を恨んで頂戴。」



その後、お母様達から昨日の話を聞いた。



事故に遭った娘が亡骸で帰ってきたと連絡があった時に気が動転したらしいが自分の娘でないことに気がついて抗議したことろ、娘の死を受け入れられない病んだ母親と認識されてしまったらしい。


「ごめんなさい、お母様! 私のせいでそんな扱いを受けるなんて……っ!」


私の死亡届は受理されてしまっているのでこれから先、お母様は社交界で気が可笑しくなった侯爵家の夫人と評判を受けてしまう。



(私はどう思われったって構わないけど、私の家族がそんな扱いを受ける事が許せない! )



そんな考えはお母様にはお見通しだったのだろう。再び私を抱きしめた。



「私はね、アシュリー。貴方がこの家に帰ってきたことが何より嬉しいのよ。これからの事は家族で考えていきましょう。」


「はい……っ!」



お母様の言葉に我慢していた涙が溢れだした。どんな事があったって乗り越えられると信じられた。





だから、この時の私は体に異変が起こっているなんて思いもしなかった。


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