追放される悪役令嬢だと思ったら産んだ娘が『稀代の悪女』だった

霜月かつお

プロローグ

何も知らないまま転生をして16年。私の心は衰弱しきっていたのかもしれない。




どこかの乙女ゲームや小説に転生したのだろうとは思っていたけど、結局分からないまま侯爵令嬢として恥ずかしくない生き方をしてきた。



転生をして最悪のパターンは悪役令嬢だったりその取り巻きのモブキャラになって断罪されることだと思って謙虚に生きて、誰の害にもならないように生きてきた筈だった。




ーーーーーその筈だったのに、どこで道を間違えたのだろう。




私と愛を育んでいた筈の婚約者を奪い、当然の様に彼との結婚を祝福してくれると信じている彼女の顔を引き裂いてやりたくなった。手紙のやり取りの相手に気が付かない婚約者に怒りを感じた。


裏切りと婚約者への失望。私が築き上げたものを壊されたという事実は私を自暴自棄にさせるには十分すぎた。過ちを犯すのに自分に理性的な判断は焼き切れてしまっていた。




----その結果がこれだ。今の私には皇太子の婚約者という肩書も侯爵令嬢という立場も無くなって残ったのは父親が分からないお腹の子供だけだった。




「お父様とお母様には申し訳ないことをしてしまったわ。」




皇太子の婚約者になれなかった私を叱る事もせず、傷ついていた私の為に療養場所を用意してくれていたのに結局は使う事すらなくなったのだから。




「これからどうしよう……。」




そんな事を考えているとポコポコとお腹を蹴る感覚を感じた。




大きくなっていくお腹を見て不安と恐怖しか感じず、数日後には身を潜めていた下町の診療所で私の子供は産声を上げた。




「まぁ、可愛らしい女の子。さぁお母さん、この子を抱いてあげてくださいな。」




憎しみと自暴自棄なった結果で生まれた子を私は愛せるのだろうか、そんな気持ちのまま娘を抱き上げた。




「子供の名前はもう決めてあるの?」




決めてない、そう言おうとした時には違う言葉を返していた。




「ーーーリリアナ。この子の名前はリリアナよ。」




「まぁ、可愛らしい名前。では、リリアナちゃんをお風呂に入れてきますね。」




そう言いながら我が子と共に去った助産師を見送りながら私はようやく自分が生まれた場所を思い出した。




「それは流石に分かんないよ……。」




私はアシュリーとして生を受けて16年経って、やっと悪役令嬢か取り巻きではなく「稀代の悪女の母親」として転生をしている事を理解した。


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