第13話(水城の話)

(ぅ~…小便いきてぇ…)

動くたびにちゃぷちゃぷとお腹の水が揺れて苦しい。

「おい水城!!ボーッとすんな!」

監督に怒鳴られハッとする。

「すんません!!」

おしっこ、おしっこ、頭の中はそればかり。接触が多いこのスポーツ。体を強い力で押され、対抗しようと足腰と腹筋に力を入れるけど、一緒に出てきてしまいそうで力が抜けてしまう。

(といれ、といれぇ、)

ボールを持っていない時にさりげなく太ももを触ったりズボンを引き上げるけど、あまり意味がない。

ピーーー、

「一旦ストップ!!」

まだ時間になっていないのに、甲高いフエの音。

「水城お前!!何回も言わせんな!!」

「す、すみません!!」

監督の怒鳴り声に肩が震える。

「さっきから動きが小せえんだって!!目線もキョロキョロキョロキョロ…どこ見てんだよ!!あ゛ぁ゛?」

「いえ、その…」

ボールが腹に当たらないように、接触しないように、そんなことばかり考えてしまえば、誰がどこにいるかなんてなんて分からなくなって。

「もういい、お前出とけ」

「あのっすみませっ」

「さっさと出ろ、練習進まねえから」

「…はい…」




「動きダレてるぞ!!一点がかかってる試合でもそうやって動くのか!!」

コート外で行き場のない手を太ももと腹を行き来させながら、時計をチラリとみる。

(はやくはやくはやくはやく…)

もう、漏れそう。家だったらとっくに駆け込んでいるレベルを超えている。先端がヒクヒクと震えて、どこか筋肉が一つでも緩んだら決壊してしまうくらいに。体はピンと張った糸のように緊張している。

(行かせてもらおうか…でもっ、さっき怒られたのに…でも、漏らしちゃう…)

そんなことを考えていたら気づけば休憩まで残り10分を切っていた。

前を押さえたいけど、ここは体育館で、人がいっぱいいるところで。皆練習に集中していてコート外にいる俺のことなんて見えていないだろう。でも高校生の意地で踏みとどまっている。

ソワソワと足を組み替える。意味もなく太ももと膨らんだ下腹を行き来させて、意識をそらす。

(も、だめっ、でるっ、)

「かんとく、おれ、トイ…」

「早く帰りたいか?」

「…っへ?」

「23回。何の回数か分かるか?」

「えっと…」

予期しない質問。頭の中はおしっこのことばかりで頭に入らない。

「お前が時計を見た回数。いいぞもう。帰りたいなら帰れば。」

「ちがっ、おれ、」

「おい!!さっきも言っただろ西田!!」

じゅ…

こちらを見向きもせず、コートに目を向ける監督。

(も…だめ…)

下着に感じる温かい感触。汗でもともと濡れてるけどわかる。ちょっと出た。

「~~っ…」

(もーだめ!!といれといれといれっ、)

一度チビって仕舞えば大きな崩壊はいつ来るかわからない。とんでもなく怒っているのだろう、いや、むしろ呆れているのかもしれない。早く頭を下げて謝らないといけない。そんなこと、空気を読まなくてもわかる。でも、マジで限界。

(漏れるっ!!)

重い扉を開けて、靴箱の自分の靴を探す。

「もぉ…どこっ、どこにおいたっけ、」

きゅううう、と足をクロスして、内ももをさすりながら。

「ないっ、ないぃ、どこ、」

頭がとにかく回らない。おしっこ、おしっこが出ちゃう。誰も見ていないのをいいことにチンコの先を押さえてトントンと足踏みを繰り返して焦りとともにフライングしそうな尿を押し戻す。

「あった、はやく、はやくっ、」

あとは履いてトイレまでダッシュするだけ。そう思っていたのに。

「あ、いた。お前、本当に出てくのはやべーぞ」

体育館のドアが開いたと思ったら先輩が出てきて、押さえている手を慌てて離す。

「いや、あの、せんぱ、おれ、」

「あれ俺も二年の時にされたんだよ。外で時間潰して戻ったらガチギレされて1週間練習参加できなかった」

「ちがっ、おれ、」

ぎゅうううう、とズボンを握りしめる。ズボンの湿りが汗なのかおしっこなのか分かんないぐらいに熱い。

「ほらいくぞ。一緒に謝ってやるから」

じゅいい…

「ぁふっ、」

俺の手首を掴んだ手は、案外冷たくて。電流が走ったみたいにゾクゾクして、張り詰めていたものが緩んだ瞬間だった。

「あっ、あっ、せんぱい、おれ、おしっこ、おしっこでちゃう、」

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