第12話(水城の話)

「あ゛ー…つかれた…」

風呂から上がりさっぱりした体でベッドに倒れ込む。授業を6時間終え、ハードな練習をこなした自分を心の中で褒める。

「あー…ノート書かねえと」

全身の力を抜けさせるのにはまだ早い。カバンからノートをとりだし、今日の練習の改善点を洗い出していく。

「パスミス、点が入った直後の動きが遅い、あとは…」

次々と出てくるダメなところ。ノートの消費が早い。

「明日もあるのか…」

 1人反省会も終わり、今度こそベッドに入る。

 練習がキツい。正直言うともうやめたい。そりゃ強豪校の、しかも一軍なんだから当たり前といえば当たり前。でも、そういう物理的なものよりも、打ち解けられる人がいないのが辛い。積極的に話しかけてはいる。ちゃんと会話はできる。できるんだけど、先輩という存在自体が緊張してしまって深くは踏み込めない。

加えて練習中の緊迫感がすごい。全ての動きを観察されてるみたいで息もまともに吸えやしない。普段からこんな緊張感のある場所で練習しているのだ。強いのも頷ける。でも、心身ともにクタクタ。

「でも、頑張らねえと…」

ベッドに寝転がる途端、瞼が落ちる。もう、起きてられない。弱音と決意がごちゃごちゃになりながら俺は、眠りの世界に落ちた。




「ナイス!!おらっ!シュートされたからってちんたらすんな!次のこと考えろ!!」

「はいっ!!」

今日も今日とて厳しい練習をこなす。何度も何度も怒られながら、息も絶え絶えになりながら。普段はバスケ以外のことを練習中に考えることはない。そんな余裕は心身ともに持ち合わせていないからだ。でも、今俺の頭をいっぱいにしているのはフォーメーションのことでも、パス回しのことでもない。

(トイレいきてぇ…)

 誰でも考える機会があるであろう、それでいてどこか幼い欲求。少し動けば忘れる程度のものではない。固く締めたズボンの紐が憎いぐらいに、下腹部がジンと痛む。

考えれば、今日は掃除当番が長引いて焦るようにして部室に向かったから、トイレのことを忘れていた。そのくせ熱中症が怖くて始まる前に多めに水分をとってしまった俺は馬鹿である。

(うぅ~…動くの辛ぇ…)

だんっ、だんっとボールやら足踏みやらで揺れる地面が膀胱に響く。それに、腰を下げないといけないから、お腹が圧迫されて、余計にしたくなってくる。

(といれといれといれといれ…)

誰か、先輩にいって行かせてもらおうか、そう思うけど、このピリピリした状況では言い出しづらい。

時計を見ると休憩は30分後。

(さすがに、漏らしはしねえよな…)

こんなところで失敗なんてしたら、退部レベルのやらかしだ。でも、流石に高校生にもなって限界を迎えることはないだろう。動いているから汗になって水分も出ていくし。

(ぜってぇ我慢しねえと…)

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