第5話

「「「あ」」」

あまり良くない先客が何人か、来ていたようだ。違うところに行くことも考えたけど、時間的にそれは厳しい。さっさと済ませてしまおう。

「お前さぁ、昨日田村にチクったんだって?」

「え、何で…」

「本人から聞いたんだよ。で、何だ?自分はいじめられてるって?」

3人に囲まれる形。顔を見るのが怖くて、地面のタイルに目線が落ちる。

「そもそもさぁ、昨日も一昨日も練習来てなかったの誰?」

「でもっ、それは…」

「学校来れるぐらい元気なんだろうが。来るか辞めるかはっきりしろよ」

「いじめられる原因持ってるのお前だと思うけどな」

何で。後付けじゃんそんなの。ずっと前から、嫌がらせしてたくせに。

「でもっ!!だからってロッカーめちゃくちゃにしたり、靴壊したりして良い理由にはならないと思います!やめてくださいよ!!」

「え、何。俺らがやったって言いたいの?証拠は?」

「あ、…ちが…」

「やめてください、って言ったよなぁ?」

静かに詰め寄られて、シャツを引っ張られる。

「証拠は?俺らがやったっていう証拠は?」

「…ないです…」

「後でお前覚えとけよ」

あ、またやってしまった。明確に向けられた敵意が肌に刺さる。また、息がしにくい。

「おい、何してんだよ。さっさと来いよノロマ」

「え、でも、トイレしたくて…」

「んなもの我慢しろよ。集合時間わかってるか?」

「すぐ行きますんで…」

「あ゛?お前はいっつも自分のことばっかだな」

「でも…」

「つべこべ言わずに行けよ」

「っん、」

腹を蹴られて、出口がキュンと震えた。

「てかさぁ。外周の時間も我慢出来ねえの?小学生でもあるまいし」

「いえ…」

呆れたような笑い。恥ずかしくて顔が熱い。

「おら、さっさと行けよ」

これ以上お腹を蹴られたくなくて、渋々トイレを後にする。

(我慢、出来るよな…)

シャツの足形を払うふりをしてそっとお腹を押す。口が気持ち悪くて何度も飲んだ水と、走る前だからって飲んだ水分。むずむずして、落ち着かない。


 集合場所に行くと、まだ始まる時間ではない。これだったらしてくればよかった。絶対間に合ったじゃん。じっとしてるのも落ち着かなくて、ズボンを何となしに引っ張り上げたり、太ももをさすったり。

外周にかかる時間は大体40分。意識するとどんどん欲求が高まって行く気がして、不安だ。

(漏らすのは…流石にな…)


「じゃあ今から外周ー!!ゴール地点にストップウォッチ置いとくから、各自確認して自分の名簿表にかくこと。その後は各自割り当てられたメニューで筋トレ!!」

うぃーっすといつもの気の抜けた返事の後、合図とともに人が前に進み始める。何度も膨らんだそこをさすりながら俺も、足を踏み出した。



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