第4話

「ぅ゛…」

あつい。胃、ムカムカする。頭、痛い。

(いま…なんじ…)

確か昨日、廊下でお漏らしして、うどん食べて、祐樹の布団で一緒に。あれ、何で一緒に寝たんだっけ。

「あ、起こしちゃったか。寝れそうならもうちょっと寝ときな?」

おでこが冷たい。ああ、これは祐樹の指か。ぼんやりとした視界で、祐樹がこちらを見ているのだけがわかる。

「いま…なんじ…かいしゃ…」

「10時ぐらいかなー…あ、休みの電話は入れといたから」

「なんで、」

「ん?」

「なんでかってにそんなことしたの…?」

「だってお前そんな状態だし、え、行こうとしてたの?」

「あたりまえ、じゃん、からだ、楽になったし、いまから、いく、」

「馬鹿何言ってんの…そんな状態で行って何に…」

「めいわくかかるの、行かなきゃ、そんなの、」

昨日、風呂入ってない。早くシャワー浴びないと。浴びて、スーツ着て、謝らないと。

「ちょっと本当にダメだって。そんな状態で行って何になるの?」

掴まれた腕を振り払う。俺だって休みたい。でも熱もないのに、この程度で休むなんて有り得ない。次の日怒鳴られる同僚を見てきた。そんで、休んだ時に言われる悪口も、俺がやらなかった仕事は誰かになすりつけられて、その人がしんどくなることも知っている。


「っは…っっ、ふ…」

胃、痛い。ギリギリと締め付けられるみたいで、背中を丸めても、しゃがんでも針が入っているみたいだ。息するだけで痛い。

「くすり…」

最近お世話になっている錠剤の箱を取り出すも、中は空っぽ。ダメだ、泣きそう。


 逃げたい。責任感とか、仕事とか、全部放り出して。この胃の痛みも、ずっとほてっている違和感も、全部、いらない。お願いだからなくなってほしい。

しゅいぃぃぃぃ…

「………は?」

しゃがんだ体勢のまま、自分の股座が濡れている。なんで、急に。ここはトイレじゃないのに。何で、マジで頭おかしい。

「んっー、ぅ、」

チンコに力を入れるのに、全然止められない。腰をよじるけど、前を押さえるけど。おしっこしたいって感覚が分かんなかったやつがどうやって我慢するんだよ。

「健斗?入るよ?」

びちゃびちゃびちゃびちゃ…

間抜けな音でいっぱいの空間の外からノックが聞こえる。俺が閉めたドアを無理やり開けることないところが律儀だ。

「っは、っふ、」

 来ないで。こんなとこ見られたいわけない。でも、どうすればいいか分かんなくて、助けてほしい。

「健?…おしっこしちゃった?」

「っ、…」

「わざとしちゃった?」

「っ、!、」

「今度からはおトイレ行こうね?連れてったげるから。ほら、めんどくさいかもだけど、着替える方がさ、大変だから」

昨日も聞いた、甘くてワントーン上がった声。でも、ダメだよって嗜めるみたいに。小さい子供に言い聞かせるみたいに。

「あーあー、泣かないよ?怒ってないからね?」

「ちがう、わざとじゃ、ない、わかんなくって、」

ダメだもう。自分が何言ってるか、わかんない。お腹痛い。座るのしんどい。

「ちがうぅ…おしっこ、かってにでたっ、ぅひ、」

「おれ、ちがう、くすり、のみたくて、なかった、から、そしたら、おしっこ、っ、」

「んーそっかそっか。痛いのはここ?」

「んっ、」

腕で押さえていた胃の辺りに手が滑り込んで、後ろから、ぎゅって抱っこしてくれて。

「びっくりしちゃったね?勘違いしちゃってごめんね?」

「っひぐ、しごと、いかなきゃ、っておもったら、お腹、いたくてっ、」

こんなの祐樹に言ったところで何の解決にもならないのに。めちゃくちゃ迷惑かけてるって分かってるのに。

「そっかそっか。でもね?しんどい体のまま頑張り続けてたら本当に倒れちゃうよ?」

「たおれたら、しかたないから、おこられない、はやくねつだしたい、たおれちゃいたいっ、」

縋って撫でられたら何故か、心がスーってする。頭がぼーっとして、ふわふわして。

「ちょっと横になろっか。大丈夫大丈夫」

下半身がびしょびしょのまま、膝枕に頭を乗せ、お腹をさすってもらう。

「大丈夫、だいじょうぶ、」

胃の辺りを何度もさすられて、あったかくて。

「力抜いてごらん?肩と、腰あたりも」

「っは、……ふ…」

顔に滲んでいるのは冷や汗なのか、涙なのか。

「しんどいねぇ、吐きそうとかはない?」

「ん゛…」

「倒れてからとか、何かあってから休むんじゃ遅いんだよ?健斗の体はすっごく疲れてるはずなのに、頑張らせすぎ」

「でも、」

「仕事と体、どっちが大事?」

「でもっ、…」

こんなこと言われたら、気づいてしまう。今まで見て見ぬ振りをしていた感情に。もう、戻りたくない。あの場所に行きたくない。

「やめたい…」

こんなこと祐樹には関係ないのに。これは俺の問題なのに。

「しごと、やめたい…」

「ん、俺もその方がいいと思う」

「でもおかね、生活できない、」

「大丈夫。いっぱいあるよ。体さえ元気だったらちゃんとやれる」

「そー…かな…」

全身が重い。力が抜けて、また、眠い。

「お腹ちょっとは落ち着いた?着替えれそう?」

「ん゛ー………ぃ、っ、」

起きあがろうとしたらまた、ジクリと痛んで、思わず押さえてしまう。

「ごめ、もーちょっとだけ…」

「んじゃあタオルとってくんね」

頭にクッションを差し込まれて、数分もしないうちに戻ってくる。


「あ、そのままでいいよ」

「ぇ、」

ズルリ…

いきなりズボンとパンツを脱がされて、押し当てられるふかふかのタオル。

「え、ちょ、まって、」

「ん?」

「じぶんで、それはさすがに…」

「えー、でも昨日もやったんだし今更でしょ。ほらおしっこ残ってない?今のうちに出しちゃいな」

寝っ転がったまま、下腹をさすられる。確かに昨日もしてもらったけど。

「…といれ、…」

「行けないでしょー?ほら、しーしーしちゃいな」

モジモジと太ももを擦り合わす姿で気づいているのだろう。そこそこに質量のあるお腹を押されて、無意識に力の入った出口をタオル越しにぐりぐりと擦られたらもう、我慢できなかった。

「っ、~~、、」

じわじわと滲み出すソレは、どんどん勢いを増して行く。ねっ転がりながら、おしっこ、お漏らししてるんだ。

「はずかしぃ、」

「ほんと、顔真っ赤」

出し切ってぐしょぐしょに濡れた下腿を丁寧に拭き取られていく。性器の裏側も、お尻の部分まで、丁寧に、丁寧に。

「濡らしたのでも拭いとこうか」

「何でそんなにうまいの…」

「え、だって昨日もしたから」

「次から自分でする…きのうのおれ、おかしすぎた…」

「そーだね。だから休まなきゃ、ね?」

にこにこと笑った顔でそう言われると、さっきとは比べ物にならないくらいの説得力。

「お昼は?食べれそう?」

「むりかも…」

「お粥とかは?あったかいの入れた方がいたく無くなるかもよ?」

「ん…んじゃあたべる…」

「食べさせたげるね」

「…いいよ、じぶんで…」

「スプーン持つの、めんどくさくないの?」

「、っ、~、めんどくない、もーほんとにゆるして…」

「ちゃんと休んだらやめたげる」

赤ちゃんにするみたいに、着替えの終わった尻をズボン越しにポンポンされ、体を起こされる。胃の痛みは相変わらずだけど、さっきよりかは幾分マシ。少し気分もスッキリした。でも、顔が熱い。

(熱でたかも…)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ストレスを感じすぎた社畜くんが、急におもらししちゃう話 こじらせた処女/ハヅ @hadukoji

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ