フルーツワンダードリーム / フルーツ萬太郎 作

名古屋市立大学文藝部

第一夜 落ちる

 ある時、このような夢を見た。

 空を落ちている。大の字で延々と落ちており、目の前には青空が広がっている。ふと顔を左右に向け、足の方向を見てみると、そこには崖が、これも延々と広がっているのが見える。気づけば、眼下には素晴らしい景色が広がっている。遠くには山脈が、すぐ近くには青々とした緑色の森が見え、その森の中には空の色を反射したように、青色の水をたたえた湖も見える。その景色はなぜかいつまで時間が経過してもこちらに近づいてくる様子がないが、その圧倒的な風景に目を奪われ、ぼんやりとこの世界でなら死んでもいいや、なんて思い始める。そうしていると、いつの間にかひざを曲げた状態で目が覚めている。

 起きた時にはまだ夜であったので、もう一度眠ろうとするが、再び同じ夢を見る。何度も何度も見ては覚め、見ては覚めを繰り返す中で、ふと気づく。少しずつ夢が変わっていっている。少しずつ地面が近づいてきている。気づけば、青々とした緑の森のうち、特に近い、真下の森が針葉樹林であることがわかってくる。

 ここで、そこはかとなく嫌な予感を感じ始める。一般的に、針葉樹は、主となる枝が上にまっすぐ伸びており、ほかの細い枝はおおよそ横に伸びている。その一方、広葉樹は、それなりの太さの枝が放射状に伸びている。そのため、仮に落ちた場合、枝に何回も当たって、地面には優しく落ちる可能性の高い広葉樹林に落ちた時より、木々の枝で皮膚を切り、傷ができる割にはそのままの勢いで地面に落ち、ひどいけがを負う可能性の高い針葉樹林の方が大変なことになるのではないかと考え始める。

 嫌な予感はある意味最悪の形で的中する。たくさんある針葉樹のうち、一本の主だった枝がのど元に刺さるように落ちていることに気づく。まずい、このままではのどに枝が突き刺さって苦しみながら死んでしまう、と考えて自分は身をよじろうとしたり、体を曲げようとしたりして、のど元に枝が突き刺さって死ぬという結末を回避しようとする。しかし、結局体は大の字のまま動くことなく、枝の切っ先がのどからおよそ十センチとなり、ああ、このまま死ぬんだな、とあきらめにも似た感情を抱き、死ぬ結末を受け入れようとしたところで、目を覚ました。

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