第2話現代に転生
間宮誠33才。
前世のユリウス・フォングレインの記憶を持つ日本人だ。黒髪、黒目に普通のモブ的な見た目。美形だった、ユリウスには、似ても似つかないが、確かに俺がユリウスだった。
最初こそ、前世の記憶のせいで、混乱する事もあったけど、今では、立派な企業戦士として、日夜働いている。
普通の日々を普通に送る、平凡な人生だけど、それはそれで、毎日楽しくやっていけている。
中学生くらいの時、前世の世界と酷似した小説を見つけた。主人公は、勇者シオンという知らない人物だったが、ユリウスやルシル、俺を殺した親友など、見知った人物が出てきた。
その時、もしかして、あの世界は、小説の中の世界だったのかも、しれないと思い、15巻出ている小説をなけなしのお小遣いを全て投入して、一気読みした。
恋愛あり、バトルあり、友情ありのなかなか面白い物語だったが、ユリウスに心を開いてからは、明るい少年だったルシルが、大人になると(氷結の魔法使い)と呼ばれ、敵はもちろん味方からも恐れられる人物になっていたのが、少し心配だ・・
まぁ、本当にこの小説通りに世界が進んだかは、解らないか。
そっくりな物語だけど、似ているだけの可能性もあるし。
さて今日も、いつも通りの1日が始まる。
会社員の俺の朝は早い。
眠い目を擦りながら満員電車に乗ること30分、途中で買ったホットコーヒーを片手に自分のディスクにつく。
「さて、今日も頑張りますか」
カタカタとパソコンと向き合う事、数時間。
「先輩、そろそろ休憩にしませんか?」
同僚の、河野に声をかけられた。
「おっと、もうこんな時間か、そうだな昼飯でも食べに行くか」
う~~~んと、伸びをしてずり落ちた眼鏡を直した。少し、集中しすぎていたみたいだな。
「今日は、どこに食べに行く?」
「そうですね、鈴木さんが、新しく出来たパスタの店に行きたいそうなので、皆で行きませんか?」
パスタか、しばらく食べてないから、たまにはいいかも。なんだか、急にお腹が空いてきた。
「いいね、じゃあ行こうか。」
同僚たちと連れだって歩きだす。
オフィスを、出ると昼食時だからか、そこそこ人がいっぱいいる。
「間宮先輩、今から行くお店ナポリタンが人気らしいんですけど、何食べます?」
「そうだな~~~人気なら、取り敢えずナポリタンでもいいけど、ランチメニューとかでもいいかもな」
会社のアイドル的な存在、鈴木菜摘と雑談しながら、歩いていると、急に周囲が騒がしくなった。
「た、助けてくれ」
「きゃーーー!!!!!」
大勢の人がなぜか急に俺たちの方に向かって走ってくる。いったい、何が起こってるんだ?!
突然のパニック状態に、驚いて、一瞬迷いが生じる。
「お前だけは、許さない!」
男の怒声が響き渡る。鈴木菜摘に向かって、男が迫る。男の手には、包丁だろうか刃物が握られている。
俺は、とっさに菜摘を庇うように前に出た。
ドザッという音と共に、腹に感じる熱い熱。
恐る恐る、手をやると、大量の血が。
なんだろう、痴情のもつれかな・・・
巻き込まないでほしかったな・・・
不思議と痛みも恐怖も感じない。
二回目だからだろうか。
目の前の、男が、「あ、あ、あああ、、、、」と言葉にならない声を、あげながら後ずさる。
徐々に霞む視界に、俺は膝をついた。
「そ、そんな先輩!先輩!!!!いやー!!!」
菜摘の叫び声が聞こえる。
「と、とにかく救急車を!早く!」
襲ってきた男は、河野たちに、取り押さえられたみたいだ。
取り敢えず、菜摘に被害が及ばなそうでよかった。
ゆっくり倒れる体を、菜摘がとっさに支えてくれたようだ。
でも、もう力が入らない。
ああ、この世界でも俺は死ぬのか・・・
まだ、恋人もいないのに。
母さん、父さん、妹の幸乃、ごめんな。
もう少し、生きていたかったな。
暗くなる視界。
俺は、二回目の死を迎えた。
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