第31話 「そろそろ決断の時なのよ」

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 あれ……そういえば、お婆ちゃんやルナ姐が居る"河の向こう"でも、俺は肉を喰ったな。


 確かあれは、"河の向こう"でお婆ちゃん達が『メガミさま』と呼んでいる人がくれたんだった。


『メガミさま』は、いつもは"河の向こう"の空の上にある大きな白い家に住んでるんだけど、時々その家からオレたちが住んでる場所……河があって草がいっぱい生えててとにかく平和な場所に降りてくるんだ。


 そして、"河の向こう"に住んでる一人を選んで自分ん家チに連れていくんだ。


 そうだ……あの日はオレだった。

 メガミさまにオレが選ばれたんだ。

 んで、『おもてなしよ』とメガミさまが肉を出してくれた……それから、肉を食べて……そうだ!

 メガミさまが言ったんだ!


『ラッピーさん、あなたも天国に来て10年。そろそろ決断の時なのよ』


 って。だからオレは聞いた。


『決断の時ってなに?』


 って、そしたらメガミさまはこう言った。


『天国に上った魂は10年経つと選択をしなきゃいけないのよ』


 って。だからオレは聞いた。


『回りくどい言い方しないで。オレ分かんない。選択ってなんなの?』


 って。すると、やっとメガミさまは詳しく教えてくれた。


『ラッピーさん、天国に上った魂は、10年経つとね。、それとも……どちらかを選ばなければならないの』


『新たな命を得て生まれ変わる? それってゲカイにまた戻るってこと?』


『そうよ。下界に降りて新たな人生を歩むのよ』


 オレは『ゲカイ』って言葉は知っていた。お婆ちゃんがよく『ゲカイのサトシやナオミは元気そうね』って雲の隙間から下を覗いて言っていたから。

 あっ、ナオミってオレのママの名前ね。

 オレもゲカイを見るのは好き。みんなの元気な姿が見えるから……でも……


『ゲカイかぁ……それって、またいつかは死ぬってこと? 嫌だなぁ、死ぬのってツラいよ。苦しいし、怖いし。オレ、このままが良いな! おばあちゃんもルナ姐も居るし! こっちの方が楽しいぜ! それに、いつかはママもサトシもこっちに来るんだろ?』


『そうね……いつかはね』


『じゃあ、こっちが良い!』


『それがラッピーさんの選択?』


『うん!』


『でも、あなたのお母様やサトシさんには生まれ変わると会えるのよ?』


『それはこっちに居ても同じでしょ?』


『そうねぇ……分かりました。それでは、どうしましょうかねぇ』


 メガミさまは突然眉間にシワを寄せて顎に手を置いた。

 人間が考え事をする時の仕草だ。

 こんな仕草を見るとオレは聞きたくなる。


『どうしたの?』


 って。

 オレが質問をするとメガミさまはこう答えた。


『ラッピーさんが最有力だったものですから、それではどの魂に転生して頂こうかと思いましてねぇ……』


『他には10年経った魂はないの?』


『う~ん……あるにはあるのですけども』


『だったら何でも良いじゃん』


『う~ん……そういう訳には』


『いかないの?』


『いかないという訳でもないのですが、そうなるとサトシさんととなってしまいますのでぇ』


『サトシに縁の浅い? なにそれ? サトシがどうかしたの?』


 こう言ってオレが聞くと、メガミさまは


『あぁ~~そうだ。言い忘れていましたねぇ』


 とのんびりとした口調で言った………まぁ、メガミさまはいつものんびりとした口調なんだけど。更にのんびりとした口調でね。


『サトシさんの所に、そろそろ子供が生まれるのです。私は、その子供になる魂を探しているのですよ。ですから、サトシさんに縁のある魂を探しているのですがぁ……ラッピーさんに断られてしまいますと、もう縁のある魂はなくなってしまいますのでねぇ……困っているのです』


『おばあちゃんとかルナ姐がいるじゃん。おじいちゃんも。三人に聞いてみたら?』


 オレが軽く言うとメガミさまは首を振った。


『そちらのお三方は既に選択をされた魂です。天国に残る選択をね。なので、もう生まれ変われないのです……それにぃ、サトシさんのお嫁さまのハルカさんに縁のある魂にも、選択の出来る魂はありませんし……』


 メガミさまはジトっとした目でオレを見る。


『いや、だからぁ、オレはもう一度死ぬのは嫌なの。怖いし、痛いし、嫌なの』


『それでは……サトシさんに縁の浅い魂を探さねばですね。縁の浅い魂ですと不幸な運命が待っているんですけども……』


『え? 不幸?』


 オレはなんか嫌な言葉を聞いた気がした。


『それって、幸せじゃないってこと? なんで?』


『悪魔が人生を邪魔してくるからです』


『悪魔が人生の邪魔? なんで?』


『悪い奴らだからです!』


『いや、だから。何で邪魔しに来るの?』


『それはですね。魂が縁の浅いご両親のもとに転生されますと、その魂の蓄積レベルはレベル1にリセットされてしまうからです。レベル1の魂は弱い。特に防御力が! だから悪魔が近寄ってくると、すぐに人生に干渉されちゃうのです!』


『う~ん、何かよく分からんなぁ』


 オレは説明を受けても結局メガミさまが何を言ってるのか分からなかった。意味不明だった。


『それじゃあサトシの子供は不幸になっちゃうの?』


『そうです。このままでは縁の浅い魂が転生する事になりますので』


『それは可哀想だよ。何とかならないの?』


『なりません! それがルールなのですから!』


 何故かメガミさまは胸をはった。


『そ……そう、ルールね。嫌なルールだな』


『でも、ルールなので』


 メガミさまは繰り返す。


『そっか……』


 それからオレは思った。


『ねぇ? 不幸な人生を歩むのは、死ぬ間際に怖くて痛いより可哀想だよね?』


『そうですねぇ。生まれてから死ぬまでずっと不幸ですからねぇ』


『それは可哀想だ』


『そうです。そして、サトシさんたちご両親もですね。子供が不幸だと親も幸せじゃないですからね。ですが、子供が幸せだと親も幸せ……ラッピーさんが生まれ変わるのなら、サトシさんと縁が深いので、悪魔に人生を邪魔されはしないでしょうから、きっと子供も親も幸せですねぇ』


 また……メガミさまはジトっとした目付きでオレを見た。


『ねぇ? なんかそれ、嫌な威圧感があるんだけど。オレに選択を変えろって言ってきてない?』


『いえいえ、私は中立の立場。あなたたちの選択を変えようとなど考えませんよ!』


 再びメガミさまは胸をはった。


『嘘っぽいなぁ……変えようとしてきてる気がするなぁ』


 オレはボソッと呟いた。

 でも、この時オレは自分自身で決めていた。


『まぁいいや。不幸な人生を歩む子供なんて見てられないや。多分、こっちに残るおばちゃんやルナ姐も見てられないって思うと思う』


『こっちに残る? ……それって?』


『うん! オレ、決めた! 生まれ変わるよ! サトシの子供が一生不幸になるくらいだったら、死ぬ間際の怖いと痛いは我慢する!』


『そうですかぁ!!』


 メガミさまはオレが選択を変えたのが嬉しいのか大きな笑顔を見せた。


『うん。オレが生まれ変われば、サトシの子供は幸せな人生を歩めるんだろ? だったらそうするよ』


『そうですか! そうですか! ……って、ラッピーさん、あなた第三者目線でサトシさんの子供が幸せになれるなら……と言いますが、生まれ変わったらあなた自身がサトシさんの子供になるんですよ。分かってますか?』


『分かってるよ。分かってるけど、オレはまだオレじゃん。そういう言い方になるでしょ?』


『そうなんですか。不思議ですね』


『うん、オレも不思議。……で、生まれ変わるにはこれからオレは何をしたら良いの?』


 こうオレが質問をすると、メガミさまは『ふふん!』と笑って、オレに一枚の紙を差し出した。


『なにこれ?』


『地図です』


『チズ?』


『そう。下界への道の地図です!』

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