第29話 「ラッピーが天国から戻ってきた理由!」

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「ハハハハハハハハッ!!」



「もう……笑わないでよ!!」



「ごめん、ごめん。違うんだって、からかうつもりじゃないの、安心したの!」



「あっそ! もっかい笑ったらぶっ飛ばすからね! ねぇラッピー!」


「ワウッ!!」



 俺たちは、二人と一匹で炬燵を囲んでいた。

 ハルカとは久々の一緒に食べる夕飯だ。

 相変わらずハルカの作る飯は旨い! 最高だ!


 ラッピーは俺達とほぼ同時に食べ始めたのに、お皿の中のドッグフードはとっくに空になっていて、炬燵にアゴを乗せて俺達の夕飯を羨ましそうに見ていた。



 あ、そうそう!


 あの日、あれからどうなったかを語らないとな、あっちょっと待ってくれ、ハルカが話し掛けてきた。



「私、救急車乗ったの初めてだよ……」


「あぁ俺も初めて呼んだ!」


「何それ、嬉しそうに……」


「いやいや、そんな事無いって! でもさ、まさか便秘薬であんな事になるなんてなぁ」


「うん……」


 ハルカは頷いた。


 そうなんだ。


 ハルカはあの後、救急車で運ばれた。


 あの日……とさっきは言ったが、それは一ヶ月前でも一週間前でもない、つい昨日の話だ。

 昨日、俺はハルカを見付けると、その異常事態にすぐに気が付いた。

 俺は慌てて救急車を呼んで、ハルカは病院に運ばれた。



 昨日のハルカに何が起こったのか……


 それは病院の先生曰く


「便秘薬……ですか。う~ん、じゃあソレですね」


「それ?」


「はい、便秘薬にはね『浸透圧性』と『刺激性』と種類が二つあるんですよ。で、あなたが飲んだのは『刺激性』」


「刺激……性ですか?」


「そうそう、簡単に説明すると『刺激性』っていうのはね、その名の通り、腸に刺激を与えて腸の動きを活発にさせる事で排便を促すんです。ですがぁ、稀に腸への刺激が吐き気や腹痛になる事もあるんですねぇ。意味……分かりますか?」


「はぁ……まぁ……」


「旦那さんは? どうです?」


「あ……はい、大丈夫です」


「うん。まぁ、もっと簡単に言えば副作用ってヤツですよ」


 先生は俺達夫婦の心配とは真逆に、飄々としていた。

 よくあるヤツ……って事なのかも知れない。


 その後ハルカの腹痛は治まって、『浸透圧性』の便秘薬ってのを処方してもらい便秘も解消された。


 それから病院から帰った頃にはもうとっくに日付は変わっていた。

 俺もハルカもクタクタになってた。


 とにかく何事も無くて本当に良かったと思う。


 体の細いハルカだ、体もあまり強い方じゃない。『救急車を呼んだ』とさっき軽く言ったが、通報時の俺は『ハルカが何か大きな病気になってしまった』と思い込んで、慌てふためいてしまった……ってのが本当だ。



 でも本当、何事も無くて良かった。



 因みに俺達が病院に行っている間、ラッピーは俺達と一緒に病院……って訳にも行かず、救急隊員の方の提案で近くの交番に預けていたんだ。


 迎えに言ったときのラッピーは、辟易としているのが良く分かる何とも言えない表情をしていた。


 俺はその顔を思い出すと、

「ふふっ…」

 と笑いがこみ上げてきた。


 俺が笑うと、笑われたのが分かったのか

『なんだ?』

 と言うような顔をしながらラッピーが俺の顔を見た。

「へへ……」

 俺はもう一度笑うと、ラッピーの頭を撫でてやった。


 笑ってごめんな、でも俺は昨日のお前の勇敢な顔も忘れちゃいないぞ。


「でもさ、あの時ぶぶちゃんが駆け付けてくれて本当に助かった。ありがとう」


 ハルカは口の横についたケチャップを舐めながら俺に言った。

 それに俺は『いやいや』と手を振って応えた。


「それなら、早退させてくれた鈴木さんに礼を言うよ」


 昨日の夜は、ハルカが前日なんか変だったから言い訳を作って早退させてもらったんだ。

『遅番二人だし大丈夫だろう……』って思ってさ。


「早く帰れなかったら、あの時間俺はまだ仕事してた。ハルカがあんな事になってるのも知らずにさ……」


「そっか」


「うん。でもさ、一番の礼を言わなきゃいけないのは………コイツだ!」


 俺はラッピーを抱っこした。

 コイツがいたから、コイツが俺を呼んでくれたから、ハルカは大事にならずに済んだんだ。


「ありがとう! ラッピー!」


「ふふ……」


 ハルカも笑った。そして、ハルカは言った。


「……ありがとう!ラッピー!」


「どうだ、ハルカ?ラッピー可愛いだろ?」


「うん! 大好き!」


 満面の笑みだ。


「良かった……」


 俺はその一言に安心した。


「……それでさ、俺分かった気がするんだ」


「なにが?」


「ラッピーが天国から戻ってきた理由!」


「戻ってきた理由?」


「あぁ、きっとコイツはハルカを助けるために天国から戻ってきたんだ! な、そうだよなラッピー?」

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