第55話 伝説との邂逅




「……と対をなす精霊種…」


「怪…を束……あー、もうだめや。埒があかんわ」


アガスは限界だとばかりに地面に倒れ込んでしまった。


「うーむ、どれも有意義な情報ではあると思うのだが……いかんせん、肝心なところだけが読めないのはいかがなものか」


流石のハリムも、この石碑観覧会には飽き飽きしてきたらしい。そして仲間の魔物たちはあまりにも暇すぎたようで、暇つぶしとばかりに先に進んでいってしまった。


「とりあえず、この石碑たちは一旦置いておいて、先に進みませんか?もしかしたら奥にちゃんと見れる石碑などがあるかもしれませんよ」


「そうやな。とりあえず奥まで行って、何もなかったらここまで戻るっちゅうわけや」


全ての石碑を見るのに1時間ほどかけ、ようやく彼らは先へ進むことを決断した。


…そして、その頃には既に仲間モンスターたちは最深部まで到達していた。





「あれ、君たちどないしたん?」


アガスたちは20分もせず最深部まで辿り着いた。仲間の魔物たちが既に敵対してくる魔物を一掃していたため、アガスたちはかなりスムーズに最深部まで辿り着けたのだ。


「キュー!」

「ゴァー…」


何やら仲間の魔物たちは不服そうな鳴き声をあげている。ハリムは一体彼らに何が起きたのか推測し…すぐに正解へと辿り着いた。


「ここから先に入れないのか?」


「グォ」


正解だ、とばかりにマティスが頷いた。

少し入り口は小さめだが、それでも問題なく入れるはずだ。では何故入れないのか…


「俺は入れたんやけどなぁ…」


「私も行けるかな……あ、入れました!」


アガスやアリサは問題なく入ることができた。


「ッ!!」


なぁに、彼らが入れるなら私も入れるはずだとばかりにメアリが入り口へ向かってダッシュした。


「待て!それはダメだ!」


ハリムの警告も虚しく、メアリは見えない壁………あえて言うなら、【結界】とでも言っておこうか。


メアリは結界に激突した!


「あぁ…遅かったか…」


メアリはまるでタンスに小指をぶつけたかのような痛さに見舞われ、痛さに悶え飛び跳ねている。



「俺は…入れるか。となると……オリオン、お前はどうだ?」


「モヒ」


オリオンはメアリの二の舞を踏まないように、少しずつ入り口へと近づいていった。すると…


「モヒ…」


「やはりダメか」


「あら、オリオンくんも入れないん?じゃあ…」


アガスとアリサも正解へと辿り着いた。

そう…


「どうやら、ここの洞窟の主は俺たちだけをお望みらしい。意図は不明だがな」


そこに何がいるのか、何が目的なのかはハリムにもわからない。ただし、洞窟の主はアガス、アリサ、ハリムの3人だけをご所望している、ということだけは理解できた。


「…ちょっと変ですね、静かにしててください」


危険な魔物が多くいる洞窟の主なのだから、自分たちだけじゃ勝てない可能性が高い。引き返そう、とアガスが提案しようとしたそのときだった。


アリサが、異変に気付いたのだ。


「魔力の流れが……もしかして、これって。これはしてやられましたね…」


「一体どうしたんや?相談乗るで」


アリサが頭を抱えて悩み出した。

悪寒が、彼ら三人を襲う。


「入り口に入ってしまった時点で失敗でした。これ、私たち引き返せなくなってますね」


「しまった…!」


ハリムが目を見開く。普段の彼なら、閉じ込められる可能性にも気づけたというのに。

彼の頭の中は、石碑に書かれていたことを考察しているうちにぐちゃぐちゃになってしまっていた。


「…仕方ないわぁ。でも、意外と何とかなるかもしれへんで?なんてったって、俺たちみんなレベル90超えてるんやし。そんな苦戦することもないやろ」


アガスは場の空気を少しでも和らげるためにそう話す。だが、彼らがレベル90を超えている、というのは事実だ。そんじょそこらの強敵なら、苦戦はすれども倒すことは問題なくできる。


問題は、この洞窟の主の強さは周りと桁外れていた、という点だ。





「マチカネタゾ。ワレハ…調停者、トデモナノッテオコウカ」


アガスたちが進んだ先…そこは緑の美しい結晶がまばらに植えられ、光っていた。

入り口とは比較にならないほど広大な領域であり、ファルドですら余裕で入れるほどの高さ。

この領域は…世界で最も美しい場所、と言っても過言ではない。


そして、その領域に一人佇んでいたのが…


「うわぁ、なんかすごいの出てきたやん」


美しいエメラルドグリーンの結晶を等間隔で体に生やしている、ドラゴンのような頭をした白色の巨大猿が待ち構えていた。その大きさは、ファルドにも匹敵する。


「まずいな、こりゃファルドレベルじゃないと勝てないかもしれん」


ハリムが冷や汗を掻きながら、そう言った。だが…その判断は甘い。甘すぎる。


「いや…こりゃファルドでも勝てないかもしれへん。なんなら、ミナトの魔物を総動員させてようやく勝てるかどうか…それでも怪しいわ」


そう、目の前の巨大猿は…この世の理を超過した化け物である。


アガスは本能でそれを理解してしまった。


「無駄話ハイラヌ。オマエタチノツヨサ、見セテミヨ」


その巨大猿…この書き方は不適切だ。


その【調停者】は、鉄拳を地面へと叩きつけ、アガスたちに向かって飛びかかってきた!

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