第54話 石碑は何を伝えているのか


「グガガガガガ!」


「ッ!」


ワーウルフの上位種、マーダーガルム。

マーダーガルムは二足歩行をする巨大な狼で、その屈強な体から繰り出される剛腕は岩をも軽々と砕いてしまう。


メアリが相対しているのはまさしくそのマーダーガルム……正確に言うと、クリスタルマーダーガルムか。

いくらメアリの甲羅が硬くても、彼の攻撃を喰らって仕舞えば大ダメージは免れな…


おや?


「グガ…グガ!?」


「——ッ」


メアリは耐えてみせた。ただのメガドロなら一瞬でぺしゃんこにされてしまっていたに違いない。だが、メアリは耐えた!

メアリはノーダメージかのごとくすました顔を……違う、少しだけ痩せ我慢している。


「ッ!」


「グガ!?」


メアリはその鈍重な体に見合わぬ飛びかかりを見せて、マーダーガルムを地面へと打ち倒した。そこを…


「モヒ!」


暗黒の鎧を身にまとったオーク、オリオンがマーダーガルムにとどめを刺した!


「グガ」


マーダーガルムは倒されると同時に光の粒子となって消えていった。


「今更やけど、ここの魔物って倒されたらなんでか光の粒子になるんやよな。なんで?」


アガスは襲いかかってきたクリスタルケルピーにとどめを刺した後、そう疑問をこぼした。


「わからん。わからないが…時々、魔物を殺すと死体が残らず黒い霧と鳴って消えることがある。それと似たようなものではないか?」


「そうかなぁ…?まあ、そうやな」


アガスは先ほど倒したケルピーが光の粒子になっていくのを見ながら、そう言った。納得はできていないが、今はそれよりも大事なことがある。


「ふぅ、なんとかゴーレム倒せましたよー!」


「ヒョロロー!」


硬くて厄介だったクリスタルゴーレムは、アリサとアルタイルの連携によって倒されたようだ。

アルタイルがクリスタルゴーレムを掴んで身動きを取れなくし、アリサが魔法でゴーレムを壊す。硬くて厄介なゴーレムも、この戦法の前には抵抗すらできず撃破されるのだ。


「よくやったわ。ゴーレム系は魔法じゃないとほぼ倒せへんからな」


防御力に極振りしたマジックゴーレムは例外だが、基本的にゴーレムは魔法にめっぽう弱い。魔法使いでないと倒すことは不可能とよく言われている。


安全を確保した彼らには、もうひとつだけやるべきことがある。それは…


「この大量の石碑の調査せぇへんとな」


この神秘的な洞窟の中に閉ざされているその石碑たちは、一体何を伝えようとしているのか。その解明をせねばならない。







「これは…なんと」


「ハリム、そっちになんかあったんですか?」


大量の石碑こそ置かれてはいるが、その全てが全てに何か書かれているというわけではない。何も書かれていない石碑も少なくはないのだが…


「この石碑によると…どうやら、アカタキは元々あんな砂漠じゃなかったそうだ」


「何やと?」


「ふむ…元はグラウゼリアという名前の国だったようだ。緑豊かだったが…4000年前に…?すまん、ここから先は読めない」


「4000年前って何かありましたっけ?」


仲間モンスターたちはポカンとしながら彼らの会話を聞いている。元々、彼らは野生の身だった。アガスたちが話していることについてわかるわけがない…


「4000年前の伝承なぁ……あー、昔絵本で見たことあるかもしれん」


アガスは一呼吸入れて話し始めた。


「4000年前、この世界を未曾有の大厄災が襲ったらしいんよ。その大厄災が何なのかは未だ不明やけどな?で、それを何とかすべく立ち上がったのが創造神ラジャムサ、精霊王ソテス、伝説の弓使いエンセス、英雄ガンベル、大天使ルシエルやったんよ。ハリムは知っとるやろ?」


「あぁ。伝説の弓使いエンセス、彼に憧れて弓使いとなった身だ。それくらいは知っている」


彼、ハリムは元々孤児だった。同じく、エンセスもかつては孤児であったようだ。孤児だったハリムは、同じく孤児であったエンセスに親近感を抱いた。そして、エンセスから希望を貰ったのだ。


「エンセスさんですかー。それは聞いたことがあります。確か大悪魔を五体同時に相手にしたのに、特に苦戦もせず返り討ちにしたことがあるとか」


「そうだ。エンセスは他にも、数々の伝説を残している。いつか手合わせしてみたいものだ」


ハリムは恍惚とした表情でエンセスについて語る。これ以上エンセスの話をするのは危険だと判断したアガスは、別の石碑を見てみた。すると…


「なんやこれ。*・:リ#の魔龍ホ%ク€*はまだ生きている…あーだめや、読めへん」


その石碑には、恐ろしい風貌をした魔物の絵が描かれていた。他には人間や巨大な猿のようなものも描かれている。


「gjptジpwggwtaは死んだ。封印をするしかない、とこの石碑には書かれているが…ダメだな。肝心なところが読めない」


「こっちは…どれどれ。元々、…界は天…と同じだった。だが、奴の放つ…気によって地獄と化したようだ。切り離したおかげでなんとか被害は減らせたらしいが…ですって」


「悪夢に気をつけろ。この世界が滅びるのを見て笑う、真の悪魔。…したが、悪夢の拡大は止めれなかった。劣等感や傲慢さ、残酷さ、全てを増幅させ…それを止めるには、$$¥°*…」


「悪夢と同じ原理だからか、差別が止まない。違う、これは洗脳ではない。……の…つ善良さを取り戻し悪夢から保護するためのも…」


連なる石碑たちは、一体アガスたちに何を伝えようとしているのか。

疑問は深まるばかりだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る