第30話 絶望

頂点捕食者。それは、どこの地域にもいるものである。ある砂漠では、そこまで珍しくもない砂漠鰐が頂点捕食者だったこともあるらしい。しかし、この草原は異質すぎる。


「——」


黒く、青い目の狼…

山脈から迷い込んできた外来種が、ずっとこの草原に頂点捕食者として鎮座しているためだ。この草原に少ないながらも生息しているブラッドタイガーもアレには喧嘩を売らなかった。理由は単純、敵う相手ではないから。



「?」


見たことのある小僧だ。この鼻が、あの小僧のことを覚えている。いつだったか……ああ、5か月前にこの草原にいた奴ではないか。私があの小僧の連れている仲間を食べるため殺したのに殺した瞬間黒い霧となってなくなってしまったのはまだ覚えている。この恨み、晴らさせてもらうとしよう。


キラーウルフはちっぽけな人間に向かって走り出した。


ああ、あの小僧は噛み付いたらどんな悲鳴をあげるだろうか?切り裂いたらどんな肉だろうか?小僧の血は美味なのか?どんな命乞いをするのか?ああ、気になる。結果が気になる。教えてくれよ。なあ、教え



「出てこいファルド、お前の力を見せてみろ!」


残虐な狩人は突如現れたなにかに吹き飛ばされた。ええい、忌々しい。なんだというのだ。この活き造り、あまりにも新鮮すぎる。少し痛めつけてやらねばな。私はレベル41。この草原で負けなしの存在だ。


私は起き上がって小僧にまた飛びかかろうとした。だが…



「「「シャー!!!」」」


私など比べものにならないほどの大きさの五つ首の蛇が、襲いかかってきたのだ…!




絶望、それは絶望だった。なぜだ。なぜだ。なぜだ。故郷では確かにありふれた存在だったかもしれない。確かに、普通の存在だったかもしれない。そこらへんの群れに所属していたはずだ。だが、その普通な生活はある魔族によって変えられた。私を特別な存在としたのだ。


「ほらほら、こっちに来るんだ!そうすれば君も無双できる」


私を評価することのできない愚かな故郷から、私を正しく評価できているこの草原まで誘導してもらったのだ。羊頭にコウモリの羽の魔族だった。


「あと1か月で異世界から勇者が呼ばれるんだったね!…剣の勇者なら、殺しておくれよ?」


確か、その魔族は去り際にそんなことを言っていた。



ああ、この蛇と薄汚い小僧は私からこのエデンを盗もうというのか。許さないぞ。死んで、化けてやる。いつか、復讐する。殺す。殺す。ころ


巨大な怪物に噛みつかれた狼は血飛沫を上げ呆気なく命を潰した。



—いつか必ず、殺してやるからな。





「一瞬で終わったな」

「「「シャー!」」」


にっくきキラーウルフにヒュドラのファルドをけしかけてついに復讐を果たした。自己主張するファルドを褒めたあと杖の中に戻した。ちなみにヒュドラとかケルベロスみたいな多頭種は真ん中の頭だけが意思を持つらしい。他の頭はただ目と牙と鼻と顔があるだけの手足みたいなもんだとか。


「帰るか」

「ニャン」

この草原の出身であるメアリ、オリオン、ブライガー、キジクジャクを杖から出して街へと帰ることにした。彼らにとってはここが故郷だし、俺もここから冒険を始めた身だ。彼らといろいろ雑談をしながら街へと帰った。



「キラーウルフの討伐、確かに確認致しました。それでは、この袋をお取りください」


全く討伐報告が出ないから報酬が銀貨100枚から銀貨150枚になったのかな?まあともかく、銀貨150枚を貰った。


「うーむ、インフレが進みすぎてもらってもあんまり嬉しくないな……」


クロツバサの報酬など、最近は金貨もそこそこ稼げてるので今さら銀貨はあまり…


「確か討伐報告をしても魔物使いであることを晒さないといけなかったからあのキラーウルフは討伐せずに放置してたんだよな」


昔は魔物使い差別がひどかったからな。仲間がいる宿屋へと向かいながらそう独り言を言う。ちなみに今日明日はここラグナロクに泊まってしっかり休むつもりだ。バカンスってわけ!…おっと、失礼。


「まあぶっちゃけアカタキにすぐ行ったからあの時別にキラーウルフ討伐してもよかった感はある」


報酬だけ受け取ってさっさと亡命でよかったかも。帰国するかもしれなかったからやらなかったんだけど結局帰国しなかったし。


そんなことを考えていたら、いつのまにか宿屋に到着してた。ちょっとだけアガスたちと雑談したあと、俺は自分の部屋で寝た。正直宿屋に毎回お金払うの嫌だし自分の本拠点作りたい。だが、そんなことよりも。


明日は俺が待ち望んでいた、休日なのだ…!!!


今まで戦力増強とかクロツバサ討伐とか考えてて本当に休みらしい休みがなかったからね。少なくとも、丸一日休めることなんてなかった。


「おやすみまいわーるど」


まだ何の予定も決めてないが、明日はとびっきり楽しむぞ!




翌日。寝坊した。今、だいたい15時くらい。寝過ぎた。おわった。俺の休日は

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