第13話 砂舞う決闘

流石に街中で決闘をするわけにはいかないので俺は剣聖に広間に移動するよう言った。


「もちろんだ。偉大なる剣聖様が民衆を巻き込む恐れのあることなど、するかと思うか?」


やべぇ。こいつ、昔のファラク並みに傲慢かもしれない。俺は1体だけ残し、他の仲間を全部杖に入れた。


そして、広間へと移動すると。


「いいぞー剣聖!やってしまえ!」

「あいつ元から調子乗ってて嫌いだったんだよ!やっぱり俺たちの正義の味方だな、剣聖!」


うげ。流石治安の悪い街だ。てか、俺の評判ってこんな感じだったのかよ。悲しすぎるわ、まじで。なんで聖人の塊のアガスパーティーはこんなところ拠点にしてんだよ。


「そういえばアガスたちは…あ、いた」


勝手に俺の公開処刑だと決めつけ盛り上がる冒険者たちを嫌悪感を隠せない目で見ていた。何あれ、こわ。


「ほら、貴様の使い魔を出すといい」


「使い魔やめろ、仲間だ」


俺はブライガーを出す。


「ニャ"!」

どうやらブライガーもこの傲慢な剣聖に苛立ちを覚えているらしく、力強く大きな声で鳴く。


「どうした?それだけか?」


「ハッ!お前程度、こいつらだけで勝てるわ!」


それを挑発と受け取った剣聖がますます表情を険しくさせる。だが本当にこれで十分…いや


これじゃないとダメだ。


「それでは、はじめ!」

名前すら知らない冒険者が審判となる。俺が知ってる冒険者はアガス、サフン、ハリムとアリサだけだ。まあ一応、アキラも入れといてやるか…


「はぁ!!雷鳴斬り!」

いきなり襲いかかってきた!あとエフェクトかっこよ!


ブライガーが軽快な動きでその斬撃をかわす。ブライガーはうちの陸上生物の中だと機動力がダントツで高い。その程度の攻撃くらい、難なく避けることが可能だ。


「ファイアスラッシュ!ドレインブレイク!」


剣聖が次々と斬撃を放ってくる。悲しいかな、それらは全く当たっていないのだが…


「どうしたの魔物使いー!?逃げてばっかじゃないのー?」


がははと笑い声が聞こえてきた。うぜぇ。メアリでも出して消し炭にしてやろうか。


「ただ確かにずっと攻撃していないのは流石に怪しすぎるか」

別に攻撃なんて与えなくてもいいんだが、まあちょっとくらいは与えておこうか。


「ニャ!」

真紅の獣の爪が剣聖を襲う!が、しかし

「甘い!」

剣聖に剣で弾かれてしまった。ほーん、まあ、その反射神経は褒めてやるわ。


「こちらも反撃させてもらおうか!風神刃!」


ブラッドタイガーは難なく剣聖の攻撃を避けてみせる。しかしこの剣聖


「弱すぎる」

「は?」


こいつは本当に剣聖なのか?腕前が明らかにまだまだ未熟すぎる。


「貴様、今の言葉はどういう意味だ!」


あ、やば。聞かれてた。いや待て、今こそチャンスってわけだ!


「防御は上手いが、攻撃が弱すぎる。なんかこう、必殺技とかないんですか?」

嘘は言ってない。この世界の人間の平均レベルと比べたら防御は上手い方だと思うよ。


「俺の攻撃を避けてばっかだったくせに…まあいいだろう。実際、俺も貴様に攻撃を当てれていないわけだしな。必殺技を見せてやる」


待ってました!


「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


なんか力溜めてる、今だ!


「食らえ、竜王激烈…」


「やれ!ファラク!」


地面から砂埃をあげて巨大な砂漠鰐が出現する!


「な!?」


「喰らいつくすんだ!」

「ゴァー!!!」


かつての自分と同じように傲慢な剣聖。ファラクは狙いを定め、その愚かな剣聖に飛びかかる!


「な!?痛い痛いいたいいたい!助けてくれ!助けてくれ助けてたすけてたすけて!」


手加減するように事前にファラクに伝えてあるからそこまで痛くないはずなんだけど…そりゃそうだ。魔物使いが非がこちらにないとはいえ剣聖を殺してしまったら大問題だ。なので手加減させてあるのだが…こいつ、本当に剣聖か?


「ファラク、もういいぞ」

「ゴァ!」


解放されたときには、剣聖は涙目だった。ボロボロではあるが、まあ命に別状はないはず。野次馬冒険者はみんな剣聖の悲痛な叫びに恐怖を覚え、逃げてしまったみたい。アガスたちだけはそこに残っていた。…ちょっと引いてたけど。


「そりゃ、イラつきはしてたけどな?ここまでやるとは思わなかったわぁ」


「あたし、あの人怖い…」


だいぶ引かれてた。

…それはともかく。


「剣聖、これで勝負ありだな。とっとと祖国へ帰れ!」


そう言ったのと同時だった。


「お前たち、何をしている!?」


金髪で髭の生えたガタイのいい男がやってきた。あれ、もしかしてこれ


あいつのお父さんみたいなこの人が本当の剣聖だったりする?

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