第7話 星をも見下す
砂漠鰐は戦士の男に飛びかかろうとした。しかし、それは横から飛び出してきた真紅の虎により妨害され、失敗した。
「俺たちもあのワニと戦わせて!」
「増援か!?よし、わかった協力しよう」
正直、俺たちだけだとレベル70の砂漠鰐に勝つことは難しかっただろう。普通なら撤退していた…普通なら。
戦士の男、僧侶の女、弓矢使いの男、そして今は重傷を負って気絶している魔法使いの女。彼らの実力はわからないが、共に戦ってくれるというのならよほどの初心者でない限りありがたい。
「おい、その人は俺のキジクジャクが街の病院へと連れてくから前線に戻ってきてくれ!」
「把握!」
すぐにこのやりとりができるあたり、まあたぶんそこそこ手練れなのだろう。
その手練れの冒険者パーティーを持ってしても苦戦するのが目の前のワニなのだが…
この国に来るまでに見たマンティコアとほぼ同等の強さかもしれない。
俺はメアリ、オリオンを杖から出し、相手がどう動くか様子を見る。なぁに、いくらレベル70とはいえ、ワニだ。陸上ではそこm!?
「ちょ!?」
あのワニ速すぎるだろ!人が全力ダッシュしてようやく逃げ切れるかどうかってレベルの速さだぞ!?
ブライガーに騎乗しているから俺はかわせるが、人間じゃあんな突進避けれるはずがない。
「なにこれ、どうしよ」
vsメアリの時よりも酷い絶望感が俺を襲う…!
鎧を着ているオリオン、高い防御力を持つメアリと違い俺が乗っているブライガーは比較的打たれ弱い。なので、ブライガーはサポートに徹させる。メインアタッカーはオリオンとメアリに任せるつもりだ。
「もっとも、その2体もあまり長く持ちそうにはないな…」
この国に来るまでの道中、戦闘することも少なくはなかった。なのでそれなりにレベルも上がっているはず。それでも、あのワニには追いつけないというのか。
ワニはこの騒ぎに乗じて寄ってきた魔物たちをデスロールで殺し貪る。まるで、俺たちのことなど脅威と認識していないかのように。
「ーーーーッ!!」
メアリの危険信号だ。俺たちのパーティーの中でも、メアリは最高戦力であり、間違いなく彼女の生まれ故郷では頂点捕食者に近い存在であったはずだ。その彼女が、逃げるよう警告するほどの相手。
それが世界の全て…いや、星すらも見下すこの傲慢なワニだ。
「な、なああんた!この鰐の弱点を知らないのか!?」
いやいや、僕も知りませんって。マジで。あなた、僕より経験ある冒険者でしょ、恥ずかしくないの?いやほんとに。デスロールしてくるワニとか…
「ん?」
デスロール?
ワニが砂に潜り、高速で移動している。おそらく、後方にいるアーチャーと僧侶を先に片付けるためだ。
ワニが飛びかかろうとする…!!
しかし、それは不発に終わった。
帰ってきたキジクジャクがワニを殺すため岩をワニ目掛けて落としたのだ。
キジクジャクにとって誤算だったのは…それが致命傷どころかダメージを与えられたのかどうかすら怪しいこと。
「そんなことはどうでもいい!」
あいつは体の色が少し黄色が混ざってて、砂を潜って高速移動すること以外はどうやら普通のワニと同じようだ。
普通のワニの弱点?
「そいつは噛む力は強いが口を開く力は弱い!口を押さえるんだ!」
俺の指示を受けた3人が無理矢理ワニの口を閉ざそうと四苦八苦している。僧侶が支援魔法をかけているのもあってか口自体は閉ざすことができた。普通のワニなら、それで無力化できた。だが、ワニの攻撃方法はそれだけではなかった。
その固い尻尾は何のためにある。
ワニは尻尾で薙ぎ払い攻撃をした!
普通の、ただのワニの尻尾の薙ぎ払いですら人を殺せることもあるらしい。
この砂漠鰐はそのワニよりも圧倒的に力が強い。そんなものを食らえばどうなるか
「ッ!」
「ぐっ!」
「モヒィ!」
メアリ、戦士、オリオンはとてつもないダメージを受けた。オリオンと戦士はもう瀕死だ、これ以上戦わせることはできない。
俺はオリオンを杖に戻し、戦士を病院に運ぶようキジクジャクに頼んだ。
「ーッッッ!」
まだまだやれる、とメアリは言っているがあれは相当無理をしている。
撤退も視野に入れるべきだ…
だが、俺は撤退することができてもあの冒険者たちは逃げることはできないだろう。
冒険者たちも死ぬかもしれないという事実を受け入れ、この職業になったのだ。魔物を殺す職業だ、魔物に殺されるのも仕方ない職業だ。ただ…
「ここで逃げるってのは!俺にとっちゃ地雷なんだよ!」
俺は力強く吠えた。ワニは俺が虚勢を張っているのかと思っているためか、全く反応しない。いや実際そうなんだけど…
ワニは口を大きく開ける。魔物の前菜を食べたのか、ワニの口には蛇の血がついている。メインディッシュは、俺らだ。
ワニの口か。
「ワニの口?」
これがあるじゃないか!
「チュウトカゲの毒!!!」
愛してるよ。チュウトカゲ。
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