第2話 小さな町中華
最近、『町中華』という言葉をよく耳にする。
多分、某テレビ番組の影響もあるのだろうが(私もたまに視聴する)、つい先日などは、店の名前に堂々と『町中華』と入れているお店もあった。
以前であれば、少しカジュアルな中華屋などが流行っていたが、いやはや、時代の流行なのか、今は昔からその町にある『中華屋』が人々の目を集めている。
かく言う私も、先日、とある神社でお参りをした帰りに、町中華屋に入った。
お参りをし終えて、さぁどうしようかと考えを巡らせていると、そう言えば昼食を食べていなかったことに気付いた。
スマホを見れば、もうすっかり午後の三時。ちまたでは、午後のおやつなどを食べている時間だ。
こんな時間だとやっている飲食店なんてあるだろうか。いや、ほぼないろう。ランチの時間なんて、とっくに過ぎている。いやしかし、腹は減ったし・・・。
なんてあーだこーだ考えながら、これまたスマホで(便利な時代になった!)地図アプリで近くにやっているお店がないか調べてみる。
こっちのラーメン屋はやってない・・・。では、こっちのイタリアンは・・・やってない。ではこちらの・・・。
と、いろいろと調べていると車で5分位のところにやっているお店がある。
掲載されている画像を見ると、いわゆる昔ながらの中華屋。いわゆる『町中華』というやつだ。
とりあえず評価をみても、まずいというコメントはない。
行ってみよう。
そう決めると、私は車を走らせ、お店に向かった。
お店の前を通ると、暖簾は出ているが、明らかに暗い。電気が付いていない。
もしや、やっていないのでは、とあきらめの気持ちになるも、いやいや暖簾は出ているんだしとあきらめの悪さを出しながら、駐車場に車を停め、恐る恐るお店のドアを開く。
少し滑りの悪いドアを開け、やってますかと聞きながら、室内をのぞき込むと、店の椅子に座っていた店主が、やってるよと慌てて店の電気をつける。
良いのかな休憩してたのかな、と思いながら室内に入ると、客は誰もいなく私一人。
そりゃあ、店の電気が消えていた時点でうすうす察していたし、そもそもこんなおやつの時間に、客がメシを食べに来るなんて予想だにしていなかっただろう。
それでも、店主は嫌な顔をせずに「好きな席に座って」と椅子を勧め、「注文は?」はと、それが当たり前のように自然と聞いてくる。
私はメニューを眺め、ひと通り悩んだあと無難に、ラーメン一つと注文した(ホントはチャーハンも食べたかった)。
店主は、ラーメン一つね、とこれまて当たり前のように注文を確認すると、自然な流れで、急ぐわけでもなく、遅すぎるわけでもなく、私のラーメンを作り出した。
そして、5分位経って、ラーメン一つ、と言ってラーメンがスルッと出てきた。
味は、昔懐かしい、昔ながらのラーメン。
それが、なんとも懐かしく、一口食べて思わず「美味しい」と呟いてしまったほどだ。
昔、小さいころに父親に連れられていったラーメン屋の味を思い出す。
あのラーメンも、子どもながらに美味しいと感じたものだ。
そういえば、あのラーメン屋はまだあるのだろうか・・・。
そんな郷愁に浸りながら、ラーメンを最後まで食べ(私には珍しくスープまで飲み干し)、食べ終わったあとの、備えつけの冷たい水を飲む。
食後の冷たい水って、なんであんなに体に染み渡るんだろう・・・。
水を飲みながら、ほどよい食後の満腹感に浸っていると、店主が絶妙なタイミングで話しかけてきた。
「テーブル、大丈夫だった?」
「? なにがですが?」
「カウンターのテーブル、調理してる時の油が跳ねて、少しべとべとになってて」
そういえば、少しべた付く様な気がしなくもないが・・・。
「このくらいなら大丈夫ですけど」
店主は少し安心した様子で、少し笑いながら、テーブルについて話し出す。
曰く、一度直そうとしたのだが、かなり深く油がしみ込んでいるのか、うまく直せなかったとのこと。
私はそのいきさつを聞き、改めてテーブルに触れてみる。
確かに、少しべた付く様な気がするが、それがかえって、テーブルを歴戦の老武士のような厳かな雰囲気を感じ、私はこのテーブルがむしろ気に入ってしまった。
店主との会話を済ませ、お店を出る。
駐車場で車に乗り込みながら、またこの店に来ようと思った。
そして、またあの油のしみ込んだ、老武士のようなカウンターのテーブルで、今度はチャーハンを食べよう。
そうしようそうしよう、と一人で勝手に頷きながら、車を走らせた。
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