ジューンベリーの園で

砂葉(saha/sunaba)

古き城の日記

 これは、人類に神が与えた奇跡なのだろうか。

 あるいは、人類が無意識上で引き起こしたことなのだろうか。

 それは突然起こった。

 初めは少しずつしか現れなかった。だが、段々と増えていったのだ。まるで鼠が繁殖するかのように。

 私に『力』は現れなかった。身体の周りに花弁が散ることもなかった。

 だが、私の周りには『力』が現れるようになっていった。

 私の忠実な大臣、愛する妻と息子。さらには全ての兵士が。

 私はただ一人、『力』が現れなかった人類だ。

 だから、私はその現象を『開花』と名付けた。

 さて、これを読んでいる諸君。

 君たちには『力』があるか?

 それとも、私のように『力』がないか?

 それでも、幸せなら良いのだろう。

 私はこの世にやり残した事が多くある。

 だが、少なくとも妻子と共に生きれて幸せだった。

 君たちは、私と同じように幸せになれるか?

『力』を神から与えられようとも、必ずしも幸せは手に入らない。

 だが、それを悲観して見ずに、自分自身で幸せを見つけてみせろ。

 私はもうすぐ死ぬ。

 愛した妻は天国で私と共に居てくれるだろうか。

 そんな不安を残して私はこの世を去る。

 ああ……。後悔のない人生など無いが、これだけは本当に不安だ。

 愛する人より先に死にたかったものだな。

 もっとも、こんな事を妻に聞かれたら怒られてしまうのだが。

 最後に。

 君たちは本当に正しい行動をしているか?

 その信条は本当に正しいか。今一度、自分自身で考えてみせよ。

 私は、会議中に寝てしまうことは正しくないと今頃気づいてしまった。

 …冗談だ。

 但し、君たちはこれから先も生きていくのだろう。

 来れるものなら、私のように笑ってこっちに来てみよ。

 …いつまでも待っているぞ。

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