学生時代になろうでコメディ1位を取った俺、大人になってもう一度1位を目指すも……過去の自分が越えらんねえよ!!!
izumi
夢叶って多忙 → work hard black out.
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寝坊したときの対処法?
そんなのは簡単だ。
時計を見て慌てるのは三流。
もうどうせ間に合わないとゆっくりするのが二流。
そもそも時計を見ないのが一流。
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「くっ……」
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どんだけ見えてるものを見落とすんだよ……もしかして天体観測してた?
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「まじか……」
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「あなたの今の心境を四字熟語で教えて下さい」
「そうっすね……FUCKで」
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「あぁ……ダメだ……っ」
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「胸がいっぱいって……覚えたての言葉使いたくなる小学生かよ。お前ら胸いくつあるんだよ」
「D」
「2つ」
「……ごめんごめんそういう意味じゃなくて」
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「ちくしょう……っ!」
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「現在、選挙の出口調査を行っており……ご協力いただけると大変嬉しいのですが……」
「あ、開票前によくニュースで予測されてるやつですよね。構いませんよ」
「ありがとうございます。今回の衆議院選挙はどこに票を投じましたか?」
「投票箱ですね」
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「ああもう……
──と、思わず叫んだ1ヶ月前に時は遡る。
◇
あ、やばい──壊れる。
俺はそう直感した。
俺の脳が、これ以上無理をするなと緊急信号を頭痛と共に送ってくれている。
それに反してなんとか溜まった仕事を消化しようと、PCに接続されたディスプレイに視界の標準をあわせても、映し出される情報を脳が何も処理してくれない。
固まる俺を見て、
「
と、近くのデスクに座る先輩が声をかけてくれる。
「いやいや……全然余裕っす!」
そう返したものの、頭痛が和らぐどころか痛みを増していく一方だ。
これ以上無理をすると──大事なナニカが壊れてしまうような気が……。
……どうやら意外と人間の防錆本能とは優秀らしい。
確信めいた直感に従って、一度目をつぶる──
……ここで俺が音を上げるわけにはいかない。
なぜなら俺がこの開発チーム唯一のバックエンドエンジニアだからだ。
中途入社のミドルクラスのエンジニアが一気に2人も退職した。
バックエンドエンジニア3人体制から、高々新卒2年目の俺1人になればどうなるか──この業界をかじっている人ならとんでもない異常事態だとわかるだろう。
知らない場所で親の後をずっと引っ付いていた子供が、急に一人で放り出されるようなものだ、
だからといって、売り手市場の転職市場で即戦力のエンジニアがそうそう簡単に取れるわけではない。
となると、リソース不足という問題に対する解は単純──ただ物量でなぎ倒せばいいだけ。
自分の持てる全ての時間を仕事に充てる、それが最も確実で単純な解決策だ。
量で解決できる問題はこの世で最も簡単な問題のひとつ──これは最近の経験からたどり着いた真理だ。
だが残念なことに──知識や経験に関しては一朝一夕で身につくものではない。
バックエンドワンオペ状態がここしばらく続いているが、意外にも一番心身が削られるのは膨大な仕事量──ではなく、自分の実力不足からくる精神的なプレッシャーだ。
もしも──自分の浅い知識で対応できない障害が発生したらどうする……?
という不安で常に心が休まらない。これが思ったよりも本当にきつい。
最近では休んでいるつもりでも、スマホが鳴るたびに障害検知のコールではないかとヒヤヒヤする。
──でも。
ありがたいことに、この異常事態が自分の能力を飛躍的に引き上げてくれているという側面もある。
明らかに身に余る仕事と責任ある立場になったことで、必死に食らいついていくうちに自身の成長を実感する部分も多い。
初期スペックが低いのでまだまだ実力不足ではあるが。
──ズキズキと頭が痛む……身体は今は休息が必要だと告げている。
それはもちろんわかっている。
わかっているのだが……逆に考えればこの局面を乗り越えれば、さらなる成長が待っているということでもある。
多少の怪我を繰り返して、人は強くなっていくのもまた事実。
何より、無理を繰り返すことでキャパが広がっていくのは今までの自分が実証済みだ。
それに停滞は衰退と同義って聞くし。
──俺は再び目を開ける。
さっきよりは……頭痛がましになったような気がする。
ふう…………よし! これで仕事はなんとかできそう。
俺はディスプレイに視線を戻してキーボードに手を伸ばし──そこで意識が途絶えた。
◇
「ああ……暇だなあ……」
自室のベッドに体を預けながら、独り言をつぶやく。
──あの日、ぶっ倒れて起きたら病室のベッドの上だった。
倒れた原因はシンプルな過労。
別に身体が深刻な病気に侵されているわけでもなかったので一安心──だがすぐに、俺がいなくなった開発チームはどうなるのかと不安に襲われた。
急いでスマホを開けば、slackで既に会社から連絡が来ており、スムーズに他の事業部から一時的にリソースを回してもらう体制がすぐに組まれたとのこと。
……俺一人のときは頼んでもそんなことできないとか言ってませんでしたっけ……?
あっれれ~おっかしいぞ~?
異常事態ともなれば案外融通を利かせるのが組織というものなんだなあと思いながら、これを機にずっと使わずに溜まっていた有給があったので、ありがたく使わせてもらうことにした。
「いやあ……完全にワーカーホリックってやつだったよな……!」
冷静になると、正常な思考ができてなかったように思う。
ってか普通にそこは休めよ俺……ジャンプの主人公じゃないんだから。
がんがんいくなよ。いのちをだいじに。
……わざわざ大学院を辞めて好待遇の大企業の内定を蹴ってまで、自ら選んだこのベンチャーの環境。
憧れで始めたエンジニアという仕事を、いつの間にか俺は少しずつ楽しめなくなっていたと思う。
まあその原因のほとんどは、実力もないのに急に責任ある立場になったからだと思うけど。
優秀な人から辞めてくってほんとなんだなあ……。
仕事に全振りしすぎて生活と仕事が徐々に一体化していったあたりから、色々と怪しくなっていった気がする。
というか──いつの間に俺は仕事に全振りするようになったんだっけ?
どちらかといえば、楽して生きていこうと思って人生設計をしていたはずなんだけどな……。
──もういつの間にか25歳。
四捨五入すればもうアラサーじゃん──なんて言ったら先輩から舐めんなってキレられた記憶がある。
「まあ今は難しいことは考えないで──この有給生活を謳歌しよ……!!」
布団をかぶって、まずは平日の昼間から爆睡するという社会人の幸福を噛み締めることに。
こうして──俺の有給謳歌生活が始まった。
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