第4話
どこからともなく聞こえてくるイヌ科動物の鳴き声。それが狼の遠吠えだと理解した瞬間、アーヴィーは駆け出していた。
「モデル・ウルフか……!」
だが既に背後には三体ほどのモンスターが迫っている。一度捕捉されてしまえば逃げ切るのはほぼ不可能だ。アーヴィーは手にしたアパタイトに大量の魔素を込め、簡易的な手榴弾を錬成すると先頭を走るモンスターに向かって投擲する。宙を舞ったアパタイトは寸分の狂いもなくモンスターに命中した。が、大したダメージは与えられていない。
「
続けて石畳に手をつき一節詠唱の防御呪文。魔素による干渉を受け、一時的に形を変えた石畳は狼型モンスターの行く手を阻んだ。この程度の防御魔術では数分もしない内に破られてしまうだろうが、少しでも時間稼ぎが出来れば問題ない。来た道を全力で引き返し、鉄扉の前に立ったアーヴィーは鍵穴の解析を始めた。
「……初歩的な三層構造、時間さえかければ難しい術式じゃないが……」
ナイフを使って指先を切り、触媒を作成する。魔術師にとって自身の血は最も加工しやすく扱いやすい。それは死霊術師から見ても同じだ。特に死霊術師は魔術師よりも効率を重要視する傾向があるため、血液加工が得意な者も多い。
一層目と二層目の解錠は想像していたよりも簡単に終了した。だが三層目に取りかかった瞬間、術式は一気に複雑化する。要求される魔素の量もこれまでとは桁違いに跳ね上がっていた。
(クソ、苦手なんだよな。解錠系の魔術は……)
アーヴィーの専門分野はあくまでも戦闘や戦争などの荒事全般。地道な作業はどうしても集中力が長続きしない。想像以上の消耗を感じながら、アーヴィーは石畳にかけた防御魔術が破られる気配を察知する。
続いて鉱山内に響き渡る遠吠え。まだ、開錠には数分の猶予が必要だ。左手で術式を維持しつつ、普段は使わない右手にも魔素を流していく。細かい魔素コントロールを得意とする一部の魔術師のみが扱える高等技法、
数十メートル先の回廊に三体の狼型モンスターが見えた。間合いの内側に入られてしまえばもう対処することは出来ないだろう。呼吸を整えて魔素を練り、アーヴィーは冷静になった頭で二節詠唱の
「
蜘蛛型モンスターを相手にした時とは比べ物にならない量の魔素を術式に込め、解き放つ。空中に展開された魔法陣を介して出現した魔素の塊は的確にモンスターの核を破壊した。それとほぼ同時に開錠も終わり、鍵穴には小さな錆びた金属製の鍵がいつの間にか差し込まれている。
アーヴィーはモンスターの亡骸を確認してから鉄扉を開くと、鍵を回収して懐に仕舞った。この鍵はまたどこかで役立つことがあるかもしれない。結局、今日の収穫は古びた小さな鍵のみだった。
そう、なるはずだった。
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