デザートドライフラワー

タルタル索子

第1話 過去と現在

■ 星が眩かった夜


「今夜、あの怪物を打ち倒し、我らは安全と栄光を手に入れる」

 既に日の沈んだ砂漠の一角、円陣を組んだ中で最年長の男が訥々と語り出す。

「やつは我らの中で最も勇敢だった者を喰らい、我らの持つ最も尊いものを穢した。今こそ、その報いを受けさせる時だ」

 その言葉を聞き、各々は自然と表情を引き締めるが、その瞳に見せる感情は様々だった。

 しかし、彼のそのとき見せた八重歯だけは、私の脳内にいつまでも残っている。


「ねぇ、あんた怖くないの?」

「まさか。でも―

この手で掴める機会チャンスなら、掴んでやろうじゃないか」


 そう呟く彼の瞳は、声の細さとは裏腹に、まるでかがり火のようだった。


□ 日が出てから


「あんた、はよ起きなーね!アタシのチャーハンが食べたくないっての?」

「はいごめんなさい今起きたところです!!」

 同居人であるユール、おっとりとした気性だが怒らせてはいけないというのは、この短くない共同生活で私が学んだことの一つだ。

「もー、ものぐさなのは骨身に沁みとるから起きたらまず顔を洗えゆーたやろ!アンタときた、ら‥」

 いつも威勢のいい彼女の声が不自然に途切れ、急に私の肩を押して洗面所までぐいぐいと押し込んできた。

「そこまでしなくてもいいって‥」

「もうええ!アンタ、早うそこでしゃっきとさせーな!」

 のろのろと顔を上げ、古い鏡を見る。

 ぼさっとした短くも長くもない髪、切れ長と言うには鋭さが足りない一重まぶた、黙っているといつも不機嫌そうに見られる口元、そして

 

 目元からうっすらと流れた二筋のなみだの跡。


「あははっ」


 私は、彼女の言うとおり念入りに顔を洗い、残りの水を上手く使って口をすすいだ後、彼女とたわいもない会話をしながら、お手製のチャーハン(具材はシェフの気紛れ)を完食した。

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