ベテロヘトラ~ぼくとせんせいの秘密の研究所
天川
第1話 僕、指名されました
──後悔は、無い。
でも、思ったよりあっさりだったなぁ。
正直、もっと気持ちいいものだと思ってたけど……。
初めての時って、こんなものなのかな?
なんか、もうちょっと色々と楽しみたかったんだけど……でも、急なことだったし、あっという間でそんな余裕は無かったというのが実情。
「……契約成立ね♪」
一方の……僕のお相手の女性は、それなりにほくほくした顔をしている。
がっかりされてはいないようだし、初回としては及第点だったのかな。
まあ、これで最後という訳じゃない。
それどころか、基本「先生」が承諾すれば、僕のしたい時にいつでもOK、という頭が悪いほどの厚待遇だ。
冷静に考えれば、かなり異常だ。
普通に考えても、危険な香りしかしない。
無理に肯定的に考えても、絶対に良からぬ裏があるに決まっている。
だが、僕には夢がある……野望といってもいい。
そして、「先生」には助手が要る。それも、絶対に秘密を漏らさない助手が……。
お互いの利害の一致。
そう考えれば、フェアとも取れる。
でも、僕にそこまでの価値があるのか?
と、問われると些か……いやかなり疑問がある。
「──条件を満たした都合のいい人間って、実際……簡単には見つからないものなのよ」
僕の疑問を察知したらしく、「先生」はそう言って、してやったような笑みを浮かべる。
「はぁ……」
ため息ではない。
納得したような、しないような……そんな曖昧な、僕の返事である。
当然、僕は納得はしていない。
しかし、目的のために手段を選んでいられないのも事実。
そして、──こちらの弱みを握られているのもまた事実である。
脅迫される、というほど重大な案件ではないが、あまり体裁のいいことではない。穏便に済むなら、それに越したことはないのだ。
「心配しなくても、ちゃんと身の安全は保障するから……秘密を守れる限りはね」
「先生」は、瞳に怪しい光を湛えながら僕にそう言った。
秘密……
──すべての肝は、ここにあるのだろう。
僕は、天涯孤独で家族がいない。
育ててくれた住職とは、疎遠では無いが現在では頻繁に連絡することも無くなっている。
宗教法人の運営する、親無しと、ひとり親世帯等のための学生寮に世話になっており、現在ではそこの寮母さんが僕の親代わりだ。
当然、そこで暮らす寮友たちは皆似たような境遇……かと言えば若干違う。
僕のように、全く身寄りがない人はむしろ希少で貴重でもある。
大多数は、親のどちらか(あるいは両方)に問題を抱えていて、家庭での生活が困難というケースだ。
両親がいなくても、親戚はいる……ただし、そちらとは関係が良くない、という境遇もよく聞くものだ。
さらに、今時珍しいだろうが、僕は携帯もスマホも持っていないのだ。
寮生の中には、月々の小遣いから捻出してスマホを持っている人も多いが、定期的にお金を引かれるという状況が、今の僕には耐えられそうもないので、持たないことにしている。
欲しいことは欲しいが、どちらかと言うと、いずれ必要になりそうだ、という方が正しい。
だが、今現在は持っていない。
もしかしたら、これも結構重要なファクターだったりするのかな……?
SNSやLINEなどで頻繁にやり取りする現代の学生において、「秘密を守れ」ということほど困難で信用できない案件も無いだろう。
何かあったら即ネットに上げる、LINEで共有する……そんなことが当たり前だ。
そんな人間に、秘密を開示するなんて普通考えないだろう。
だが、──僕はそうじゃない。
家族が一人もおらず、連絡する相手も手段も持たず、その必要も無い。
秘密を守らせるには、この上ない条件のように思える。
そして、僕には目的と……それに付随する弱みもある。
「先生」にとっては、そこも大きな要件だと言っていた。
僕には……お金が要るのだ。
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