第22話「紗良との試合」
「両者、一礼」
先生を挟み、俺と紗良が向かい合って一礼をする。
「第一局目! 攻め手、武嵐泰次。守り手、武嵐紗良____始め!」
そして、先生の開始の合図と共に俺と紗良の獣気術の試合が始まる。
先生が提案した俺と紗良の試合。断るのかと思いきや、紗良はどう言う訳か、試合に乗り気だった。
俺の方はと言うと、始めは断ろうとしたのだが、「あら、お逃げなさるの?」と紗良に挑発されるような事を言われたので、結局受けて立つ事にした。
獣気術の試合は選手2人が攻め手と守り手に分れ、その役割を一局ごとに交代しながら行われる。相手を地面に倒せば得点となり、それが攻め手の得点の場合だと2点、守り手の得点の場合だと1点の得点となる。得点が入れば一局が終了し、また1分以内に得点が無い場合も一局が終了する。そして、6点を先取した方の勝ちとなる。
「____ふう」
俺は息を整え、集中して紗良に向き合う。
俺と紗良____正直、勝負の結果は容易に予測出来た。
俺と紗良の間には圧倒的な技量の差があるのだ。
「はっ」
と、俺は紗良に掴み掛かる。その力を利用し彼女は逆にこちらの態勢を崩しに掛かるのだが、俺はその動作を逆手にとって、彼女を床に転がした。
「攻め手、技あり、2点!」
まずは俺の得点だ。紗良は一瞬悔し気な表情を見せたが、すぐに気持ちを切り替えて平静な表情を取り戻した。
さて、断っておかなければいけない事だが、紗良は素の力で俺と試合をしている訳ではない。彼女は試合に臨むにあたって先生の【抑制】の能力により、人間と同じレベルまで身体能力を下げられている。恐らく、俺より少しだけ高めぐらいに設定されているのだと思われる。
もし、素の力で闘われたら、危険な事この上ないのでそれは当然の措置だ。
要するに、この試合、獣気術の腕のみが両者の勝敗を分ける事になるのだが____俺の獣気術の腕は紗良のそれの数段上を行っている。
まず、俺が負ける事はないだろう。
「第二局目! 攻め手、武嵐紗良。守り手、武嵐泰次____始め!」
続く二局目が始める。
獣気術は護身術だ。そのため、その試合においては守り手が有利となる。守り手の時でさえ俺に歯が立たなかった紗良が、攻め手の時に俺に勝てる筈も無く____
「守り手、技あり、1点!」
呆気なく、二局目も俺の得点となる。
そして、三局目、四局目____その後、紗良が俺から得点する事はなかった。
「勝負あり! 勝者、武嵐奏次!」
俺のストレート勝ちだ。
試合後の一礼が終わり、俺は紗良の表情を窺う。
「……はあ……はあ……何? ……どうかされましたか?」
俺にじっと見つめられて、紗良は息を整えながら首を傾げる。
それはどんな表情と呼んで良いのか。
悔しそうと形容するには……彼女は妙に嬉しそうな顔だった。
目の錯覚だろうか。紗良が俺に負けて嬉しい筈なんてないのだから。
「道着がはだけてるぞ。みっともない」
「なっ!」
「試合中、目のやり場に困ったわ。道着ぐらいしっかりと着ろ」
俺の言葉に紗良は慌てて道着を直す。
そして、顔を赤くしてこちらを睨んで来た。
「余計なお世話でしてよ!」
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