第15話「紗良様」
武嵐家での下宿生活は毎日が楽しくて幸せだ……と、言いたい所だけど、私自身の所為で私もお兄様も時々辛い思いをする。
だけど、辛い事があっても、過ぎてしまえばそれもまた思い出として楽しかったような、そんな気持ちになってしまう。
こんな風に思うのはいけない事なのかなあ。
私は良くても、お兄様の事が不安で仕方がなかった。お兄様に辛い思いはして欲しくない。
夏休みが始まると、お兄様との時間も少しだけ増える。いつもよりも楽しい夏になりそうだ。
そんな夏休みの最中、お兄様の実の妹、紗良様が家に帰って来ると言う報せが入る。
お兄様の実の妹。どんな人なんだろう。九輪祭での金メダルが有望視されてる凄い獣人だって事は知っているけど。
……そして、お兄様ととても仲が良いと言う事も。
だから、ちょっとだけ複雑な心境だった。
会ってみたいし、仲良くなりたい。
だけど……ほんの少しだけヤキモチもあった。
そんな私の前に紗良様は姿を現す。
紗良様の屋敷の到着に、使用人含め、皆で帰省を迎える事になった。
「ただいま帰りましたわ。お父様、お母様、それに____」
紗良様は出迎えにやって来た私に微笑む。
「米澤さん。わざわざ出迎えて下さりありがとうございます。武嵐家の娘として、貴方の当家における滞在を改めて歓迎いたしますわ」
「……あ、あわわ」
お、お嬢様だ!
と言うのが私の感想だった。
品の違いと言うか、格の違いと言うか……同じ獣人、同じ年齢……それなのに、全く別の生物のように感じてしまう。
そ、そう言えば、武嵐家ってお金持ちの超名門だったんだよね。
今更の事なのだが、そんな事を思ってしまう。
お兄様がアレな感じなので、すっかり忘れていた。
「こ、こんにちは。あ、じゃなかった! えーと……さ、紗良様……ご、ごきげんうるわしゅーですわ! ご、ごあいさつが申し遅れましたわ! よ、米澤エヴドキヤでございましてよ!」
「まあ」
私の挨拶に紗良様は微笑ましそうに口元を緩める。
「楽にして頂いて構いませんわ。同い年と窺っていますので、下手に気を遣われなくて結構でしてよ」
「あわわ」
ま、眩し過ぎるよお!
溢れまくりの気品に思わず身じろぎしてしまう。
「可愛らしいお方ですわね。ハーフのお方ですか?」
「あ、いえ! 100%外国の生まれです。3年前に米澤家に養子にして貰いました」
「まあ」
と、驚く紗良様。
「日本語がお上手ですのね。素晴らしいですわ」
「そ、そんな事……ございません事よ!」
「うふふ、本当に可愛らしい」
そう言って、優しく頭を撫でてくれる紗良様。
温かい。
それに、一緒だと思ってしまう。やっぱり双子の兄妹なのだと。紗良様にはお兄様に似た雰囲気があった。
「……お姉様」
「ん? 何か言いましたか?」
「あ、いえ! なんでもありません!」
思わずぼそりと呟いてしまう。恥ずかしかったので、何も言わなかった振りをした。
初対面でお姉様呼びは流石に身の程知らずだと思う。
呼ぶなら、もっと関係を深めてからだ。
……仲良くなれると良いなあ。
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