第11話「衣替え」
ヒジリビ学園は妹の紗良も通う全寮制の学校だ。
九輪祭を目指す獣人と”獣師”ならば、まずはここの入学を目指すと言われている日本一の獣人エリート校である。
俺はそんな学校のパンフレットを自室でぼうっと眺めていた。
「……どうすっかなあ」
パンフレットを眺めながら、俺は悩んでいた。傍から見れば、俺がヒジリビ学園への転入を考えているようにも見えるだろうが、勿論そんな訳はない。俺には”獣師”の能力が無いのだから。
俺が悩んでいるのは____
「お兄様?」
「うぎゃあ!?」
「うひゃあ!!」
唐突に声を掛けられ、俺は素っ頓狂な声を上げる。その声に驚いたドゥーシャも素っ頓狂な声を上げた。
「ドゥ、ドゥーシャ! 何だよ、急に声を掛けるなよ、馬鹿!」
「え? ふ、ふえぇえ……ご、ごめんなさい……わ、わたし……わたし……きらわないで……おにいさま……!」
「あー! ごめんごめん! 泣かないで、ドゥーシャ! 怒ってないよ! 嫌いにもならないよ!」
もうお馴染みの遣り取りをしつつ、俺はドゥーシャをなだめる事に。
「そ、それで……何か用事でもあるのか?」
「あ、えーと……用事って言うか……」
「……?」
ドゥーシャは何かもぞもぞとしながら、身体を揺らしたり屈んだりを繰り返す。
何だ? 何が言いたいんだ?
「どうした? 言いたい事があるんじゃないか? 言ってみろ?」
「い、いえ……そのー……言いたい事があるんじゃなくて……言って欲しい事があるなーって……」
「……?」
いや、マジで意味が不明だ。
「ほら、ね、お兄様?」
そう言って、ドゥーシャはスカートの裾を摘まんでひらひらとさせる。
可愛らしい膝小僧が見えて、少しだけ際どいなと思ってしまった。
「ストリップでもするのかな」
「お兄様?」
「ご、ごめんて!」
凄い顔で睨まれて、俺は冷や汗をかく。
ちょっとした冗談だったのに!
ドゥーシャは頬を膨らませて、拗ねたように口をとがらせて言う。
「衣替え……これ
「ん? ああ……成る程」
服を見せびらかしに来たのか。何だよ、始めからそう言ってくれよ。
「似合ってると思うぞ。まあ、ドゥーシャは何着ても可愛いけどね」
「ほ、本当ですか? う、うれしいなぁ……うれしいぃよぉ……」
さっきまで不機嫌だったのに、今は凄く嬉しそうだ。
それからドゥーシャはくるりと一回転して、両手を広げて服を嬉しそうに見せびらかす。
「どうですか? お兄様、こう言うフリルが付いてるものが好きって聞いたんですけど」
「は? もしかして、おふくろが言ったのか?」
「はい」
「余計な事言いやがって」
息子の趣味をぺらぺらと喋るんじゃねえよ。
「紗良様によく自分好みの服を着せていたそうですね。まるで着せ替え人形のように扱っていたって言ってましたよ」
「な……!」
ふざけんな。そんな事まで喋りやがって!
拳を握りしめ、俺は母親への怒りを示す。
ドゥーシャはそんな俺の隣に座り、上目遣いでこちらを見て来た。
「それにしても、お兄様、紗良様と仲がよろしかったんですね。何か、全然話題にしないから、お兄様に本当に妹がいるのかも分からなかったし……しかも、仲が良いなんて……全然知りませんでした」
「……そうだな」
俺は苦い顔を見せないようにそっぽを向いた。
「あ、あの……こ、こんな事思うのって……いけない事なんだけど……差し出がましい事なんだけど……そ、その……私以外にも妹がいるんだなあって……ちょっと、胸がモヤモヤしちゃって……」
「……」
「え、ああ! ご、ごめんなさい! 紗良様の事を悪く言うつもりはなくて……え、えーと……ごめんなさい、こんな嫌な性格で……私、悪い子だ……!」
「ん、いや……そう言うのじゃなくてな……」
説明し辛い、説明できない心境に、俺はただ黙っていただけだ。無言の沈黙で、ドゥーシャに不安な思いをさせてしまったようだ。
俺は咳払いをして、にやりと笑い、ドゥーシャを小突く。
「何だよ、もしかしてヤキモチかよ?」
「……う、うう……ごめんなさい……」
「いや、むしろ嬉しいって! 本当に可愛い奴だなお前は!」
そう言って俺はドゥーシャの髪をわしゃわしゃとする。ドゥーシャは「ひゃあ!」と驚いた声を発した後、気持ち良さそうに目を細めた。
「だったらさ! 今度、俺に服を選ばせてくれよ。ドゥーシャは可愛いから、色々と着せ甲斐がありそうだ」
「え!? い、良いんですか?」
「おう」
「は、はわわ……私、お兄様の着せ替え人形にされちゃう……うれしいぃ……うれしいよぉ……!」
誤解を生みそうな言い方は止めような!
「来週ぐらいに一緒に買い物に行こうぜ。服屋巡りだ」
「は、はい! 是非! わ、私でよければ紗良様の代わりに着せ替え人形を務めさせていただきます!」
「サラの事なんてどうでも良いんだよ! あんな奴知らんし、妹はお前だけで良い!」
「え? あ、はい……はい?」
首を傾げるドゥーシャ。何か気にかかったような顔をするが、それも続く楽しい会話に流されてしまう。
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