第6話「下宿のお誘い」
午後は今後の授業に関する軽い説明があっただけで、すぐに新入生達は下校する事となった。
俺が教室を出ると____
「武嵐君、武嵐君!」
俺を待ち構えていたのか、ドゥーシャが俺の元に駆け寄って来た。
「い、一緒に帰りましょう!」
そう言って俺の腕を引っ張る。俺は「ちょっと待て!」とドゥーシャを止める。
「一緒に帰るって……帰る方向は一緒なのか?」
校門は東西南北全ての方角にあり、帰宅方向によりくぐる場所が違って来る。
俺とドゥーシャの帰宅方向が同じなら問題ないが、そうでないなら学園の外に出るのでさえ、一緒にいるのは非効率的だ。
ドゥーシャは目をぱちくりとさせる。
「あ、わ、私は……西側の駅に……なんですけど……電車通学で……」
「へえー、だったら途中までは一緒か」
それなら良かった。
ちなみに俺は徒歩での通学だ。実家は学園の西側徒歩10分の場所にある。
「い、一緒に帰れるんですか……う、うれしいよぉ……うれしいぃ……!」
「お前、今日それ何度目だよ」
無茶苦茶嬉しがる人じゃん。
そう言う訳で、俺達は一緒に帰る事になった。
帰り道、俺達は適当に話をしながら歩く。
「へえ、武嵐君、家凄く近いんですね」
「まあな。近いからこの学校にしたってのもあるし。そっちは何処から通ってるんだ?」
「……えーと____」
ドゥーシャが口にしたのは都外の良く知らない地名だった。
「聞いた事ない場所だな。ちなみに、通学にどれくらい時間がかかってるんだ?」
「えーと、2時間です」
「は? 2時間? 片道でか?」
「はい。住んでる場所から最寄りの駅まで結構距離があるので」
いや、それは……余りにも時間がかかり過ぎじゃないのか?
「あ、でも、歩いたらの話で、走ればその分時間短縮になりますね」
「うーん……でもなあ。そんなに時間がかかるなら別の学校に入るけどな、俺だったら。それか通信教育で済ませる」
「んー、ライラック学園なら私みたいな生徒相手でも柔軟に対応してくれますし。それにお父様は学園にコネがあるので」
まあ、そう言う事ならドゥーシャの好きにすれば良いか。
「じゃあ、下宿とかはしないのか。学園の近くに」
「あー」
俺が尋ねるとドゥーシャは困ったような表情を浮かべる。
「お恥ずかしながら、1人で生活する自信がなくて……それに、信用のない場所で寝泊まりするのは良くないとお父様が」
確かに、中学1年生の外国人の女の子に、例え幾らか下宿先のサポートがあったとしても、一人暮らしはしんどいか。
でも、片道2時間の通学も同じくらいしんどいと思う。
往復にすると4時間の通学だ。それだけの時間を移動に使うと言うのは、現代人としては、かなり勿体ない気がする。
……あ、そうだ。
「俺の家に来るか?」
ふとそんな提案をする。
ドゥーシャは「え?」と目を丸くした。
「俺の実家に下宿しろよ。部屋なんて幾らでも余ってるし。使用人の数も多いからバッチリ面倒を見てやれるぞ。それに、武嵐家だ。ドゥーシャのお父様の言う”信用のない場所”じゃないだろ」
自分でも信じられないくらいスラスラとそんな言葉が口から出て来た。
「え? で、でも……」
「今日、親父に掛け合ってみるよ。そっちもお父様に相談してみろ」
「……良いんですか?」
「おう」
俺が頷くと、ドゥーシャは嬉しそうに身体を震わせる。
「……うれしいぃ……うぅ……うれしいよぉ……うれしいよぉ……!」
いや、もうそれは良いから!
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