心を開かない爆乳美少女が、俺にだけ親し気に話しかけてくる

譲羽唯月

第1話 隣の爆乳美少女から

「今から席替えをするから!」


 午前の授業中。

 教室の壇上前に佇んでいる女性の担任教師が授業の始めを利用して、先週から予定していた席替えをするらしい。


 担任教師は壇上前の机に、正方形の箱を置いていた。


 六月。

 高校二年生の古川歩夢ふるかわ/あゆむも、そろそろ恋人が欲しい時期に差し掛かっていた。

 学校内でも、チラホラと彼氏彼女で登校したり下校したりする人を見かける。


 歩夢は今まで恋人すらできた試しがなく、比較的平凡な学校生活を送っていた。


 そんな中、絶望が希望へ変わるチャンスが今、訪れようとしていたのだ。


「この箱に席番が書かれた紙が入っているから。あとは、黒板にその番号を記しているから、その順番通りに座るようにな」


 クラスメイトらは、やっと席替えが出来ると言い、テンションを上げていた。


 なんせ、このクラスには、学園の中でも一番の爆乳女子がいるからだ。


 その彼女は、入学当初からデカく。

 異性を魅了する大きさであり、グラビアにもスカウトされそうなほどの爆乳なのだ。


 有真瀬那ありま/せなは長い髪をシュシュで結び、ポニーテイル風の髪型にしており、凛々しい表情に彼女の真面目さを感じられる。


 瀬那は基本的な事しかしゃべらないこともあり、普段から何を考えているのか不明だ。


「絶対に、今回こそは瀬那の隣になるしかないだろ」

「お前、そんなに運がよくないじゃんか」


 特に男子生徒らは、その彼女の隣になる事を念頭に、昨日から色々と準備をしていたらしい。


 準備といっても祈るだけなのだが。


 でも、唯一、その爆乳女子に難点があるとしたら、あまり心を開かないという事である。


 ビジュアルがいいのに非常に残念なところではある。

 が、逆に、そういうところが好きという人もいるのだ。


 今のところ、瀬那が人の前で笑みを見せた事はなかった。


 今回の席替えも彼女の隣にはなれないだろうと、ネガティヴに陥る。


 歩夢もその子の隣になってみたいという願望は多少なりともあるのだ。


 けれど、上手くやっていけるのか。そんな不安も抱いていた。


「あと、クジを引いていない奴はいないか?」


 気が付けば、主人公は最後の方になっていたらしい。


 席から立ち上がり、壇上前に向かう。


 クジを引いて、恐る恐る四つ折りの紙を見開く。




「皆引き終わったな。じゃあ、さっそく移動な」


 担任教師の指示に従うように、皆、自身の椅子と机を持ち、教室内を移動し始める。


 歩夢はどぎまぎしながらも、目的となる場所に自身の席を設置した。


 ま、まさか、俺が……。


 そのまさかだった。


 歩夢は、その爆乳女子――瀬那の隣の席になったのである。


 凄いオーラを感じる。


 まだ横を見ていないのに、近くに爆乳があるのだと肌で感じてしまうほどの制圧力。


 彼女とは今まで隣同士になったこともなく、同じ教室で二か月も過ごしていたのだが、会話もしたこともなかったゆえに、その爆乳を直で体感する事はなかった。


 運がいいとしか思えない状況。その反面、この平常心を、これからほぼ毎日継続できるかはわからなかった。


 だが、念願の爆乳であり、このチャンスを生かすかどうかは自分次第だと思う。


「こ、これからよろしく……」


 歩夢の方から話しかけてみた。


「……うん……よろしくね」


 彼女は意外とあっさりとしていた。


 皆に対する挨拶と大して変わらない。


 ま、まあ、そう簡単には無理だよな。


 今まで彼女の心を解放できた人はいないのだ。


 自分みたいな平凡な奴が、すぐにどうこう出来るわけではないと思った。


「じゃあ、いつも通りに授業を始めるから、そのつもりで。教科書とノートは出すようにな」


 クラスメイトは不満な顔を見せる人もいれば、結果的には良かったと感じている人もいる。


 歩夢はそのどちらでもあるようで、どちらでもないような、曖昧な感情を抱いたまま授業を受けることになった。






「じゃあ、これで終わり。課題は、これだけだから。提出は明日までな」


 担任教師は授業を終えるなり、不意をつくかのように課題プリントを渡し、サッと壇上机を片付け、教室から立ち去って行った。


 突然の課題を目の前に、皆、開いた口を塞げずにいたのである。




 それにしても、さっきの授業内容が殆ど思い出せない。


 右隣から伝わってくる爆乳に圧倒されまくり、集中できたものではなかったからだ。


 これからどうしようかと悩んでいると、クラスメイトの数人が教室から立ち去って行く。


 確か……次の時間は移動教室か。


 そうこうしている間に爆乳女子は他の男子生徒らに話しかけられ、しぶしぶと席から立ち上がり、教室から立ち去って行く。


 しまいには歩夢一人だけになっていた。


「そ、そうか。次の授業って、あの怖い先生だったか」


 次の授業は別の校舎で行われる。

 その上、鬼のように厳しい先生の授業であり、数秒遅刻しただけでも怒る人で有名だった。

 だからこそ、皆、急いで行動しているのだ。


 歩夢も教科書やノートを持って移動する。


 そんな中、誰かの足音が聞こえた。


 教室に入ってきたのは、今日から隣の席になった爆乳女子だった。


 何かを話そうにも、歩夢は声を出せなかった。


 爆乳女子の瀬那は、隣の席までやってくると――


「私、ちょっと忘れ物をしちゃって」


 彼女の方から言葉を切り出してきた。


「……そ、そうなんだ」


 いつもは誰にも心を開くこともなく、クールな口調が特徴的だったが、意外にも可愛らしい声質だった。


「えっとね……」

「ん?」


 瀬那は続けざまに話しかけてくる。


「あのね、今日時間あるかな?」

「……え?」


 一体、何を言われたのか、脳内による処理が追い付けていなかったのだ。


「えっと……今、なんて?」

「だ、だから、時間あるかなって」


 彼女の頬を紅潮させていた。


「もしかして、俺を誘っているとか……?」


 突然のことに戸惑っていた。

 歩夢は彼女の顔を見ながら聞き返す。


「そ、そうよ。今、ここには二人しかないでしょ」

「た、確かに……そ、そうだな」


 周りを見渡しても、自分と彼女以外の人の姿は視界には映ってはいなかった。


「古川君がいいなら、一緒に放課後でも遊びたいというか。どうかなって事。何度も言わせないでよね」


 夢でも見ているのかと疑いたくなるほどの現状。


 瀬那はジッと、歩夢の顔を見つめていて反応を伺っていた。


「お、俺でいいなら」


 理由はともかくとして、本気で嬉しかった。


 少しだけ距離を縮められた気がしたからだ。


「今日の放課後にね」


 そう言い残し、彼女は必要なモノだけを自身の机から持ち出し、そのまま教室から立ち去って行ったのだ。


 現実かどうかもわからないまま、歩夢はその場に呆然と佇む事しかできなかった。


 しかし、気づいた頃には、次の授業のチャイムが鳴り響いていたのだ。

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