第51話 魔道具師店での一日。

報告書では、ノベルシカ王国は確かに魔道具が発展していたようだが、一般市民用の魔道具は一切開発されておらず、貴族の注文を聞いて作っていたらしい。

貴族の無理難題に毎回眠る暇もない程だったそうで、身体を壊す魔道具師も多かったのだとか。

給料はそれなりに高い為、他の仕事と言うのも難しく、身体を壊したら一年休んでまた復帰と言うのが当たりだったらしい。

我がシュノベザール王国では考えられない事だが、それが押し通ってしまうのがノベルシカ王国のやり方で、仕事のし過ぎでの一年の休みだというのに、その間は一切給料も出ないどころか、生活保障も無かったそうだ。


――ブラック企業じゃないか。


そう思ってしまったのはいう迄も無く、今は元ノベルシカ王国の魔道具師たちはシュノベザール王国の魔道具師たちの待遇の良さに驚きを隠せないでいるという話は報告書で来ていた。


護衛を連れて街並みを歩いていると――。



「シュライ国王陛下、視察ですか?」

「ああ、視察も兼ねて魔道具師店にな」

「陛下が視察に来てるぞ――!!」



そんな声があちらこちらから聞こえる。

国民からの絶大なる人気を誇る俺はちょっとした有名人扱いだ。

護衛がいる為、近寄れないが、手を振り笑顔でいると、国民も安心する用で頭を下げたり、子供達は手を振ってくれる。



「シュライ様かき氷作ってくれてありがとー!」

「俺はコーヒーフロートが好きですー!」



なんて言葉が飛び出して笑ってしまった。

皆かき氷やアイスキャンディーには目がないらしい。

またアイスクリームも美味しいという声が届いて、作って良かったと思った次第だ。

無論「飴も美味しい」と言う声や、子供に塩飴を舐めさせている親もいて、「暑いから塩分補給はしっかりな」と口にすると元気のいい返事が返ってきていた。


その足で魔道具師店に入ると、店番をしていた男性がビックリして直ぐに頭を下げてから開発部のある奥の部屋へ行き、バタバタと魔道具開発部のリーダーであるドンデが飛び出して来ると、「シュライ様よくお越しになりました!!」と駆けつけてきた。



「元ノベルシカ王国の魔道具師達も入って開発も色々と進んでいるようだな」

「はい! 特にクソ貴族……じゃなかった、貴族相手の魔道具に関しては、元ノベルシカ王国の魔道具師たちは強いですね!」

「そうだろうな。分かっていると思うが賃金や保証はしっかりとしてやってくれ」

「はい!」

「ところで、開発部の中に入っても?」

「お、何か作ってきたんですね?」

「まぁな」

「是時奥へどうぞ」



そういうと俺はドンデと共に開発部に入ると、貴族相手の魔道具を作っている者たちと、色々な設計図を開いては話し合っている魔道具師達に挨拶をしてからドンデに話しかけた。



「シュノベザール王国の気温は安定させているとはいえ、暑い日も多いだろう」

「そうですね。ただ陛下が暑さを和らげてくれているお陰で、昔ほど滝のように酷く汗を掻くというのも少なくましたが」

「うむ、そこでだがこういった物を作ってみたいんだがな」



そう言うと風の魔石で動く扇風機と、小型扇風機、手持ち用の小型扇風機に、小さな置き型扇風機を机に並べると「これは見た事もない魔道具ですね」と興味津々で、他の魔道具師達も集まってきた。



「これは風を起こす魔道具だ。改良はまだ必要だが、風の魔石があれば風が吹いて身体を冷やしてくれる。無論魔石は二つ付ける事も可能なんだがな。試しなので今回は一つしか付けていない。もし氷の魔石と一緒に使えば冷たい風が出て来るだろうし、火の魔石を使えば温風が出るだろう」

「「「「「おおおおお」」」」」」

「小型もの物は両方を備え付けるのは無理だが、大型ならそれが可能だろうという事でな。どうするドンデ、売れると思うか?」

「売れるでしょうこれは……こちらはまた売って頂いても?」

「いつも通りマージンは貰うが、欲しいなら売ってもいいぞ」

「是非、買わせて頂きたい。改良などは此方で行います」

「分かった。いつも通り俺の口座に入れておいてくれ」

「畏まりました!」



そう言うと契約書を書きながら、人ずつの値段交渉も行い、妥当な所で了承してサインを書くと、元ノベルシカ王国の面々は目を白黒させながら「あの……」と声を掛けてきた。



「シュライ国王陛下は、魔道具もお作りになるのですか?」

「そうだな、簡単な物なら作って、後は魔道具師店に丸投げだ」

「政務も為さっておいでですのに?」

「おいおい、この国の氷だってシュライ様が提供して下さっているし、かき氷器を作ったのもシュライ様だし、その他いろいろな発明をしていらっしゃるのがシュライ様だぞ」

「え!」

「かき氷を作ったのがシュライ様なんですか!?」

「かき氷にアイスキャンディーにアイスクリーム、後は最近だと果物のチップスや野菜チップス、お前たちの好きな燻製に、飴なんかもそうだな」

「殆どじゃないですか!!」

「仕事の合間にも考えて試作もするし、政務が終わってから次なる商品開発をしているぞ。まずは国民が幸せになる事が前提で俺は動いているからな」



そう伝えると感心したように首を縦に振り、俺を見る目が何処か違うものに感じられる。

それだけノベルシカ王国の国王達は自分本位だったという事だろう。



「シュライ様が国王になってから、食うに困らずの生活だ。しかも娯楽の甘い物まであると来た。俺達には今やっと人間らしい生活が出来ているのも、シュライ様が国王になってからなんだぞ」

「そう、なのですね」

「じゃあ仕事を一年休んでも半分の給料は出るとか、通院費の保証とか」

「魔道具開発で怪我をした場合のポーションの支給とかは」

「シュライ様の発案に決まってるだろうが」



そう答えたドンデに元ノベルシカ王国の魔道具師たちは深々と俺に頭を下げた。

何事かと思い首を傾げていると――。



「我々魔道具師たちは、ノベルシカ王国の奴隷の様な生活でしたが、此処では違うのですね」

「シュライ様ありがとう御座います!!」

「うむ、民あってのシュノベザール王国だ。君たちの活動も楽しみにしている」

「「「「はい!!」」」」



そう激励を贈ると後はアイテムを手渡して城に戻るだけだ。

ドンデに「開発と値段は任せたぞ」と伝えると「国民に行き渡りやすい値段にします」との事だったので安心出来る。

――こうして魔道具師店を後にし、城に戻ってから今後の面倒なリゾート地の開発や、市場についての村づくりを考えていく訳だが……。



「まずハルバルディス王国とネバリ王国の中間点にあるオアシスに村を作って市場村としよう。冷蔵関連冷凍関連の魔道具は都度魔道具師店に発注をかける。その方が開発費などに回せるだろうからな。リゾート地での魔道具は俺が用意しよう。場所によっては魔道具師達では作れない者もあるかも知れない」

「シュライ様は増々忙しくなりますね」

「大元が作られてからの作業になるからな。まだまだ暇な分類だ。その間にロスターニャに市場となる場所への派遣と、リゾート地になる場所への派遣をお願いしたい。その二か所にその内アツシ兄上に拠点を創って貰う予定だ」

「拠点を……ですか?」

「この際市場やリゾート地を作るのだから、神々の島の品も置いて貰おうと思ってな」

「商売に一つ噛ませるわけですか」

「そういうことだ」



そう言って笑顔を見せると、手紙を書いてアツシ兄上に遠隔魔道具で手紙を来る。

無論日本語で書いてある為、この世界の人間には読めない。

やる事はまだまだある。

さて、次はどうしようか。



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