第39話 シュノベザール王国に革命を起こしたアイスクリームと燻製。

商業ギルドから身元のハッキリした従業員15名を雇い、元魔法研究所の一角でベーコンやソーセージの処理を教えつつ燻製に取り組んでいた。

消費期限は2~3日とはいえ、飛ぶように売れたのだ。

その為、定期的にネバリ王国からベーコンやソーセージを購入し少し高くとも売っているのだが、今まで肉と言えば魚しかなかったこのシュノベザール王国に【肉】が入ってきた事で本当に飛ぶように売れていく。


無論魚だって負けていない。

魚の燻製を出せばそれも売れた。

60台ある燻製器はフル稼働だが、うち一つはアツシ様に献上する為、定期的にアツシ様がお越しになっては物々交換している。

その物々交換と言うのが、この世界では珍しい砂糖たっぷりのお菓子である。

時にケーキだったりする為、シュリウスやファルナ、リゼルと一緒に頂くことも多い。


そんな折、アツシ様が此方でも酒を売りに出したいと言い出した。

国民は豊かになったが、高い酒は買えないと思うと伝えると、物は試しにとノザール商隊の一角を神々の国からの物販店にしたのだ。

途端、一番売れたのはウイスキーや日本酒だった。

燻製にウイスキーや日本酒……国民にとっての贅沢品ではあるが、泥酔するほど飲む者もおらず平和に過ごせているようだ。

高い故にがぶ飲みする者がいないのも救いだった。


国民からは【神々の酒】と言う言葉が浸透していく中で、テリサバース教会の作り変えがアキラ様によってなされ、犬獣人の神父とシスターが到着し、溜まっていた結婚の承諾や祝福を貰おうと列が出来たそうだ。

その列は今もなお続いており、特に【神々の国の聖なる者たち】と呼ばれる獣人の神父とシスター故にとても大事にされているらしい。


そんな中でも、アイス作りは佳境に入っていた。

卵がある程度取れるようになったこともあり、二週類のアイスが作られて行ったのだ。

無論、アイスクリームマシーンで。

一つは砂糖と牛乳、バニラエッセンスで作る簡単なアイスクリーム。

アイスを乗せるコーンも大量に【ロストテクノロジー】で作り上げた為、問題はない。


更に卵を使った本格的なアイスクリームもまた、大量に作り出されていた。

作ったものは巨大なバケツケースに入れられ、沢山並んだ冷凍庫に保管されて行く。

既に部屋6つのうち、3つずつが単純なアイスと、卵を使ったアイスで分かれている状態だ。

問題があるとすれば、卵を使ってない方は溶けやすいと言う事だろうか。

こっちは値段を落として無論売るが、一般庶民向けだ。

だが、冷たくて甘い。

かなり冷やさないと溶けてしまう為、国が作った冷凍庫ではまだ不安がある為に俺の創ったアイス用冷凍庫から売りに出すことになるが、こっちも大詰めになっていた。


後はカフェの話だが、既にアイスキャンディ―とかき氷、そして珈琲フローズンの販売は始まっていた為、庶民用と貴族用で別れて展開中だ。

ちょっと一休みと言う客が来ては涼んでいく。

普通のかき氷屋も貴族用のかき氷屋も大盛況だが、カフェも大盛況となった。

そこに新たに登場するのがこのアイスクリームである。



「明日からの搬入には間に合いそうだな」

「ええ、しかしこれだけの数で足りますでしょうか?」

「6つの部屋ズラッと冷凍庫を並べているがこれで足りないと言うことは無いと思いたいが……燻製組の処理が終わって燻製も終わったらこっちを手伝っているだろう?」

「そうですね、燻製兼アイス組ですからね」

「もう少し冷凍庫を増やして置くか……。後はケースもだな」

「コーンは無くなる前にシュライ様に連絡ですからね」

「そうだな。ただ、一か所につき5000個ものコーンなら暫く持ちそうだとは思うが」

「普通のかき氷屋でも売りますからね」

「ああ、個数は余り出さない予定だが、売り切れたら翌日に……と言う感じだな」

「大変売れると思いますよ」

「そうであることを祈るさ」



――そう言って笑っていたのが懐かしい。

アイス解禁日。カフェもかき氷屋も大戦争状態となり、アイスを求める客で溢れかえったそうだ。

午前中には出した分が無くなり、急ぎ城からアイテムボックス持ちがアイスを運び入れる作業に没頭するほどには売れまくった。

貴族は挙ってアイスクリームを購入し、家に持って帰れないのかと言う問い合わせが殺到したそうだが、「今の冷凍技術がもう少し上がればシュライ様が売りに出すと言っていた」と言うと、今度は魔道具師の元に良き、冷凍技術の向上を訴えたそうだ。


俺の打ちだしたアイスクリームと言う革命と、燻製と言う革命。

正に国が騒然とするほどの品だったと言うのは言う迄も無い訳だが――。



「取り敢えず此処までで一息入れようと思って頑張ったが、どう思う?」

「兄上は凄いと思います」

「ハチミツも飛ぶように売れていますし、ドライフルーツチップスやドライ野菜チップスも固定客が着いてドンドン売れていますし、やはり甘味と言うのは強いのですね」

「そうだな、摂りすぎは何でも悪いが、まずは甘いモノはこの程度で良いだろう」



これ以上のネタは俺でも流石に出ない。

クッキーやケーキなどはその内出る可能性はあるが、まだ当分先だろう。



「肉、魚、野菜、果物、後は甘味と食は豊かになった。次に進まねばならないな」

「その前に、兄上と姉上の貴族へのお披露目会がありますよ。それにもう直ぐ結婚式もありますし」

「そうだな……」

「ドレスは既に作り終わっているそうですよ」

「早いな」

「それだけ待ちわびているという事ですよ」



だが、それだけ月日が流れたと言う証でもある。

国内が安定して来てハチミツや砂糖も輸出できるようになってきた。

箱庭師のお陰で燻製も少ないながらも大人気商品だ。

国内は本当の意味で安定したと言って過言ではないだろう。

貴族問題は別として――だが。


その帰属問題も、国王と貴族どちらが上かをしっかりと見せつけなくてはならない。

他国の王も来られる予定だが、それは近い友好国のみだ。

ネバリ王国、バランドス王国からはシュリウスが、そして余り仲良くしたくないが――ノベルシカ王国。

聖女様は仰っていた。

何れノベルシカ王国とネバリ王国は戦争を始めると……。

その兆候がもうあるのかも知れない。それだけは確認せねば。



「皆様は箱庭師経由でお越しになるんだったな?」

「はい」

「アツシ様だけは拠点からお越しの筈です」

「分かった。披露宴は今までになく派手に行こう。無論、派手だが伝統的で美しいものにしたい」

「「畏まりました」」



――こうしてお披露目会までに色々と案を出し合う事となるのだが、それと同時にアツシ様にも相談する事となり、面白い案が出ることになる。



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