第2話 俺を馬鹿にして下に見る貴族連中と、俺のスキルの上に胡坐をかく両親、まずは後者を始末する。

別に今世の親を恨んでいる訳ではない。

ただ――余りにも無能すぎた。

大臣たちからの声は届かず、国民の声も届かず、ただ、貧しい事に嘆くだけで何一つ対策を取らなかった。

それは王家としての義務を果たしていないのと同義で、何時国民に殺されても文句ひとつ言えない行動でもあった。

王族としての誇りもない。

父上と母上は学園に通い、そこで知り合って庶民の娘と無理やり結婚したのだと聞いてはいたが、両親の中で子供とは不要な生き物で、家族と言うのは夫婦二人だけで完結しているのだと、俺と弟は思っていた。


夫婦仲良く死ねるのなら本望だろう。


俺の中に悲しみも何もなく、ただ「命を終わらせてやるから安心して消えろ」と言う思いしか残っていなかった。

――邪魔だったのだ。

国民を飢えることなく支える為に。

――邪魔だったのだ。

王家の恥晒し共が消えれば、弟だって本当ならば学園に通えたのに。


学業を奪われたと言うのは人生においてマイナスにしかならない。

貴族との繋がりが断たれてしまったと言うのだってマイナスだ。

この先、自分たちの力で培って行かねばならないのに、その際親がどうしても邪魔だった。

全てにおいて邪魔だったのだ。

きっと、前世の親もそう思って俺を殺したのだろう。

今になってなら分かる。

――そこに、家族愛等存在しないのだと。



成人の儀を終えた俺の元に、馬鹿にしたような笑みで微笑んでくる貴族たち。

同年の子供らも一緒だ。

人を値踏み、もしくは嘲笑っているのが良く分かる。

弟には笑顔を顔に貼り付けて置けと言っておいたので、笑顔で対応しているが内心マグマのように怒りで沸々としているだろう。



「学園にも通えなかった王太子殿下の為に、我が息子が力を貸してくれますよ」



そう口にしてくる親の多さ。

だが、きっとこの子供達よりは俺の方が専門知識は多いだろう。

確かに本で得られる情報とは少ないものの、根本的な所は前世とそう変わりない。

多方面の本を読んでいた、そしてニュースで見ていた俺にとって、その言葉を聞いても何にも心が響かない虚無の言葉だった。

無能などいらない。

横領でもされたら堪ったもんじゃない。



「自分に必要な人間は自分で選びますよ。売り込む人間は買わないと決めています」



そう笑顔で答えれば顔を引き攣らせながら下がって行く。

息子も息子で舌打ちして去って行くのだから、追々自分たちが逃した魚が大きい事を知るだろう。

その夜開かれたパーティーの主役は俺ではなく、やはり両親だった。

国王に媚びを売って置けば、安易に俺の力を使えると思っているのだろうが大間違いだ。

俺は任意の場所に任意の天候を操る事が出来るまでにスキルを磨いていた。

その力は無論特大な為、隣国に雨を降らせる等簡単な事だった。

天候を操れると言う事は、それだけこの世界において強いスキルだと言うのも知っている。

それを、無能な親に媚びへつらって使わせて貰おうと言うのが安易に透けて見えるものに対してはスキルを使わないと決めていた。


宴も終わり、両親は別室で酒を浴びるように飲みながら笑い合っている。

そこにサファール宰相に目線をおくり、宰相が頷くと「それでは俺達は疲れたので先に眠ります」と言って部屋を後にし、我慢の限界に近い大事な弟であるシュリウスの愚痴を聞く為に自室へと戻ると、仮面を脱いだシュリウスが怒りを露わにした。



「何という事でしょう!! あのように兄上を馬鹿にした者たちばかり!! 兄上はこの世でも素晴らしい力を持っていると言うのに、その力だけを自分達が使ってやろうと言う魂胆が見え見えで腹が立ちます!!」

「ああ、その通りだな。見る目の無い連中だ。だが大事な国民でもある……人は選ぶが、まともな貴族の領地には求めるモノを与え、馬鹿にした貴族には罰を与えよう」

「是非そうしてくださいませ!!」

「ははは、俺の為に耐えてくれてありがとうシュリウス。苦労を掛けたな」

「兄上を馬鹿にする輩が許せないだけです!」

「うんうん、後はサファール宰相がどれだけ動いてくれるかによるな」



そう言って椅子に足を組んで座ると、部屋をノックする音が聞こえ俺が声を掛けると、ドアが開き恭しく頭を下げて入ってきた噂のサファール宰相が歩み寄ってきた。

どうやら作戦は上手くいったようだ。



「どうだった、馬鹿共の反応は」

「ええ、大変ご機嫌で早速開けて飲もうとしておられましたよ」

「そうか、酒盛りが終わる朝まではメイドたちも入らないのだったな」

「ええ、【元】国王陛下も王妃もお盛んでしたからね。酒盛りを始めたら人を近づけないようにしていましたので」

「そうか、実に都合のいい事だ。明日の朝は死体になって発見されると言う訳だな。ではこれからの話をしよう。国葬は行わない。あの者たちに国葬など税金の無駄だ。家族だけでヒッソリと行う。次に、王族の墓に入れない。あの者達は王族としての義務を果たさなかった。入れる理由がない為、庶民の共同墓地に入れる。サファール宰相、死亡が確認されたら直ぐに手配を」

「畏まりました」

「次に国宝だとかなんだとか言って売りに出さなかった金銀財宝の一部を売りに出す。他国に御触れを出してくれ。それこそ、此処からほど近い所にある神々の島にも御触れを出したい所だがな」

「神々の島ですか……。確かに天候を操れば可能でしょうが」

「最も争っていない隣国なんだ。テリサバースの船も我が国からあの神々の国に着いたとさえ言われている。この国からもあの島国が見える程度の距離なんだ。暫くの間あの海域の天候は穏やかにして、あちらから何か来るのを待つ。それ用の品は残しておこう。財宝が売れ、金が手に入ったら我が国と交易をしているのはネバリ王国だったな?」

「はい」

「そこから苗や種を買う。箱庭師と植物師は国が管理する御触れを出せ。商業ギルドマスターにも連絡を」

「箱庭師と植物師を? 畏まりました」



此処まで指示を出すと、夜も更けて来たのでまた後日と言う事になり解散となった。

そして翌朝――思い通りの結果が待っていることになる。



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