嗤(わら)え! 追放者ども!!
松雪 誠
断 章:追放者は嗤う
断-①
「──で、姐さんはこれからどうするんすか?」
通用門の巨大な扉が閉められると同時に、君は先を歩く女性に声を掛けた。
「ん? どう、とは?」
君の問い掛けに、彼女──『レヴィ』は、その華奢な背中を向けたまま問い返す。
そよ風に揺れる短い金髪が、背景の広大な草原と相まって、どこか哀愁を感じさせる。
「このまま、奴らの言いなりになるんすか?」
「奴ら? ……あぁ、『教団』の事か。言いなりも何も、別に除名されたわけではないしな」
教団。それはレヴィが所属する宗教団体『クロ:ロス教団』の事を指す。
王都最大勢力の宗教団体の強さは圧倒的で、一個人が立ち向かって敵うような相手ではない。
「いやいや、姐さん。追放されたって自覚あります?」
「『追放』とは、言い方が穏やかではないな。あくまで『異動』の指示が出ただけだ」
「あんな辺境の地に行けだなんて、実質的な追放っすよ。姐さんがどれだけ汗水流して貢献していたか、奴らは知らないんすよ!」
怒りを隠そうともしない君の様子に、レヴィは苦笑しながら立ち止まる。
君の方に振り向き、赤と蒼。左右で色の違う瞳で君を真っ直ぐ捉える。
「そう言ってやるな。
「姐さん……聖人過ぎません?」
「本当の聖人は戒律を破ったりしないさ。それより、お前こそどうするつもりだ? 聞いた話では、いつもの軽口が災いしたらしいじゃないか」
「……レックスの旦那とは話が付いてるっす。金は貸してくれなかったけど……。これで俺も、晴れて追放者っす!」
言葉とは裏腹に、君の表情は不満の色で染まっていた。
そんな君の態度を見かねたレヴィは溜息を吐いてから再び口を開く。
「あえて言うなら、お前はもう自由の身だ。誰もお前を縛らない。もちろん、私もな」
「……どういう事っすか?」
「無理に私に付き合う必要はない、という事だ。器用なお前なら、衣食住に困る事はないだろう?」
「……はぁぁぁぁ」
レヴィの言葉を聞いた君は、やたらと大げさな溜息を吐いて肩を落とす。
「ど、どうした?」
「どうしたって……、なに水臭いこと言ってんすか姐さん!」
「む、ぅ?」
叫びながら勢いよく顔を上げた君に驚いたレヴィは、目を見開て後ずさる。
「俺は、姐さんの従者っすよ? つまりは『
「そ、そうか……。すまない」
「そこは『ありがとう』って言うとこっすよ?」
「そ、そうなのか? ……あ、ありがとう、ウェイク」
君の指摘に、嬉しさと申し訳なさが混ざった表情を見せながら、お礼を言うレヴィ。
「へへ、地獄の底までお付き合いしますぜ、姐さん」
「いや、地獄行き確定は悲観しすぎだろ」
この日、君と彼女は、それまで積み上げてきた殆どを失った。
残ったのは、少しのお金と主従関係。
ここからどういう道を進むのか。それを知るものはここにはいない。
目の前の広大な草原のように、好きな道を好きなように進んでいく。
君達の物語が本格的に始まるのは、もう少し時が経ってから。
それが始まるまでは、つかの間の平穏を楽しむと良いだろう。
【 断章:① 終 】
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