第四章 父との話し合い⑤
「祝福の儀は、市民権登録も兼ねてますわよね?その際に、スキル開示要求をします。難民救済枠の施策として、市民権を登録する段取りにします。長らくスラムにいたのです。スキルによっては、悪知恵を働かせて、犯罪に走る馬鹿もいるかもしれません。これは、その予防策……いざという時の情報管理ですわね。もちろん、取り扱いは機密扱いで厳重にしますわ。このことは、祝福の儀を受ける前に説明し、同意申請書にサインを貰います。市民権登録時には、虚偽の申告が分かるように、審判の水晶を使って下さい」
「審判の水晶に、難民扱いの市民登録……カティアは、その責任の重さを分かっているのか?」
審判の水晶……ダンジョンからもたらされるアーティファクト。十分な解析が進んでいないらしいが、その中でもシンプルな構造をした『真か嘘か……嘘発見器』の魔導具を作ることには、成功しているようだった。
今後、スキルを悪用する者も出てくるはず。一度どん底に落ちた者の周囲の視線は厳しい。故に、落ちやすい。貧しいほどに、その機会は頻繁に訪れる。その屈辱に耐えられる心に育たなければ、彼らはスラムから脱出出来ないだろう。
難民扱いの市民権登録は、ガーディア領のみの移動が可能な市民権なのである。魔導具の造りは不明だが、ガーディア領の
腕輪は個人では外せないように作ってあるから、外す際には、役所に来てもらう必要がある。
難民扱いは、彼らの身はガーディア領預かりという意味だ。彼らには、市民権の腕輪が与えられる。腕輪は、現在地が調べられるようになっている。
プライバシーの侵害という意識はあるから、若干良心が痛むが、これは領主家にとっては当たり前の処置である。彼らがなにかを仕出かせば、その責はお父様に及ぶからね。それに、24時間360日中監視しているわけではない。なにか問題があれば、それに該当する者を選出し、現在地を調べるだけである。
「勿論ですわ!今回のスラムの希望者には、私が全て面談・鑑定致します。悪心がある者は省きますので、安心出来る材料になるかと……」
「しかしそれでは、カティアに恨みを持つ者が出来るではないか!」
焦るように言った父だけど、私は悠然と微笑んだ。彼の娘を心配する気持ちはありがたい。だけど、それを享受する覚悟は、私にはない。
だって、鳥籠の鳥にはなりたくないから。
「お父様、人間生きていれば、恨みを買うことは避けられません。それは、感謝や安心といった感情と同じで、避けられるものではありません……まぁ、人族に限らずですし、避けれるなら避けたいものですが、それが出来ないこともあるのです。ご理解下さいませ」
「「「「「「……」」」」」」
私の言葉に、周りはポッカーンとしていた……はっ!?見た目五歳!見た目五歳!と、私は繰り返し脳内で唱える。
深いため息が横から聞こえるけど、アリサだろうから、振り返らない!今は、小言はご勘弁!
「そして私の見返りは、市民権登録時の情報にあるスキルの閲覧権と、彼らへの交渉権を。私が必要だと判断したスキルの者がいれば、彼らの初回交渉権を頂きたいのですわ。もちろん交渉だけで、決定するのは彼らですけど。先に交渉する権利だけいただければ、後はこちらで交渉致します」
私も善人じゃないからね。卑怯だとは思うけど、目的の為の手段だ。少しは見逃してもらおう。
普通は知ることのない人の手の内を見れるのだ。もし有用な者がいれば、あの手この手で勧誘を……ゲヘヘ。
「お嬢様……お嬢様!その下卑たお顔はやめてください!!」
アリサの小声ながらも強い語気に、私は、ハッと我に返る。
「「「「「……」」」」」
スキルは使い方次第で化けるものである。
永きに渡る歴史の中で、栄枯盛衰でいくつの亡国が生まれたのだろう。歴史に埋もれてしまった名も無き国のように、時代の波に乗れず、埋もれてしまった【テイム】のように。
本来の有益な使用術が忘れ去られたスキルが、他にもある筈だ。
しかもあわよくば、ラフおにぃ様と切磋琢磨出来る仲間が出来れば……と目論んでいる。
兄がゴミスキルと揶揄された[テイム]の〈技術訓練教育校〉は、私の素案の一つだ。卒業後の職業紹介斡旋所の設立や、卒業生の登録の自動化も検討の一つ。
何故ならば、卒業後の進路が決まっていれば、除外されるが、彼らがフリーや雇用されるまでの認知度には、時間を要すかもしれない。その為の、スキルを活かした職業紹介斡旋所である。
「分かった……全て了承する」
「旦那様!?」
流石にこの場で、完璧な返答をすると思っていなかったであろうシルベスタが、驚きの声をあげた。いや、私もびっくりです。
「カティアは始めに言ったよな?1つ目の商業ギルド登録許可の有無、2つ目にトイレ設置と衛生講習について…更には、3つ目のラファエルのスキルについて。これら三つが、最終的には全て同じことに繋がると…」
「確かに申しましたが…」
「それは弱者救済から始まったもので、構想を練るうちに、次第に枝分かれした支援事業を思いついたんだろう?」
おぉ!?父にしては、勘が冴えている!…いや、彼は勘で生きる男だった。
「この件は、完全にカティアが舵を取り、回すようにしろ。必要な人材がいれば、迷わず申し出ろ。可能な限り、こちらで用意する……但し、彼らへの契約魔法は行わない。今回の臨時要員に過ぎんからな。いずれは、カティアの神童ぶりがバレる時が来ると覚悟していたが、かなり早まりそうだな。……いいか?カティアは、やることなすことの全てを、私に逐一報告するように」
「ライアンとレインとサーシャは、明日からカティアにつくように。残業を認めるから、今日中に取り次ぎを済ませるように」
「「「はっ!」」」
「シルベスタ、彼らの穴を埋めるべく、役所の人事で、余剰人員の課を割り出せ」
「…畏まりました」
急に領主モードになった父は、テキパキと指示を振る。
「お父様、確かに発案したのは私ですが、少し性急過ぎではありませんの?まだ詰めなければならない箇所もありますでしょう?」
文官たちの顔が青ざめてるから、出来ればやめたげて。
「その問題が分かっていれば、問題ないだろう。カティアが言っていた弱者救済と商会を興すことが関係しているならば、スラム関連の施策は、カティアに一任すべきだ。商業ギルドについては、まだ完全に賛成出来んが、カティアの言を聞いていると、そうも言っていられない状態になってきた。両立で忙しくなるだろうが、カティアに任せた方が良い気がするんだ」
確かに間違っちゃいないが……やはり勘で生きているんですね、お父様。そして、父の返答に未だショックを隠せないシルベスタ。
今までのガーディア領の運営形態が見えた気がする……私は、シルベスタに激しく同情しながら、
「畏まりましたわ、お父様」
と、
「お嬢様……ソファの上でカーテシーはちょっと……」
「え?……でも私の足じゃ、床に届かないし。今の状態で、アリサに下ろしてもらってからカーテシーしても、格好つかないもの」
「どちらにしても、ソファの上に立ってはいけません」
「……はぁい」
「「「「「「「「……」」」」」」」」
書記三名と護衛騎士三名……彼らは、黙って成り行きを見守るしかなかった。
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