第四章 父との話し合い①

「……はぁ、それじゃ話し合いを始めるぞ。今日は、半日取ってある。細かく詰める必要があるものなどは後日だな」

「畏まりました、お父様」


 なんか「父としての威厳が」とか「格好がつかん」とか、ぶつくさ聞こえるが、知らんぷりである。時間が限られているなら、順番を選んで話していかなければ。



 ちなみに、兄の参加は父が許可を出さなかったので、不参加である。朝食時の

「何故参加したいんだ?」の父の問いに、兄が答えられなかったからである。給仕をするメイドや執事がいたから、明言を避けたのだ。確証が得られていれば、堂々と話すけどね。

(まさか、神の著書に〜なんて話せるわけないしねぇ) 

 でも安心してね、おにぃ様!私がお父様の口をあんぐりさせてくるから!←兄にとっては、不安でしかない。


「その前に紹介しておこう。書記を努めるライアンとレインとサーシャだ。ライアンとレインは、ディアンの兄で双子だ」

「まぁ、ディアンの…」


 チラッと後ろにいるディランを見ると、ツイッと顔を逸らされた。ちなみに今日のお休みは、ミリーだよ。ケイトによると、敬語の勉強で教典を読むため、教会に通っているらしい。教典には敬語が出てくる場面が多々あり、読み返しては練習しているみたい。仕事熱心でなによりである。


「毎回聞くのは憚られますが、私に関わってくるということは…」

「あぁ…しっかりと魔法契約は承諾してもらっているぞ。今後の会議についても、彼らが付く」

「そうなのですね。……皆様、これからもよろしくお願い致しますわ」

「「「こちらこそ、よろしくお願い致します」」」

「…まぁ、カティアの秘密を世間に隠し通せるのは、はじめだけが精一杯だろう」

「……なにか言いまして、お父様」


「いや、なにも。だが…今回の面会は、カティアの言から始まった。だから、カティアの提議を聞かせてもらいたい」

「承知しました。提議というほどのものではありませんが、今回の課題は、大きく分けて3つあります。まず1つ目は、商業ギルド登録許可の有無です。2つ目にトイレ設置と衛生講習についてです。3つ目は、兄のスキルについてです。『は?』…おにぃ様のお話は長くなりますの。後で詳しく説明致しますわ」

「……分かった」


 兄のスキルという、ここでは全然関係ない議題に、父は気になって仕方ないらしい。だって、不承不承ふしょうぶしょう頷いたのが分かったから。ソワソワして落ち着かないもの。これから色々と出てくるけど、大丈夫かな?


「2つ目も3つ目も、将来的には全てが1つ目に繋がりますが…今は、順に説明してまいります。商会を起こす理由については、今後の展開を見据えたもの…というのが一番の理由です。昨夜、母に使っていただいた石鹸類もそうですが、現在の時点では、調味料や甘味、ポーション販売を考えておりますわ。また売上の一部を、社会貢献や支援事業運営に使用致します。現在領都にあるスラム以外にも、様々な理由から就業が困難な貧困家庭もたくさんあると聞きました。その家庭への救済が、追いついてないと聞きましたの。スラムへの炊き出しや救済は、教会が主軸となり行なっていると聞き及んでおります。ですので私は、領主一族として、手の届きづらい場所への支援を行います。もちろんスラムの方たちの支援も、炊き出しとは別の形で考案しています。こちらは社会貢献ではなく、支援事業として幅広い支援を構築している最中です。近日中には、領地視察として、これらの視察を中心に行いたいと思います。2つ目は、現在水面下で準備が行われているトイレ設置です。領主邸の工事を終えた後には、領都にも少しずつ建設予定です。ただこちらは、個人住宅ではなく、公衆トイレという形を取ることを考えています。領都の設置場所や管理など、様々な問題がありますが、それらも今後の話し合いで展開していきたいと考えています。領主邸で使うトイレよりは質は落ちますが、衛生環境を保つ努力をすれば、十分に気持ちよく使用可能な場所になります。そして、衛生環境を保つ為の仕事も、要支援家庭やスラムから募集したいと思います。色々と講習がありますが、その間の給金の確約も致します。もちろん適正検査と簡単な試験はありますが…「ちょいストップ!」…はい、どうしましたか?」


 お父様からストップが入りました。一体どうしたんでしょう?


「書記が追いついていない」

「……羊皮紙は、かくも面倒な…。こちらをお使いになって」

「これは?」

「木の皮や植物の皮から作った植物紙です。羊皮紙よりは、つっかえることなく書きやすいかと「これも売る気か?」…体制が整えば考えます。かなりの手間がかかりますので、今の体制は不十分です。その前に、やることがたくさんありますのよ。書記が追いついてこないとか、巫山戯た理由でいちいち中断するようでは、この会議……全日3日はかかりましてよ」

「…っ!今は、植物紙を貸してもらえ!」

「…!!畏まりました!」


「…行きますわよ?…お父様、会議の後で着工許可証頂くつもりですけど、出来上がってますか?」

「あ、あぁ。大丈夫だ。後で渡そう」

「トイレ工事が始まると同時に、使用人の方々への衛生講習会を予定しています。もちろんその前に、お父様たちに聞いて頂きますわ。そして、使用人の方々も仕事がございますし、人数もございます。しかも仕事は、勤務時間はバラバラです。なのでここは、割当方式でいきます」

「割当方式でございますか?」

「えぇ、そうよ。シルベスタ、これを見てもらえるかしら?」


 私は1枚の紙をショルダーバッグから取り出し、机の上に置いた。


この世界の曜日の読み方が、光・火・水・風・土・聖になっていて、聖が基本休日である。

 そして、新年は冬の一月ひとつき二月ふたつき三月みつきというように、春、夏、秋と三月みつき交代で季節は進んでいく。

 今は、春に変わろうとしている冬の三月である。


光の曜日 ①2の鐘 ②5の鐘

火の曜日 ①1の鐘 ②3の鐘

水の曜日 ①4の鐘 

風の曜日 ①2の鐘 ②4の鐘

土の曜日 ①5の鐘 ②6の鐘

聖の曜日 ①1の鐘 ②3の鐘



1の鐘は午前五時、2の鐘は午前八時、3の鐘は少し時間が空いて、正午に鳴る。4の鐘は午後三時、5の鐘午後六時で、6の鐘は少し時間が早まって、午後八時に鳴る。

 それがこの国の時の報せだ。



「これは…どういう利用方法でしょうか?」

「さっきも言ったけれど、お屋敷で勤める皆は、1日を2交代勤務で回しているでしょう?」

「はい。基本12時間勤務で、休憩を2時間入れております」


 休憩っていうけど、主に喚ばれたら出動しなくちゃいけないし、実質拘束時間だよね。お給金がいいのは、その為でもあるだろう。


「その12時間勤務以外にも、料理人は十時間勤務など、職種の違いによっても、就業開始、終了はまちまちよね?」

「はい、その通りです」

「ですのでこちらは、講習が開講される時間を定めます。これを各部署に通達して下さい。記載をされている時間から、皆さんが出席可能な時間を、自由に選んでいただきます。講習会は、3回二分けます。一週目は第一回、二週目に第ニ回…と開講します。計3回行いますので、3週間に一度の参加をお願いしますわ。所要時間は四半刻三十分から半刻一時間弱です」

「畏まりました。各部署への徹底通知を行います」

「えぇ、手配を頼みますわ。皆さんには、業務後の講習会参加の残業手当を出すと仰って下さい。出席確認はきちんと取りますから、出席されていない方は直ぐに分かります。もし、先程の時間帯でも出席が難しいという方は、申し出るように徹底通知して下さい。シルベスタ、後から使用人の給金リストを頂けるかしら?基本給から時割計算して、給料日に私から支払いします」

「そんな支払いなど、カティアはお金を持っていないだろう?」

「だからこその金策…んんっ!商業ギルドに登録して、稼がなくてはいけないんじゃありませの」

「商業ギルド登録の有無とか議題をあげておいて、既に登録許可前提の動きか…」


 フッと自嘲気味に笑うお父様は、どこを見てヤサグレてるのかな?


「商業ギルドの登録を許可しなければどうなるか…それはお父様が一番ご存知でしょう?」

「親を脅迫か?」


 いやぁ、いい年したおっさんに、眉尻下げて涙目で見られてもなぁ。


「嫌ですわ、お父様。戦略というものは、既に戦う前から始まってますのよ」


 の手綱を握るには、母を味方につければいいことくらい、簡単な考えじゃない。情報戦は時間との勝負というけれど、今回は外堀から攻めさせていただきました。


「そうゆうことだから、給金リストをお願いね、シルベスタ」

「…畏まりました」


 恭しく頭を下げるシルベスタに、私はニッコリと満面の笑みを浮かべたのだった。



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