第一章 四話 ガーディア辺境伯領誕生期



 ちなみに歴史書や伝記は、読めないんじゃなくて読まなかったんです。興味ないもん。


「創世神様は、なんと言っていたんだい?」

「確か、世界の発展を願ってると言ってました。でも今までの下界に神力を使えば、どこかに被害が出るのは確実だったらしくて。だから異世界の存在である私をこちらに転生させることで、世界に神力の道が出来て、神々たちが介入しやすくなったそうです」

「創世神様は、何故カティアを選んだんだろうね?」


(…ありゃ?少し怒ってる?私の説明の仕方が悪かったかな)


「世界の発展を願っているアン様は、私に色々と行動してほしくて、スキルをたくさん頂けたみたいですよ」


(アン様は、どうせ異世界人転生者が大人しくしているわけがないと思ってるんだろうな…まっ、想像通りだけどね!私は日本の友達に言わせれば「しゃかりき」らしいから)


「創世神様は、カティアの身が、魑魅魍魎どもに狙われるとは思わなかったのかな?」


 お父様の言う魑魅魍魎とは、誰のことでしょう?こちらも少々オカンムリですね。


「私も、行き過ぎた発展は軋轢を生むと苦言を呈したんですけど…そっちの裁量は私に任せると言って…時間切れになりました」


 直接話した私が諦めた表情で肩を竦め「どうしょうもない」と表せば、彼らは渋い表情を見せながら引き下がった。


 だいたい神の考えは、我々人類とは大きく異なるからね。今分かっていることと言えば、私という「転生者起爆剤」の導火線が雷管に届くのを楽しみにしているということでしょう。

 

「まぁ、教会に行けばまた会えるそうですから、また色々と質問してきます」

「「「なんだって(ですって)!?」」」

「え?…ですから、教会に行って祈れば、また面会出来るんですよ。アン様直々にそう仰ってましたら、間違いないかと…」


 まだ気になること全部聞けていないからね。私の身分は辺境伯家だが、それ以上公爵・王族クラスが出しゃばってきたら、アン様の目論見も頓挫するかもしれないからし。人の世は案外、権力やしがらみで面倒くさいのだ。特に貴族がなにか行動をする際は、横槍邪魔が入らないよう、根回しが重要になる。


(江戸時代なら、越後屋が悪代官に山吹色のお菓子を渡すんだけど、こっちの根回しってどうするのかな?)


「神が一度ならずニ度も降臨され、対話をするだと?…巫女…いや使徒では…教会にバレる前に隠すか?…いや、カティアには神からの使命が…」


 なにやら危ない思考がダダ漏れになっている。頭を抱えてぶつぶつと呟く父を、にぃ様が少し引き気味に見ているし。私はステータスをもう一度確認してみよう。


称号 異界還り転生者 神々の協力者 創世神の加護


(この神々の協力者と加護を鑑定…)


・神々の協力者…神々が望む道を開拓し得る者。邪魔する者には破滅が待っている。

・創世神の加護…一定の場所でのみ、創世神と面会・対話が可能。経験値十倍(パーティメンバーは経験値四倍)


(Jesus…なにこのさらなるチート感。特にパーティメンバーって冒険者とかにあるグループのことだよね?……これは秘密にしとこう。今のところ冒険者やる予定は『ピコン!』…ん?)


[メッセージが一通届いています]


「……」


 無言でメッセージの文字を押すと、それはさらに形を変えて、フレンドリーな文章が飛び出した。


『パーティメンバーは、君が仲間だと思う人を登録出来るシステムさ。経験値は、冒険者だけが得るものではないからね。文官、武官、暗部など、君がこれから関わる人たちは、多岐に渡る能力を持っている。カティアと共に、僕の夢の道を開拓してくれるんだ。応援して当たり前でしょ?…あっ、パーティメンバーに上限はないし、登録の取り消しもボタン一つでEasyだから!』


(聞きたいことが解決したのはいいけど、破滅って…大袈裟すぎない?しかも仲間認定取り消し簡単とか、裏切りもあるって言いたいの?……私の今世は、殺伐としてそうでやだなぁ)


 背中に冷や汗を流すカティアは、まだこのあたりの感覚は『日本』が抜けきっていなかった。こちらの世界の命の重みは、彼女が思った以上に軽いのだ。彼女も、今後はそれを身を持って痛感する時が来るだろう。


「お父様、アン様との面会・対話は一定の場所で可能という加護による能力ですわ」

「一定の場所というのは…」

「教会など神聖な場所のことでしょう」

 

 ガバっと頭をあげた父は、私の話を聞いて「はっ!」…と閃きを得たらしい。

 

「我が領主邸にも、創世神様を祀った立派な礼拝堂を作ろうではないか!見方を変えれば、これから行う世界の改革の総帥は、創世神様だしな!カティアも、色々な相談事も湧くだろうしな」


「……カティア、教育の先生を探す上で、貴方の能力を詳しく知りたいわ。鑑定も持っていることだし、全てを順番に教えてくれるかしら?」

「はい!」


 父の提案を軽くスルーしたお母様だが、彼女も若干気合が入っている。家庭教師を探すポイントが欲しいと言ってきたが、寄子の貴族家やお母様の伝手で、優秀な人を探してきそうな雰囲気である。 でもママン…お勉強が始まると、ダラダラ出来なくなっちゃうな。あぁ、さらばだ!食っちゃ寝、幼児期よ…グスン。


「スキルは知っていると思うので、ユニークスキルからいきますね。神々の百貨店は、神々が司る関連商品を売る店になってます。これを買うには、私の前世の貯蓄(当選)金額がそのままポイントになってます。万物交流は、人種と言葉が通じない万物と会話が出来るスキルです。それで称号の異界還り転生者は、言葉通り異世界から創世神様に喚ばれた魂が、前世の記憶を持ったまま、こちらの世界に転生した者を指します。神々の協力者と創世神の加護については、先程と被りますので説明は省きますね」


 言えない。百貨店の売上の貢献度が査定に直結してるとか!もちろん信者の信仰心とかも関係あるだろうけど。

 百貨店に査定があると聞いた神々のやる気オーラが怖そうだなぁ。そこまでして世界の発展が欲しいか、創世神アン様よ。


『あぁ、欲しいね!もう遅々として進まない世界は飽き飽きさ!』


(ん?なんか聞こえたような…)


 神界から、アンが覗き見しているとは思っていないカティアには、アンの言葉は聞こえない。


「一つ気になったんだけど…貴方は前世で、いくつまで生きたのかしら?」


 私に質問してきた母に、私は答える。


「前世は三十六歳まで生きました。三歳〜六歳は情操教育を。七歳から十五歳までは義務教育…基礎となる様々な学問を。十六歳から十八歳までは応用や更なる細かな分野に分かれての基礎を…十九歳から二十二歳までは、希望する専門の学問を学びました。二十三歳からは社会に出て商社…貿易関連や企画・商品開発部で働きました」

「まぁ…沢山の勉学を学んだのねぇ。それなら、こちらですべき学問は、国語と歴史と魔法とマナーと楽器とダンスぐらいかしら?…念の為、明日の午前中に色々なテストをしてもいいかしら?」

「はい、お願いします」


 私もこちらの学問のレベルが知りたいからね。望むところだ。


「取り敢えず、スキル・ユニークスキル・称号の全てを隠蔽しておきなさい」

「はい、分かりました」


 母にそう言われた私は、いそいそとステータスボードを操作するのだった。


 そう言えば、兄の護衛騎士の件はどうなったんだろう?…蒸し返して、やぶ蛇踏むのもやだしスルーしよっと!


『ステータスに更新があります。新たなスキル「神通信」が更新しました。「神通信」は新たなスキルとして、世界図書館ワールドライブラリーに登録・所持者記載されます』


 チカッチカッと淡く輝く光に、ぐぅぐぅと眠る私は気付かなかった。


 

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