神崎伊代は、語りたい。ホラー系VTuberの怖い話

読み方は自由

第0章 初めまして

初配信と怖い話

 大手の力が著しい今日。それに隠れて、様々な新人が世に出ている。下は現役小学生から、上は○○歳の後半まで。本当に多種多様な人材がデビューしていた。自分達の人生を変えるために、そして、自分の存在を表すように。その分身に自己を重ねて、社会に自分の姿を見せていたのである。


 ホラー系VTuberとしてデビューした新人、神崎かんざき伊代いよもそんな新人VTuberの一人だった。アバターの年齢は、十五歳。黒髪ロングの黒巫女で、その中身も現役の高校生らしい。


 彼女は最近話題のVTuberに興味を抱き、最初は人気配信者の配信や切り抜き動画を観ていただけだったが、やがて「自分もやりたい」と言う衝動に駆られ、(親の許可は一応、得たらしい)自分もkanzaki.chを創設、自己のピーアールも兼ねたシュート動画を何本も流し、リスナーに自分の存在を知らしはじめた。


 そして、サムネイルの画面も自分で作り、そのアバターや背景なども、自分で描きはじめた。彼女は事前の宣伝通り、四月某日の午前二時に初配信を行った。


「神社の前から、こんばんは。初めまして、『神崎伊代』と申します。生まれも育ちも神社生まれも陰陽区。都内某所の綏靖すいぜい神社で、現役の巫女をしております。悩める恋の相談から、本物の心霊現象まで。当チャンネルは、私自身の心霊体験。そして、リスナーの皆様から寄せられたお便り(マシュマロやDMの事らしい)に題材として、その心霊体験をご紹介するチャンネルです。


 最近起こった不思議な出来事、ずっと昔に聞いた不気味な話。それ等の怖い話をどんどん話すチャンネルです。怖い話が好きな人は、是非ご贔屓ひいきにー。さて、ここからが本番。事前に募集していた怖い話の中から、私が気に入った話を語りたいと思います。かなりの長文で寄せられた、投稿者の怖い話。投稿者の方は、投稿名と話の題名を添えて、ご紹介させて頂きます。では、早速どうぞぉ」


 投稿者:傍観者さん

 題名:「いじめの傍観者」


 初めまして、悪い子と申します。動画のシュートでKanzaki.chを知り、自分の怖い話を投稿したくなりました。私も、神崎さんと(たぶん)同じ高校生です。今年の春から地元を出て、都内の高校に通っています。これを書いているのも、入学式から一ヶ月くらい経ってからです。


 本当は自分の心に留めておくつもりでしたが、周りの友達が私に優しい事、自分の両親にも気を遣われるのが嫌で、最初はとても迷いましたが、こうして「自分の怖い話を送ろう」と思いました。自分に対するケジメも込めて、この話を「書こう」と思ったのです。私は不慣れなパソコンのキーボードを叩き、この嫌な話を書きはじめました。

 

 話は、私が中二の頃にさかのぼります。私はこの頃、あるイジメを見ていました。イジメの原因すら分からない、女子達のイジメです。ある女子生徒の周りを囲んで、その女子に罵詈雑言を浴びせるイジメ。彼女にわざと聞こえるような声で、彼女の悪口を言うイジメ。彼女がトイレの中に入っている時、その上から水を掛けるようなイジメです。


 私は、それ等のイジメをずっと見ていた。そして、そのイジメに怯えていたのです。本当は『ダメだ!』と叫びたかったのに。私は周りの力に怯え、その報復に怯えて、イジメの事実から目を逸らした。我が身可愛さに見て見ぬふりを決めこんだのです。今思うと、本当に嫌な子ですが。

 

 怖がりの私には、「それ」がどうしてもできませんでした。私は被害者の悲鳴を聞き、被害者の涙を見、被害者の怒りを眺めたのです。それも、一番に安全な場所から……。私は周りの女子達が笑う中で、見えない涙を流しつづけました。そして……これはきっと、私達への罰だったのでしょう。


 学校の先生はもちろん、(加害者の家族を除いて)その家族達全員が、イジメへの不干渉を貫いていましたが、それを破る事件が起こった。。地面の上に遺書を置き、学校のフェンスを乗りこえて、そこから校庭の上に飛び降りた。


  彼女が落ちた瞬間は、今でもハッキリと覚えています。映画やドラマでは絶対に描けないシーンが、自分達の頭上から落ちてくる。それが地面の上に落ちて、その周りに鈍い音を、真っ赤な池を作る。彼女が落ちる瞬間を見てしまった生徒達は今も、この時の後遺症に苦しんでいます。授業の途中で叫んだり、気を失ったり。文字通りの生き地獄を見ている。


 今回のイジメに関わった加害者達も、最初こそは自殺への無関心を貫いていましたが、今の社会は怖いですね。こう言う事件が起こると、それを調べる人が出てくる。ネットなんかで特定半とか言われる人達が、加害者達の事をすっかり調べてしまったのです。彼等は加害者の情報を見事に調べると、それ等に対して罰を与えはじめた。

 

 晒し上げから誹謗中傷まで。神崎さんもネットに詳しければ、そう言う情報を知っているかも知れません。彼等はテレビとか新聞とかがどんなに隠しても、ネットの世界に「それ」を流しつづけたのです。彼女達の精神を蝕むように。その精神をどんどん追い込んでいった。

 

 彼女達は、その攻撃に苦しみました。今までは、加害者の立場だったのに。今度は、被害者の立場に追い込まれたのです。ネットからの攻撃を受けて、家の外を歩く事もできなくなった。自分の親から励まされても、それを撥ね除ける子すら居るくらいです。

 

 彼女達は、自分の罪を呪いました。その場のノリと、少しの加虐心に負けた自分を。心の底から呪いました。彼女達は(自業自得ですが)地元の学校から離れて、遠くの高校に受験先を決めました。


 そこでも苦しめられる可能性はありましたが、地元に残るよりはずっと良い。加害者の立場から被害者の立場に落ちるよりは、「ずっとマシだ」と考えたようです。彼女達は学校側の配慮や、先生達の根回しもあって、それぞれの志望校に受かっていきました。

 

 。自分達のやった事は、どんな事でも返ってくるようです。彼女達は自分達が死に追いやった女子生徒、その幽霊に襲われはじめました。最初は、日常の中に違和感を覚えるだけでしたが。それがだんだんハッキリと、分かるようになったのです。


 彼女達はどこに行っても、何をやっても、空間の中に幽霊を感じてしまう。私も彼女達が送ってきた写真の中に幽霊を見た……いえ、「見てしまった」の方が正しいかも知れません。SNSのチェックは、私達の日課です。あんな事があっても、色々な人から叩かれても、誰かを叩くのは止められない。


 私達よりも悪い人間、酷い人間を見つければ、それを叩かずにはいられませんでした。私達が少しでも、「自分は、良い人だ」と思えるように。悪い人への批判は、心の拠り所だったのです。

 

 私達は、「自分は、普通だ」と思いつづけた。「自分よりも悪い人間は、居る」と、そう言う風に思いつづけた。私達の過去を知る人達からは、「お前等の方がクソだ」と言われるけれど。幽霊への対抗心を抱いていた私達には、その言葉ですらも許せない事でした。


 私達は、互い事を支えました。そうする中で、相手の事を罵りました。「あれは、お前のせい」、「アンタが余計な事を言わなければ」と、そんな風に思っていたのです。「自分も悪い」と思う中で、「自分は、一番悪くない」と思った。被害者の側に立って、この苦しみから逃れた。私達は「励まし」と「蔑み」とを混ぜて、残りの春休みを過ごしました。

 

 そして、今に至ります。貴女のチャンネルを知った、今に。私達は……いえ、もう私達じゃありません。春休みまでは一種の依存関係にあった私達ですが、それぞれの高校に通いはじめると、自分の過去を忘れたかったのでしょう。それぞれの連絡先を消してしまった。イジメの呪縛から逃れるように。自分の人生から友達を消し去ってしまったのです。


 私達は互いの場所に消えると、ごめんなさい。どうしているかは、分かりません。「このDMを書こう」とした時も、友達の誰にも話さず、自分だけの考えで書きました。そうする事が、「彼女への償いになる」と思って。だから……。

 

 幽霊は、私の所にも現れます。彼女を初めて見たのは、私が部屋のベッドで寝ている時でしたが。彼女は私の上に覆い被さると、それに抗う私を無視して、その耳元に「ユルサナイ」と囁きました。「オ前モ、アイツ等ト同ジだ」と、そう何度も囁いたんです。彼女は私の意識が途絶えるまで、私に呪いの言葉を吐きつづけた。「オ前モ、苦シメ。オ前モ、苦シメ」

 

 あの世に逝け。そう言われた瞬間に落ちました。目が覚めたのは、翌日の朝です。ベッドの上に寝そべって、(恥ずかしいですが)漏らしていました。私は、両親の所に走りました。そして、昨夜の事を話しました。彼女の幽霊が出た事を包み隠さず話したのです。


 そうしないと、「彼女に許して貰えない」と思って。両親がそれに苦笑してもなお、その体験を話しつづけました。「お願いします、信じて下さい」と、そう何度も叫んで。私は自分の罪を含めて、両親に「お祓いに行きたい」と言いました。「お祓いがダメなら、病院でも良い。とにかく怖いの、耐えられないの!」

 

 両親は、その主張に黙りました。最初は「気の所為だ」と思っていたようですが、私の様子に異常な物を感じたのでしょう。学校の先生とも相談して、最初は町の精神科、次に地元でも有名な霊能者の所に私を連れて行きました。「と、とにかく、視て貰えば!」

 

 何とかなる。それは、私も思いました。精神科から出された薬だけでは、心許ない。これがもし、本当の幽霊ならば? 専門家を頼るしかありません。私は霊能者の男性に洗いざらい話して、「この幽霊をどうにかして下さい!」と頼みました。

 

 でも、ダメだった。霊能者の力に頼っても、この幽霊は祓えませんでした。挙げ句は、霊能者からも「ごめんなさい」と言われる始末で。霊能者は私の目を見て、私に「どうして祓えないのか?」と話しました。「この幽霊は、強すぎる。貴女達への思いがあまりに強くて。普通の方法では、祓えない。彼女の霊を浄めるには、最低でもうん十年掛かります」

 

 絶望でした。今までも「死にたい」と思った事はありましが、こんなにも「死にたい」と思った事はありません。「そんな事を言わずに! どうかお願いします!」と言いかえす気力すらありませんでした。私は真っ暗な気持ちで、霊能者に「他の人でもダメですか?」と聞いた。僅かな希望を抱いて。


 でも、霊能者は「ダメですね」と答えた。「この霊は、本当に危険な霊だ」と、そう撥ね除けられてしまったのです。霊能者は幽霊の力を弱らせるお守りこそくれましたが、それ以上の事はしてくれませんでした。「申し訳ありません。私には、これくらいの事しかできません。貴女と、貴女に憑いている霊の事を考えれば。お守りで防ぐのが、限界です。それ以上は、貴女の命に関わる」

 

 だから、諦めるしかない。そう頭で分かっても、心で解る筈がありません。私は、ただの傍観者です。彼女が虐められるのを見てはいたけど、そのイジメ自体には加わっていない。何もやっていない人が呪われるのは、ある意味でイジメ以上に理不尽です。そんな理不尽は、受けいれられる筈がない。


 私は、霊能者に自分の無罪を訴えました。「あたしはただ、巻きこまれただけだ」と、そう何度も訴えました。私は今までの不満を含めて、この言いようのない怒りをぶつけつづけました。

 

 ですが、それに一言。霊能者から嫌な事を言われてしまった。「」と、そんな風に言われたのです。私は「それ」にカッとなると、霊能者の肩を掴んで、その目をじっと睨みました。何も知らないくせに、私がどんなに苦しいかも分からないくせに。私は両親の制止を振り切って、目の前の男性に怒りをぶつけはじめました。


 その時です、あの声が聞こえたのは。あの恐ろしい、彼女の声が聞こえたのは。彼女は遠くから私と霊能者の事を眺めて、その様子に笑みを浮かべました。まるでそう、クラスのイジメを眺めるように。「自分には、関係ない」と、そう傍観者を決めるように。


 私達の争いを見ては、その修羅場を「クスクス」と笑っていたのです。彼女は口元の笑みを消すと、真面目な顔で私の目を見かえしました。「助ケナイヨ?」

 そしてもう一度、「助ケナイヨ?」と繰りかえした。「貴女ダッテ、ソウシタジャナイ?」

 

 彼女は「ニヤリ」と笑って、景色の中に消えました。それに合わせて、私も霊能者の前に泣き崩れた。自分がどんなに酷かったのかも含めて、その罪に泣き叫んでしまったのです。私は霊能者の人からお茶を貰うまで、馬鹿みたいに泣きつづけました。

 

 でも、それも終わり。彼女の幽霊に怯える日々は、このお便りで終わりです。あの苦しい、傍観者に見られる生活は。このお便りで、うん? 「突然、どうしたの?」って? 話の幽霊は結局、祓えないのに? 普通なら、そうですね。そうなるのが、自然です。どうにもできない問題が起これば、それに落ちこむのは当然の事です。

 

 私自身、彼女達から虐められた時は……。ふふふ、どうしたんです? 「まるで、話の幽霊みたい」って? ……そうです。この話は、生きた人間が書いた物じゃない。死んだ人間が書いた話、。彼女と私じゃ、一人称が違いますかね。彼女の台詞にも、「」があったでしょう? 


 彼女の一人称は、「あたし」です。彼女は、クラスメイトの私を見捨てた。中一の頃は仲良しだった私を見捨てて、あのイジメをずっと眺めていたんです。私は、それが許せなかった。「一生の親友でいよう」と言ったくせに平気で私を見捨てた彼女が許せなかった。


 私は自分が幽霊になっても、彼女はずっと傍観者だったんです。私のイジメを眺めていた傍観者、イジメの加害者と同じ悪人です。悪人に容赦は要らない。貴女が私の不幸を眺めていたのなら、私も貴女の不幸を眺めてやる。貴女に代わって、貴女の幸せを味わってやる。

 

 私は彼女が自分の人生に諦めた瞬間を見て、その体に乗り移りました。最初は、そんなつもりはなかったけど。自分の意思で「死のう」としている彼女を見て、その考えに「カチン」と来てしまったのです。私は彼女の精神を壊して、その人生を乗っ取りました。

 

 いやぁ、実に気持ちいいです。学校の友達は優しいし、彼女の両親も優しい。みんな、みんな、良い人です。毎月のお小遣いも、良いですしね。学校の部活も楽しそう。クラスにも、格好いい男子が居ます。その男子とも何だか良い感じだし。本当、だから……。


 神崎さん、これが私の怖い話です。親友の記憶を盗んで、親友のフリをして書いた話。なんて、なかなか聞けないでしょう? 神崎さんの初配信に使われるかは分かりませんが、イジメの現実を風化させないためにも、この話を紹介いただけたら幸いです。

 

 追伸。この話に出てきたイジメの加害者達ですが、色んな意味で大変なようです。SNSの力で、自分のやった事が知られていますから。暗い青春を送っているみたい。一部のおかしい人は別ですが、大半は悲惨な生活を送っているようです。まあ、私の責任じゃありませんが。私は、私の青春を送ります。神崎さんも自分の活動を楽しんで下さい。それではぁ。


「ううん、凄い話でしたね。初配信の内容にはちょっと、飛ばしすぎたストーリー。まさか、幽霊さんからお便りが来るなんて。私も、流石に読めませんでした。いやはや、本当に驚きです。VTuberデビューして良かったです。みなさんも、楽しい時間を過ごせましたか? このチャンネルでは、こう言った怖い話、不思議な体験などをどんどんご紹介していきます。それでは、次回の怖い話まで。Good nightグッドナイトBad horrorバッドホラー

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