第90話
「凄いです。指輪さえあれば生活できるんですね」
「我々の仕事は何があるのでしょうか?」
へえ、働かなくても生活できると言ったのに真面目な質問だなあ。
うちのニートマスターたちも見習ってほしいものだ。
「あなた方は計算ができるから店の売り子もできるし、土木とか知識の必要ない仕事もある。今のところ仕事をしているのはスライムばかりだが、人が増えたら少しずつ交代していってスライム率を減らしていくつもりだ。だから仕事のバリエーションはどんどん増えていくぞ」
街の住人は旅の途中で見つけていけばいい。最悪、間違って悪人を呼び込んだとしてもこの街では指輪のお陰で犯罪の一つも犯させはしないからな。
うーん、でも入れないって姿勢が重要だろうか。
やはり街に入るには入国管理官を置いてまず鑑定を受けさせよう。
「そうだ!ユースケ様、先生が居ればより良い街づくりができると思います。先生を探して呼んでみてはどうでしょうか」
「どうしてそう思う?」
「先生は村の畑を見て、これこれを植えなさい。その後はこれこれを育てなさいと指示しました。その通りにしたら、その年から村は豊作続きになったのです」
避難民、住人たちは『先生』がまるで神様かなにかのようにその逸話を話し讃えた。
土の状態や気候を見て、それに最適な作物を選んだってことか?
先生は礼儀、戦の行方、農業のどれもが優秀なようだ。他にも色々できるらしい。
そんな傑物現代社会にもそう居ないぞ。
相当教養があるんだな。
「その先生の名は?」
「コーメイ先生です」
高名な先生でコーメイ……高名、こうめい、孔明?
「なるほど………………なるほど⁉」
俺は、自分の耳が信じられなくて思わず声が裏返って叫んでしまった。
短い時間で老師たちが量産した数百の指輪をアイテムボックスに入れ、俺たちは旅を再開した。
「コーメイねぇ……」
住人たちが語ったコーメイの人相や特徴は、東洋人。てか日本人だ。
ほぼ間違いなく勇者だ。しかし孔明を名乗るとは大きく出たな。
孔明、諸葛亮孔明とは三国志に登場する蜀と言う国の軍師だ。
泣いて馬謖を切るや死せる孔明生ける仲達を走らせるという言葉は聞いたことある人も多いだろう。
本の三国志は史実と、話を盛ってたり作者が少々改変した演義がある。
史実でも孔明は活躍するが、演義だとより化物じみた活躍をする。
恐らく一般的に知られている孔明のイメージは演義の方じゃないだろうか。
俺が読んだ三国志の筆者は自分の中で三国志の主人公は孔明であると言っていた。
軍師として大活躍の孔明だが内政では、よりその才能を発揮してたそうだ。
件のコーメイは孔明を名乗るだけの才能はあると俺は思ってる。
味方にすれば頼りになるに違いない。
「探しに行くの?コーメイって人」
リビングのソファで一人で思案してると、後ろからヴァイオレットが俺を覗き込んできた。
「いや、実はもう見つけてある」
「手が早いわね。良かったじゃないの」
「…………長くかかるぞ」
孔明は劉備玄徳が三回家を訪ねる三顧の礼を以てやっと仕えたと言われている。
スライムが見つけたコーメイが住んでいる場所は、俺が読んだ三国志演義に出てくる孔明の家そっくりだった。
さてはこいつ三国志オタクだな。しかもかなり深めの。
てことはこいつが望むことは……。
「まずコーメイが留守のときに一回、次に弟だけが居るときに一回、その後にもう一度コーメイが寝てるときに行かないといけない」
「何それ!面倒くさ!」
「俺が読んだやつだとそうなってるの!」
ちゃんと弟らしき人も居るし、三国志のように俺も三顧の礼を尽くさないとへそを曲げられて味方になってもらえないかもしれない。
「へんなの!」
「じゃあこれ読め」
俺は図書館に行ってヴァイオレットに三国志演義を渡した。
============================
もしも少しでも面白いと思ったら、フォローやレビュー、応援をしていただけると、非常に励みになります。よろしくお願いします!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます