第81話

 俺が現場まで行くと、激戦を繰り広げていた二人は既に戦いをやめていた。


「おぉユースケ様。どうなされましたかの?」


「どうもこうも、聞きたいのはこっちの方だよ」


「なんだ?こいつが爺の主か?ヒョロくて弱そうな坊主だな」


 このジジイ、言いたい放題言いやがるな。


「すいませんの。コヤツはちと頭があれでして。礼儀がなっとらんのです」


「あ?」


「へえ、それで老師、彼の目的は分かったのか?」


「そいつは俺様から言わせてもらうぜ。この足を見てくれ」  


 ジジイが足を出すと、そこは木の棒が付いてるだけだった。

 義足ってことか?てか両足義足であの動きかよ。全盛期はどれほど強かったんだ?恐ろしい。

 何よりも恐ろしいのはジェノルムと義足キャラが被ることだな。


「治療か」


「話が早いぜ。ドクタースライムってので治せねえか?」


「ドクタースライムは再生まではできないんだよなぁ。回復魔法も治ってからここまで時間が掛かってしまうと……あっ…………ああでもなぁ……」


「なんだ?はっきり言えよ」


「俺のスライムに望んで捕食されれば、自分の意識と自我を保ったままヒューマンスライムになれる。スライムだから欠損部位は簡単に修復できるんだが、存在自体は俺のスライムだから強制的に俺の配下になってしまうんだ」


「なんだ、治るんじゃねえか。それで頼むぜ」


 即決かよ。もうちょっと逡巡というものをしてほしいな。

 聖女といい、この剣聖といい、この調子だと勇者もろくなやつじゃない気がする。


「俺様は強いやつと戦えればそれで良い。お前の下に付いてたらいつでもこの爺や他のダンジョンマスターと戦えるんだろ?望むところじゃねえか」


 あー、こういうやつね。戦闘狂と。

 まあ自分の欲望以外だと常識はあるらしいし、戦力向上の面でも仲間に加えることに文句はない。


「それじゃあよろしく。えーっと」


「マスターソードだ。よろしくな坊主」


 まだ坊主呼びかよ。一応ヒューマンスライムになるなら俺が主になるんだけどな……何はともあれ強い仲間が手に入ってよかった。

 俺とマスターソードはガシッと強い握手をした。


 マスターソードの握力が強すぎて指が折れたが、ここで痛がるとかっこがつかないので、素知らぬ顔でこっそりポーションを飲んでおいた。

「ふあぁ、よく寝た。ん?俺様は寝てたのか?」


「違うな。スライムに食われて今進化したから生まれ変わったって言うべきだ。若い頃の自分を強く意識してくれないか?」


「うおぉ!なんだ?俺様の体が……」


 俺が鏡を渡すと、彼はペタペタと自分の顔を触った。


「若返ってやがる!」


 そこに立ってたのは若き日のマスターソード。見たところ二十代かな。金髪で鋭い目、引き締まった筋肉を見ると、ジジイのときより強くなってるのは間違いないだろう。


「自分を思い切り殴ってみてくれ」


「……ぐっ、あれ?痛くねえ。すげえなこれ!」


 しかも物理無効。最強兵器の完成だな。


「気に入ってくれて何よりだ。それじゃあ皆に紹介するからついてきてくれ」


「おう!」


 数日前に来て経緯を知っていたから、マスターソードはすんなりと皆に受け入れられた。


「元剣聖のマスターソードだ。よろしくな!」


「「「よろしくー!」」」


「元⁉引退されたのですか?」


「足が無くなってたからなぁ。一番弟子に譲った。引退してすぐに来たから、どいつも俺様がまだ剣聖をしてると思ってるだろーがな」


 一番弟子?こいつより強いのかな?

 俺の疑問はソランが聞いてくれた。


「足が無くなる前までは互角だったが、この体なら俺様の圧勝よ!」


 それでもあのレベルより上の人間がまだ居るのかよ。異世界怖い。


「何だこりゃ⁉どの飯も美味え!」


 マスターソードはうちの食堂が気に入ったらしく、鍛錬以外の時はほとんどここで過ごしているのを見かけるようになった。


 尚、この後人間側のトップレベル戦力を引き抜いたことをジェノルムに叱られた。

 キャラ被りを防いだのだから感謝して欲しいな。



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