闇バイトで異世界テスター~スキル【種男】(意味深)が異世界で逝く~

森山沼島

闇バイトに応募したわけだが…


  ▶作者からの一言◀


 先ずは全国、否。全世界のタネモト・ハジメさんに深く陳謝します。


 この拙作はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。

 なお、当拙作は犯罪行為及び刑罰・法令に反する行為を容認・推奨するものではないことを事前に強く啓示すると共に、拙作中ではギャグで済ませてしまうあらゆる非人道的な行為を決して許すものではありません(以下者略。


 世の中辛いことばかりだけど、間違っても犯罪行為に走ったりなんかしちゃダメだぞっ❤



  (‥)



 突然だが、俺の名前はタネモト・ハジメ。


 そろそろ道端の花からも唾を吐かれるかもしれん三十路の底辺中年男さ。

 どこに出しても恥ずかしい無精髭の無職。


 故に、独身。


 最近は運動不足もあってメタボになってきた…毎年の健康診断なんて結構前からやってないし、肝機能にもやや不安が募る複雑な中年男心だ。


 こんな夢も希望も無さ気な中年男が主人公なんて嫌だろうが、俺だって嫌なんだぞ?


 別段、これから俺の姿容姿が変わる予定もない。


 あ。この話って別に世に言う異世界転生じゃねーから?

 寧ろ、俺の方がそうであって欲しいくらだよ…チクショー。


 どうしてこんな不毛な事を考えているのかって?


 そりゃあ――


「やべえよ…なあ? マジでやべえよぉ~」

「おい!うるせーぞ!? というか俺らをどこまで連れてく気なんじゃいっ!」

「うっ…うっ…」

「…………」


 こんな状況なんですね、ハイ。


 因みに俺も他の連中も某バラエティ番組みたいにアイマスクとヘッドホン(いや、かなり駄々聞こえしてるけどな)を装着させられている。

 オマケに手と足を拘束され、シートベルトでしっかりと身体をシートに固定されちまってるから安全…じゃなかった、無理矢理シートから立ち上がる訳にもいかんときたもんだ。

 流石にここまでされるのは昨今のコンプライアンス的にも許されないだろう。


 俺がなんでこんな目に遭っているのかと言うと――


「ダメだ…一月分の家賃も払えねぇ。大家さんにはもう三ヶ月分も待って貰ってんのに…」


 俺は一人暮らしのアパートの四畳半で絶望して●ムチャになっていた。


 現在、俺は無職。

 働けども、働けども我が暮らし楽にならず…と、詩人振っても何の解決にもなりゃあしねえよなあ。

 

 上の兄姉と違って出来の悪い俺はとんと親のすねかじり。

 一応、学生時代は粗末なオツムなりに頑張って進学校に通って…二流大学を卒業して親と義兄のコネで何とか就職したものの…。


 ほんの数年で嫌気に負けて辞めちまった。


 そこからは実家に居づらくなってフリーター暮らし。


 まあ、辛い。

 育ちが良かった分、甘ったれてた俺には十分過ぎただろう。

 転々とするバイトだけじゃ年収二百万にも及ばない。

 家賃と食費だけでその殆どが消えていく。


 こんな三十路過ぎまでどうにか持ったのが奇跡だが、それは俺が酒も煙草もギャンブルもやらないヘタレだったからだろう。


 かと言って、ギャンブルめいた事になんて勝ったことは一度も無いけどな。


 だが、そんな俺でも借金だけは作りたくなかった……いや、実際は大家さんに三ヶ月分の家賃を滞納してるので厳密にはアウトだろうが、それでも親を悲しませたく無かった…。


 ……とんだ馬鹿野郎の負け犬野郎だよな。


 だが、そんな不貞寝しながらスマホを眺めていた俺が……見つけちまったんだ。


 短期集中(基本自動継続)アルバイト。


 募集定員人数、十名(現在八名内定)。

 年齢性別問わず。

 送迎あり。

 

 賃金……一週間で五十万円!?


 ……絶対にヤバイだろ?

 コレって冗談や悪戯の類じゃないのだとしたら、よくニュースで見掛ける闇バイトってヤツだろ。


 …………。


 だが、俺は気付けば申し込みのメールを送信してしまっていた。


 返事は直ぐに返ってきた。

 募集人数が集まったので、明日の午後十時に送迎の車を寄越す、と…。


 そうして、深夜のアパート前に一台のマイクロバスがやって来た。


 何故か夜の闇に溶け込むほど真っ黒で不気味なマイクロバスだった。


 俺が困って尻込みしていると、搭乗口から『これから強盗いこうぜ!』みたいな判り易ーい目出し帽(デストロイヤータイプのヤツな)と全身黒ずくめの人物が搭乗口から降りてきたので俺はギョっとした。


「お待たせしました。当方に応募頂いたタネモト・ハジメ様ですね? お迎えに上がりました」

「へぇは!?」


 その覆面がペコリと俺に向ってお辞儀するので参った。


 …しかも、とても美しい女性の声であった。


「あの~…その恰好は?」

「今回ご案内しますお仕事内容の特殊性故の考慮です。あ。他の方も疑問視されていましたが、当方は全く・・犯罪行為と関係ありませんので。ご安心なさって下さい。詳しくは本社・・にて説明しますので……どうぞお乗りになって下さい」

「は、はあ」


 拍子抜けしてしまったというか、呆れてしまったというのか。

 ここでヤのつきそうな男が一緒に出てきたのなら一目散にでも逃げ出しただろう。


 いや、その美しい声の彼女が少し気になったのもあって、ああも簡単に俺はバスに乗り込んでしまったのだろう。


「あなたがお迎えに上がる最後の方ですから、後は本社まで移動するだけですよ」

「ああ、そうだったんです…かっ」


 後ろから共に搭乗してき来た彼女にグイグイとやや押し込まれるように車内に入った俺は目に映る車内の光景に言葉が詰まった。


 そこにはアイマスクとヘッドホンをされた上に手足を拘束された男女がシートに座らされていたからだ。


「や、やっぱり俺帰り――のあーっ!?」

「あっと失礼。気密性保持の為、移動中はコレ・・をして下さいね?」


 突如として視界を塞がれた俺は女とは思えない膂力と手早い動きで手足を拘束された上に膝カックンを受けてシートに座らさられ、仕上げにヘッドホンを装着させられ……こうして、大人しくしているわけだ。


 こんなん、もう拉致だ。

 闇バイトなんかよりもずっとヤバイことに俺は絶賛巻き込まれてるぞ!?



  (‥)



 どれくらい時間が経ったのか覚束ないが、どうにも意識が朦朧とする…。


 まさか、あんな状況でこの繊細な俺がスヤァと寝れるとも思わないし、あの覆面に何かヤバイ薬でも使われたのかもしれない…。


「皆様、お疲れ様でした! 到着ですよー」


 そんな女の声が聞こえたような気がして、謎の浮遊感(え? もしかして俺、抱き上げられてる? 俺これでも九十キロ余裕であるんだぜ?)を感じつつ、すぐに冷たい床の上へと転がされたような感覚が……ああ、ダメだな…また、気が遠の…く……。


 きっと、コレは夢だ…そうだよっ!

 起きればまた、あのボロアパートの畳の上に――


「おい! アンタ無事か!?」

「んお?」


 おもっくそ肩を揺さぶられ目が覚める。


 残念。

 どうやら俺の夢じゃないようだ。


 …………。

 薄暗い。

 どこだここは?


 目が慣れるとそこは分厚い金属(のようなもの)で四方を囲われた手狭な倉庫の中のようだった。


「あ~マジでやべえよぉなあ~。一体これからどうなっちまうんだろぉ~」


 …おや?

 俺を起こしたこのプリン頭(金髪に染めた髪の頭頂部がアレな)のチャラ男。

 どうやら、件のマイクロバスで俺の隣の席にいた奴みたいだ。

 若いから、歳は俺と十は離れてるだろう。


「アンタもこの闇バイト(とは言ったものの、本当はただの拉致の可能性が高いと思うがね)に応募しちまったクチか?」

「そうだよ。義理の兄貴のベンツを二台もぶつけてお釈迦にしちまってよぉ~。…かと言って親父もカンカンでさあ? 自分で働いて弁償しろって…でも、今迄マトモに働いたことなんてなかたったし…どうしたもんかってずっと悩んでてさあ~」


 なんだコイツ…こんな見た目でかなりのボンボンなのか?


「はあ、コレって誘拐ってヤツなのかなぁ~? どう思う?」

「いや違うだろ。身代金目的ならアンタだけここに連れてこられたんじゃないのか?」

「…なるへそ。はあ…けど、どっちにしろ俺達はどうなっちまうんだかなぁ~。…あ、俺はジュウサンカイドウってーの」

「(…言い切った感じだから、ジュウサン・カイドウって訳じゃあないよな? 随分と長い苗字だ)俺はタネモトだ。…悪いがカイドウって呼ばせて貰ってもいいか?」

「お。もちよ! 無駄に長い苗字だし、なんかそっちの方がカッコイイじゃん!」


 こんな状況で緊張感が無いっていうか、逆に大物って言えばいいのか…。


 カイドウが差し出す手を掴んで俺は立ち上がった。


 どうやらカイドウは良いチャラ男のようだな。

 もしかして、そのチャラついた格好はファッション(見せ掛け)で本当は優等生キャラなのか?


 ……いやいや、本当に優等生だったならベンツを二台破損させたり、闇バイトに手を出す訳もなし。


 …ん?

 にしても、ジュウサンカイドウって名前どっかで聞いたような気がするが…今はどうでもよさそうだな。


「にしても、どうしたもんかな…」

「俺も気付いたらこの部屋に閉じ込められてたんだよなぁ~」


 俺はグルリと周囲を見渡す。

 四方の壁は恐らく分厚い金属だと思う。

 あくまでも俺が触った感触では。

 窓は無いが、監視カメラのようなものも見当たらない。


「開けんかいゴラァ!」


 スキンヘッドのとてもガラの悪い巨漢が物凄い勢いでこの部屋唯一の出入り口であろうドアを蹴っていた。

 タンクトップから出た太い腕や嬉しくないチラ見えする背中には彫り物がある。

 …できるだけ今後は関わりたくはないなぁ。


 だが、そのドアは開かないのは事実のようだ。


 他にはその近くで何やら相談する高校生か大学生に見える青年の三人組。


 誰からも距離を取り、今さっき立ち上がった俺を睨む二十歳くらいに見える若い女性二人組。

 顔がやけに似てるな…双子か?


 壁を背にして部屋の中空をボーっと見ているやたらピアスだらけの顔色の悪い不気味な男。


 そして、最後の一人。

 まだ中学生くらいの女の子が震えていた。


 これで計十名の男女……あの募集の定員人数だ。


「カイドウ君。ちょっといいか?」

「カイドウでいいよ。え? タネっち、もしかしてロリコン? ないわぁー」

「違うわ!? このアホ!」


 こんな大人ばかりの場で浮いているあの子が気にならない方がおかしかろう。


 てか、タネっちて……まあ、この際いいけども。


 俺は揶揄うカイドウを「いいからお前もついてこい」と引っ張りながらその少女の下に向う。


「ひっ。な、なんですか…」

「(ぐぅ…! わかっちゃあいたが、初見でここまで露骨に拒否されると精神ダメージがエグイなあ)……驚かせて悪い。ちょっと話がしたくてね? 俺はタネモト。コッチは単なるチャラ男でいいぞ」

「ちょ! タネっち辛辣過ぎねぇ?」


 うるさい。

 俺をロリコン呼ばわりするからだこのチャラ男。


 が、俺達の即興コントが功を奏したのか、彼女の表情の強張りをやや緩和できたようだ。


「……そうか、やはり君もあの応募を見てか」

「はい…その私の家はお父さんと二人なんですけど…その借金があって。でも、お父さんは仕事が上手く見つからないみたいで…それで……」


 聞けばまだ中学生だというルリちゃんの言葉を聞いた俺は、腹の底から熱いものが込み上げてくる。


 そう、それは世間一般的には“正義の怒り”や“義憤”と呼ばれるものだろうか。

 こんな健気で可愛い子を悲しませやがって…!

 さっさとちゃんと仕事見つけて働けよっ!

 もし、顔を合せる機会があればそん時は俺がぶん殴ってやるぜ!


 ……コレを世間一般的には“同族嫌悪”と呼ぶ。


「ルリちゃんが可哀想だぜ! 俺がその糞親父をブン殴ってやるよ!」

「…………」


 おい。

 俺の出そうで我慢していたセリフを盗るんじゃない。


 だが、カイドウの少しおふざけした見え切りを前にしても彼女の表情が晴れることはなかった。


 無理もない。

 俺だってそうだ。


 一体これからどうなるのか、この場に居る誰もが答えを知らないんだからな。


 そんな折に、開かずのドア相手にハッスルして疲労したのであろうスキンヘッドがヨロヨロとドアから離れた時だった。


 カチャリ。


「「!?」」


 突如としてそのドアが開いたのだ。


「ぶふっ!? あのハゲがあれだけ頑張ってたのにこうも簡単に…プフッ!」

「おい。やめて差し上げろ」


 俺の隣にいるカイドウが噴き出したので窘める。


「準備が終わりましたので、どうぞ皆様……コチラへ」

「「…………」」


 何ともないかのような声でそう告げられ、俺達は互いに顔を見合わせて身動きできずにいた。


 だが、その中でも終始無言だったピアス男が迷いなくそのドアの先へとスタスタと歩いて行ってしまう。


 俺はそれを呆然と見送ったが、それを皮切りに女性二人組に青年三人組がドアを潜り、慌ててその後を汗だくになったスキンヘッドが転げるように追っていく。


 そして、この部屋に残ったのは俺達三人になった。


「タネっち…」

「どうやら、行くしかないらしい」

「…………(コクリ)」


 俺が二人を見やると緊張した面持ちで頷く。

 静かに早く、大きく鳴っていく自身の胸の鼓動を感じながら俺達もまたドアの先へと向かう。


 ドアの先には先程の部屋よりも二回り広く、天井も倍は高い空間があった。


 その部屋には学校の体育館(と言っても良いのかは判らんが)のような校長からのお話です的な事が行われる演台があり、その中央頭上には巨大なモニターがある。

 その左右にある数台のモニターも気に掛かるが…その演台と向かい合うようにして設置してある機械のようなものと、人ひとりがスッポリ入るような大きさの箱の収納ボックスらしきもののセットが複数ある。


 その数は十……何故か嫌な予感がするのは俺だけだろうか?


 先に来た面々はそれらを呆然と眺めたり、他の出入り口を必死に探すあの青年三人組の姿もあったが……胸倉の掴み合いになっている感じからして期待はできねえな。


「カイドウ…コレ・・。何だと思う?」

「いやぁ~流石に最新ゲームの筐体機ってことはないかなぁ~…というか、そもそも機械?みたいだけど…見た事も無い規格の部品ばかりでしょ? 昔のSF映画に出て来る別の惑星種族の技術体系みたい、な?」

「…………」


 カイドウの言うことはかなりぶっ飛んだ内容に聞こえるが、違う・・とは断言できない自分がいる。


 それが無機物なのか有機物なのであるのかすら判別がつかない。

 確かに機械のようなものと形容したが、全く正体がわからない謎の超高度文明のテクノロジーを感じさせるほどそれらが現実離れしている代物だったからだ…。


 少なくとも俺にはそう感じられた。


 そんな事を考えながら側にルリちゃんを置いてカイドウと共に機械を物色していたのだが……急に場が騒めく。


 俺達が顔を上げると壇上にあの覆面の姿があった。

 いつの間に…っ!?


「おいテメー! こんな訳のわからんとこまで連れてきてどーいうともりだコラぁ!?」


 やや先程よりも掠れた声でスキンヘッドが壇上の人物へと吠える。


 …だが――


「お静かに」

「「……っ」」


 その余りにも凛として静かだが、腹の底に響く声に皆が息をするのも忘れる。


 壇上の人物がそっと顔を覆う覆面に手を伸ばした。


「先ず、改めて自己紹介致します。私の名はヘレス。今回、皆様を異世界テスター・・・・・・・として雇用した雇用主にして主人。この場に招待されたあなた方は言わば、私に選ばれた・・・・存在なのです。…では、この場にて、その正体を明かすと致しましょうか……っ(シュババッ!)」


 そして、その人物がどうして覆面だけでなく衣装まで一瞬で脱ぎ去ることができたのかは謎だが…その姿が遂に俺達の前で明らかになったのだ!


 ご、ゴクリ…!


「なんとぉ~~? 異世界のマジモンの女神でぇ~す!!」

「「…………」」


 そこには何故か後光が射すほどのドヤ顔キラキラ女神が降臨していたわけだが。

 いや、実際に光ってるっぽいな。

 

 俺達はその女神の神気に当てられたのか。


 いやはや、または人間如きに理解し難い女神のナンセンスによって時を凍らせられてしまったのではなかろうか。


「た、タネっち…?」

「ああ、コレはヤバいぞ。想像していたよりも遥か斜め上に…っ!」



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