続:KU。RU。MA。

若阿夢

回想

  2024年2月2日。私は帰宅し、その日届いた、表に

「重要なお知らせ ご愛用車のリコールのご案内」

と書かれた父酔他自動車からの封筒を開封した。現在乗っているTAROSに関するもののようだ。

「ご愛用車においては令和5年6月にも同部位のリコールをご案内しておりますが、新たな原因が判明したため、、」

と書かれている。

 先ほどつけたテレビでは、

「工場、稼働時間を一時間短縮」

というニュースが流れている。コメンテーターが

「これって、対処になるんでしょうか。」

というのを聞きながら、家や携帯の着信履歴に、何ら父酔他自動車のものがないのを確かめ、私はコメンテーターへの回答をぼそっとつぶやいた。

「いや、全体的に見直しかけなきゃダメでしょ。」


 --

 盛剰さんは、ずっと私の母付きの営業だった。少なくとも、10年は担当していたと思われる。盛剰さんから母が何回も買い替えるので、てっきり私は盛剰さんが、優秀な営業なのかと思っていた。


 疑問を感じたのは、私が、まだ母と同居をしておらず、遠方で台髪に乗っていた時だ。何か見てもらうために単独で父酔他に寄った時からだ。その時、盛剰さんの対応は目が死んでいて、口では言わないが、おざなりで早く帰れ的な感じだった。

 一応、私は台髪車を即金ではあるが、母経由でその車を盛剰さんから買っている。だが、私に盛剰さんが営業でついているわけではない。所謂「一見さん」扱いはありうる。私は

「母が一緒じゃないとだめなのかな。」

と思った。あまり良くはないが、それならそれで仕方はない。当時、母は高齢ではあっても歳には見えず、塾講師をしていて地元余山では人気があった。盛剰さんの子供を教えたとかあるかもしれない。働いている時間以外は始終車で何処かに行くアクティブな人で、何台も車を買い替えるとなれば、営業が対応に差をつけても仕方はないとしよう。


 盛剰さんが決定的に駄目な営業だと思ったのは、母が失明してからである。母の失明は、支払いが遅延するわけでもなく、父酔他に金銭的には何ら影響を与えていないのだが、あからさまに、いい加減な態度を取るようになった。

 昔、私が母と一緒に父酔他に寄った際には、盛剰さんは熱心に世間話をしていたところ、母が失明し、会話をするのに少し苦労するとわかると同時に、常に同席している母を存在しないもの的に扱うようになったのである。母の名義の車であれば、母が顧客であって、私は運転者に過ぎないにも関わらず。


 ただ、私についても、現在、何処かの企業の看板がついているわけではないせいか、応対は軽視された。

 TAROSに乗り換えた直後、我々が忙しく、無料の半年点検を受けられなかったのを、そのあたりをすっ飛ばして、盛剰さんは

「一年点検にしましょう。項目みな入っています。」

といい、TAROSがまだ8か月ばかりと、一年になっていないのに一年点検にされた。これは、盛剰さん側の都合に過ぎない。一年未満の、しかもあまり乗られていない車が一年点検で何か起きるわけがない。むしろ、半年点検の点検範囲で十分だと思うから、私は、正しく説得されていない。盛剰さんが単に無料の点検を節約したかっただけだろう。


 父酔他が現金購入を好まず、ローンにさせるのは、サービスパックを同時につけて、維持管理でお金を取りたいということだろう。あまり良くはないが、それはいいとする。TAROSはサービスパックに入っている。ただ、盛剰さんは、予約も何も、整備担当に丸投げだ。我々の維持管理の来店の際にろくに顔も出さず、出す際も、少しだけ能面で出てきて、

「次のお客様が入っておりますので…」

と、いなくなる。過去に盛剰さんは、母に、自分は父酔他で出来る営業で、そこのディーラーでNo.2と言っていたようであるが、ずいぶんと馬鹿にされたものである。次のお客様が入っているのは、口実か、我々に十分な時間を割り振っていないだけ。営業の忙しさなど、顧客の我々には関係ない。「丸投げ」と「信用して任せている」の違いがお分かりではないようだ。


 確かに、母は失明し、失明したてで仕事をやめざるをえなくなった老人だ。随分と我々はみすぼらしく見えただろう。我々は、母が失明した後の生活スタイルを確立するのに精いっぱいで、見た目までは手が回っていなかった。しかし、それだけだ。その状態が固定され、うん十年と続くわけではない。私が介護離職しているのは、母の失明以降の事態を改善するためだ。そして、私の離職状態は、たまたまこの数年、元は首都圏のB to Bのエンジニアである。企業で企業を選定していた為、選定眼と経験は蓄積されている。


 盛剰さんのお陰で、仕事で駄目な企業を置き換えた日々のことを懐かしく思い出す。システム絡みは長期戦、相手先がいまいちでも、次の目途がつく迄は、ぎりぎりそこを使うのだ。



 


 








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