学校一の完璧美少女は僕の前でだけ残念になるようです。
斜偲泳(ななしの えい)
第1話 好きだ小丸君! 結婚してくれ!
「好きだ
「………………ちょっと待ってください!?」
ポカンと呆けて思わず突っ込む。
夕日の射し込む放課後の空き教室。
……いやなんで!?
突然過ぎて理解が追いつかない。
優斗はどこにでもいそうな冴えないチビのオタクである。
女の子にモテるタイプでは全くないし、モテた事だって一度もない。
ラブコメで言ったら画面端にちょこっと見きれる名無しのモブのような少年だ。
対する沙苗はその名の通り美の女神に祝福を授かったとしか思えない超絶美少女である。
黒髪ロングに色白の清楚系で、凛々しくも女性的な可愛さを宿す美貌は女優とアイドルのハイブリット、手足の長いスラリとした長身はモデル級で、そのくせ胸はグラビア顔負けの大迫力だ。
中身だってハイスペックで成績優秀スポーツ万能人望激厚品行方正のパーフェクト美少女である。
そんな彼女がなんで僕なんかに求婚を!?
心当たりがなさ過ぎて嬉しさよりも恐怖を感じる。
そんな小丸を沙苗は巨大なバストを支えるように腕組みをしてジッと見つめ。
「………………よし待ったぞ。結婚してくれ!」
ニパッと太陽みたいに眩しい笑顔を向けて来る。
「いやそういう意味じゃなくて!?」
「じゃあどういう意味なんだ? 私にも分かるように説明してくれ!」
「だっておかしいじゃないですか! 美神さんとはクラスも違うし、今までろくに話した事もないんですよ!? それでいきなり好きとか言われても……」
優斗は一組で沙苗は三組だ。
ちなみに二人とも高校一年生である。
「もしかして、僕の事からかってるんですか? 嘘告的な……」
下駄箱のラブレターを見つけた時からその可能性は考慮していた。
というか、絶対そうに決まっているとさえ思っていた。
それでもノコノコ呼び出しに応じてしまったのは、もしかしたら1%くらいは本当かもという期待があったからだ。
だが、相手が沙苗ではその可能性はない。
ゼロ、皆無、nullだ。
百回転生しても有り得ない出来事だ。
そんな優斗の態度に沙苗はガビンとショックを受け。
「違う!? 120パーセント本気と書いてマジだ! 信じてくれ! 小丸君は私がそんな卑劣な事をする女だと思うのか!?」
「それは、思いませんけど……」
沙苗は美少女なだけでなく人格者としても有名だ。
曲がった事は大嫌いで、間違った事を言っていたら先生にだって食って掛かる。イジメなんかもっての外で、そういう事をしている輩を見つけたら男だろうが女だろうが正面から注意する正義の人だ。
「だろう? それに、確かに小丸君と話した事はほとんどないが、同じクラスだった事はある」
「……それって、中学生の時の話ですか?」
沙苗と優斗は同じ中学校に通っていた。
同じクラスと言っても一年生の時の一度だけだが。
その頃から沙苗は人気者で有名人で完璧美少女であらゆる告白を一刀両断に斬り捨てる高嶺の花だった。
「おぉ! 覚えていてくれたのか! 嬉しいぞ!」
無邪気に喜ぶ沙苗を見ていると嘘や悪戯の類には思えない。
「そりゃ、美神さんはあの頃から可愛くて綺麗で人気者の完璧超人でしたから。忘れるわけはないですけど……」
「ぐはぁっ!?」
突然沙苗が胸を押さえてよろめいた。
「ど、どうしたんですか!?」
「どうもこうもあるか! いきなり好きな人にべた褒めされたら心臓がキュッとなってドキバクするに決まってるだろ!? 小丸君は私を殺す気か!」
沙苗は色白の肌を真っ赤に染め、涙目になって「フゥッ……フゥッ……」と何かを堪えるように色っぽい吐息を吐いている。
「いや、全然そんな気はないんですけど……。美神さん、本当に僕の事が好きなんですか?」
「大好きだ! だから結婚しよう!」
「そこが飛躍しすぎてるんだよなぁ……」
普通の告白ならまだしも、あまりにも熱力が高すぎる。
「その、もしかしてなんですけど、別の誰かと勘違いしてませんか? それか、熱でもあるとか……」
何の接点もない冴えないオタクを好きになるよりもそっちの方が余程現実的である。
「熱はある」
「やっぱり……。病気ならさっさと病院に行った方がいいですよ?」
「無駄だ。この病気は医者には治せない。なぜならこれは恋の病だからな!」
ドヤ顔で片目を瞑ると、沙苗はピストルの形にした指でバキュンと優斗を撃った。
「うわぁ……」
「ドン引き!? しくじったぁああ!? 今のは忘れてくれ! 普段の私はこんなじゃない! 好きな人を目の前にしてテンションがおかしくなってしまっているんだ!」
「それもどうかと思いますけど……」
これまで抱いていた沙苗に対するイメージがすごい勢いで崩れていく気がする。
「そもそも、美神さんはなんで僕の事が好きなんですか?」
「んなぁ!? そ、それを私の口から言わせるのか!?」
「だって心当たりが全然ないんですもん。僕はこの通り冴えないオタクのチビ助ですよ? 対する美神さんは中学の頃からモテまくりの美少女です。今まで一度も彼氏作った事なかったし。そんな人に急に告白されたらなにかあるんじゃないかって思うじゃないですか」
「それはそうかもしれないが……。好きになった理由を言わせるなんて、小丸君はサディストか? だが、それもいい……」
たわわな胸の前で人差し指をモジモジさせると、ブツブツ言いながら沙苗の息が荒くなる。
「……うわぁ」
「ち、違う! 今のはちょっと心の声が漏れただけだ!」
「なにも違わないじゃないですか」
「ここだけの話だが、実は私はちょっとMっ気があるんだ」
「聞いてませんよ!」
「小丸君だから話したんだ。フフッ。二人だけの秘密が出来たな」
「嬉しそうに言われても困るんですけど……」
もしかして、実は美神さんって残念系なのでは?
「あぁ! 小丸君今、私の事残念な奴だって思っただろ!」
「オモッテマセンヨー」
「君の前だけだ! 君を前にすると自分が自分でなくてなっておかしなことをしてしまうんだ! それくらい君の事が好きなんだ!」
「……そ、そうですか」
これには優斗もドキッとした。
不可解だとしても、こんな風に直球で好意をぶつけられたら悪い気はしない。
「それに私は、ずっと前から君の事が好きだったんだ!」
「そうなんですか!?」
そんなの初耳である。
「そうだとも! 最初に君を意識したのは中一の頃の中間試験だ。消しゴムを忘れて困っている私に、君は何も言わずに自分の消しゴムを半分に割って分けてくれただろ?」
確かに中一の一学期だけは沙苗と席が隣だったが。
「……そんな事しましたっけ?」
「覚えてないのか!?」
ガクッと沙苗の肩がコケる。
「全然……」
「じゃあ、バスでおばあさんに席を譲ったのは? あれは私の祖母だったんだ!」
「記憶にないなぁ……」
お年寄りに席を譲る事はあるが、そんな事一々覚えていない。
「そうか……。だが、そういう所が逆に好きだ! 他にも色々、花壇に捨てられている空き缶を捨てたりとか、放課後の掃除をちゃんとやるとか、そういう優しくて真面目な所が好きだ!」
「たまたまですよ。それに買い被りです。そりゃ、悪い事はしませんけど。別に言う程優しくも真面目でもないって言うか。普通ですよ?」
「他にもある! みんなが私の悪口を言っている時も君だけは私を悪く言わなかった!」
「え? 美神さんでも悪口言われる事とかあるんですか?」
「……え~と。中一の頃の一時期、私を敵視する女子グループに委員長気取りの勘違い女とか言われて根も葉もない噂を流されていたんだが……ご存じない?」
「知らないですね。友達とかいなかったので」
「そ、そうか……。それは悪い事を聞いた……」
「別に悪くはないですけど。今だってボッチですし」
「それはつまり、フリーという事でいいのかな!?」
興奮気味に沙苗が言う。
「彼女がいないって意味ならそうですけど。っていうか、いるように見えますか?」
「分からないだろ! 案外君みたいなタイプは可愛い幼馴染とコッソリ付き合ってたりしそうじゃないか!」
「ハハハ。そんな夢みたいな話ないですって……」
乾いた笑いが零れ落ちた。
現実は幼馴染どころか友達もいないボッチ君である。
「よかったぁ……。勇気が出なくて今までずっと言えなかったんだ! そうしている間にも君へのラブは膨れるばかり! 好きになればなる程ダメだった時が怖くて余計に言えなくなる。それどころか話しかける事も出来なかったんだ!」
「じゃあ、今まで告白を全部断ってたのは……」
「勿論好きな人がいるからだ。そしてその相手とは君なんだ! 私達ももう高校生だろ? いい加減勇気を出さないと誰かに君を盗られてしまう。そう思って告白した。改めて言うぞ! 好きだ小丸君! 私と結婚してくれ!」
「………………」
どうやら沙苗は冗談抜きで優斗を好きらしい。
納得はいかないが理解はした。
だからこそ、優斗は真剣に考え結論を出した。
「無理ですごめんなさい」
「なぜだ!? 自分で言うのもなんだが、私はこの通り誰もが憧れるパーフェクトな完璧美少女だぞ! 君の為にこの三年間必死に自分を磨いたんだ! 不満があれば直すから言ってくれ! 必ず君好みの女になってみせるから!」
「そういう問題じゃないんですよ……」
溜息と共に優斗は理由を説明した。
「18歳未満は結婚できないって日本の法律で決まってるんです」
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