あの時

第17話

しばらくして、元希が集中治療室から出てきた。

あのときに頭に加わった強い衝撃が悪い方向に進行していき、元希の脳の中ではその際に入り込んだ悪いウイルスが炎症を起こしていたという。そしてレントゲン写真を見ながら

「小脳が委縮してしまっていて、元希くんの意識が戻ったとしても小脳は正常に機能しない可能性があります。私たちも死力を尽くしましたがあの瞬間の脳へ与えたダメージと、倒れた時の脳出血の拡大を私たちの手で食い止めることはできせんでした…息子さんの突然の出来事で親御さんの悲しみは私たちに想像することはできないと思いますが、病院の職員一同、秦泉寺元希さんの早期の回復をお祈りいたします」

と担当の医師から説明された。

一時は心拍数も低下して医師の治療によってなんとか一命はとりとめた元希。最悪の事態は免れ、まだ小学一年生という息子の大事な命を救っていただいた病院の方々には感謝しきれなかったが、それと同時に貴子の目からは自然と涙が溢れだしていた。

秦泉寺家は元希が誕生してわずか数週間後に、交通事故で父親を亡くしていたのだ。