第2話 したくないことってのは、嫌でもくるもんだ。


 「タチカワ中尉。昨日の仕事は?」


 「あ、こちらです。」


 昨日。いや、今日もボンヤリしていたヤクモに、いつも通りにヒョッコリと顔を出す上官に、仕事を渡したヤクモ。いつも通りの仕事。いつも通りの嫌味。これで夕食を食べて、日課を終えて寝る。いつも通りのハズだったのだが、


 「タチカワ中尉。」


 「はい?」


 「すまないが、本日の1700時に補給品受領があるため、受け取り確認を頼む。格納庫で行われるから。」


 今日に限って別の仕事を押し付けれられることになった。…かと言っても、嫌な顔をするわけでもなく上官から押し付けられた。もしくは任された仕事をこなすために、文句や愚痴もなく宇宙服を着て格納庫に向かうことにしたヤクモだった。





 「それにしてもやっぱデケーな。このミズホは。」


 格納庫で補給品とやらが届くまで、ハンガー並ぶ、我が軍の主力TAタクティカルアーマー・ミズホが8mの巨体をどこか窮屈そうに固定されていた。

 どこか気の抜けたような事を言っているが、これでも男。巨大ロボにはそれなりに大きなロマンを感じているヤクモ。まぁ、自分で死地に飛び込むようなマシンに勇んで乗る気はないのだが。


 「タチカワ中尉。少し良いかな。」


 ボンヤリと主力TAを見ていたヤクモに、基地防衛隊の大尉が声をかけてきた。


 「はい。何かありましたか?」


 「特に用を言うわけではないのだが、待機時間で他にすることもないからな。」


 つまりは暇だから声をかけたというわけか。ヤクモとしては別に世間話ぐらいならいいのだが、正直、この大尉の事は殆ど知らない。…かと言って知らないからと邪険にあしらうほど性格も悪くないヤクモは雑談に付き合うことにした。


 「こんな後方基地には無縁な話だが、ミズホの後継機の話は聞いたか?」


 「あー、本国で新開発されたとか。なんとか。たしかにミズホはアップデートされてきましたけど、初期型から約40年。長生きしてますけど、前線では結構、不満が出てるとか聞きました。」


 この巨人。いや、ミズホは自画自賛する訳では無いのだが汎用性は抜群で、簡単な改修で陸海空宇宙と使うことが出来る傑作機ではある。なにせ改修に改修を重ね続けて現役を続けて国防と治安維持を担い、数多くの敵新作機と渡り合ってきた。渡り合ってきたのだが、元々の設計は40年前のもの。基礎設計が優秀と言っても流石に、最近は新型機や新兵器によって時代に残されたロートル機体になりつつある。

 

 「俺はコイツが好きなんだがなぁ。15年近く乗っていると愛着が・・・・」


 「たしかに。ずっと使ってますと愛着が湧きますよね。」(しまった。コイツはロボオタクか。)


 話し始めて30分。はじめは新型機の話や、戦況の変化などを話していたのだが、大尉の話に熱がこもりはじめてから様子が変わった。

 大尉の愛機であるミズホのカスタム機の自慢話と愛着について語り、コクピットの改造や、OSについての説明になると大尉の話は止まらなくなってきた。にこやかに愛想笑いを浮かべて、相槌を打つヤクモも少しばかりウンザリ。疲れてきた部分もあるが、止めるに止められない。さらに30分語りつづけた大尉の話を止めたのは、


 『タチカワ中尉。補給隊が到着しました。受け入れのためにハッチ開きます。』


 補給隊と護衛艦隊が少し予定より遅れて到着した報告と、開かれたハッチから飛び込んで来る爆炎だった。本当に声を上げるまもなく、あっという間に格納庫は爆炎に飲まれてしまう。そんな速度と火力によって格納庫内部で作業していた大多数の作業員は、趣味の悪い焼肉になってしまうか。もしくは、衝撃波によって壁に叩きつけられミンチになるかであったが、


 「あ、あっぶねぇなぁ。取っててよかった『肉体強化』。いや、本当に。」


 ヤクモは、溢れ出る冷や汗を拭いつつ、かすり傷程度で済んだことを感謝した。爆炎に飲まれる数秒の間に、ヤクモは大尉のミズホ改に投げ込んでいた。

 常人ならざる高速での咄嗟の反応ではあったが、爆炎に飲まれる前に周囲にいた数名を言い方は悪いが大尉のオマケで救助できた。それでも時間を止めているわけではないので、無傷とはいかない。救助した数名は全身打撲や火傷で気を失ったりしていた。

 狭いコクピットの中は地獄絵図の様相ではあったが、ヤクモは簡単な応急処置と機体に備え付けられたメディカルキットで痛み止めを打ち込むと、ミズホ改の起動作業を開始した。

 着任してからはご無沙汰ではあった操縦ではあったが、優秀ではなくとも、士官学校や幹部学校で学んだことを忘れることはなく、戸惑うことなくモニターには周囲が映り、巨躯には力がみなぎる。


 「さすが頑丈さに定評があるミズホ。助かるわぁ。・・・・基地は無事じゃないようだけど。」


 モニター全体が火の海であり、送られてくる戦術データは基地への誘爆と、基地外部での護衛艦隊が恐慌状態に陥り、戦力にならないことが送られてくる。


 「総員退避の命令だけは下りてて助かる。問題は、起動はともかく、数年ぶりに操縦するけど大丈夫かなってことだよなぁ。」


 多分、死んでいる基地司令の最後の命令によって、『敵前逃亡』にはならないことに感謝しつつ、久々の。いや、初のカスタム機の操縦に緊張しつつ、固定されていたハンガーを破壊し、流れ込んでくる爆炎を遡る様にハッチから基地を脱出するのだった。


 

 





※TA・・・・タクティカルアーマー。宇宙艦と共に宇宙の主力であり、基本的に陸海空宇宙と使える汎用性のある8~10m程度の人形機動兵器。バッテリーで主動力であり、各国ごとの特色・特徴がある。専門的な他の戦力に比べて特化するものはないが、汎用性の高さで宇宙全体で官民関係なく使われている。



※ミズホ・・・頑丈かつ簡単かつ短時間の改造・改修で陸海空宇宙に対応する高い汎用性を持つTA。開発から10年は頑丈さと汎用性で、TAとしては無敵の王者として君臨していたが、現在は基礎設計の古さと、模倣・発展による他国の機体によってロートルになりつつある。単眼・屈曲装甲・生産性の高さでまさに『量産機』といえる機体。


※270字ほど修正

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