第2話


1:名無しの凡才

お前ら……久しぶりやな

 

2:名無しの野球人

本物か?

 

3:名無しの野球人

偽物が湧きすぎて信用ならんな

 

4:名無しの野球人

約束通りのブツを見せろ。

 

5:名無しの野球人

言葉はいらん。

証拠で示すのみよ

 

6:名無しの凡才

【写真】

これでええか?

 

7:名無しの野球人

ふむ。

間違いなく、塵芥高校の学生証。

顔写真のところに写っているのは、到底高校一年には見えないゴツイ顔立ちの筋肉ダルマ……。

……おかえりやで、イッチ

 

8:名無しの野球人

【朗報】漢ゴリチン、有言実行する。

 

9:名無しの野球人

どちらかといえば悲報では?

あの塵芥高校に入学してしまったのだから。

 

10:名無しの野球人

塵芥高校の内情を知るものは少ない……。

在学生とはまともに会話できないし、卒業した人間は更生して塵芥高校にいた事を隠す奴と完全に反社になってしまう奴の二つのパターンに分かれるから……。

 

11:名無しの野球人

塵芥高校出身だと開示する事は「自分はヤバい奴らと関わりのある異常者です」と公言するのと同義だからな

 

12:名無しの野球人

噂によると、毎日のように学園内で抗争が起きとるんやろ?

恐ろしすぎる。

 

13:名無しの野球人

塵芥の意味はゴミや取るに足らないもの。

塵芥高校の不良共が日夜騒ぎを起こすこともあって、この高校は近隣住民に「ゴミ箱」って言われてるもんな。

 

14:名無しの野球人

改めて考えると、なんでこんな学校が今も続いてんねん。

さっさと廃校にしろや

 

15:名無しの野球人

ろくでもないやつが他の学校に行かないようにする受け皿的な役割があるんじゃね?

 

16:名無しの野球人

それよりもイッチやイッチ。

昨日、入学式だったそうやんか。

どんな感じだったか教えてくれ

 

17:名無しの凡才

>>16

マジでめちゃくちゃやった。

新入生に向かって話をする校長のズラを剥ぎ取ってぶん投げる奴はいるわ、体育館内に単車を持ち込む奴は現れるわでやりたい放題。

それを止めにかかる武闘派の先生と喧嘩っ早い生徒の取っ組み合いが始まった瞬間に、周囲は馬鹿みたいに盛り上がって耳が壊れるかと思ったわ。

ワイはスレのみんなに報告するためにその場から離れなかったが、まともそうな新入生は揃いも揃って逃げ出す。

そして、逃げ惑う新入生を捕まえて金をむしり取る狡い奴もいるしでカオス過ぎる。

そんな馬鹿騒ぎを止めたのは、長い黒髪と一際高い身長が印象的に残るワイ好みの和服が似合いそうな美人やった。

 

18:名無しの野球人

想像を遥かに上回ってたわ

 

19:名無しの野球人

喧嘩っ早い生徒はまだ分かるけど、武闘派の先生って何やねんw

 

20:名無しの野球人

日常生活で魔法の使用が制限されてて良かったな。

塵芥の奴ら、ろくでもないことにしか魔法を使わなさそうやもん。

 

21:名無しの野球人

スレに報告するためとは言え、その場に居続けるとか根性あるな

 

22:名無しの野球人

見てる分には面白そうだけど、絶対に関わりたくはないですね

 

23:名無しの野球人

逃げ出す新入生はなんで入学したんだよ

もっとマシなところあったやろ!

 

24:名無しの野球人

>>23

バカすぎて、塵芥高校しか受からなかった説

 

25:名無しの野球人

和服美人さんの強キャラ感よ

 

26:名無しの凡才

パイプ椅子にじっと座っていた和服美人が立ち上がると、周囲はしんと静まり返る。

ヤンキー共はもちろんのこと、教師陣でさえもだんまりしていた。

この人が番長なんかな……って思ったワイは間抜け面でその様子をぼーっと眺める。

すると、和服美人とワイの視線が交差した。

 

「大川アキラくん……今から私と勝負しませんか?」

 

ワイに向かって微笑みかけた和服美人はそう告げる。

因みに大川アキラってのはワイの名前や。

……いや、なんで?

 

27:名無しの野球人

本当になんでなん?

 

28:名無しの野球人

和服美人ちゃんは、野球が上手い奴と勝負せずにはいられない戦闘民族なんやろ(適当)

 

29:名無しの野球人

急展開やね

 

30:名無しの野球人

和服美人ちゃんはイッチのこと知っとるみたいやけど、イッチは和服美人ちゃんのこと知らないんか?

 

31:名無しの天才

入学して早々、勝負を挑まれるなんて……野蛮な学校ね

 

32:名無しの凡才

「申し訳ないですが、貴方に拒否権はありません。もちろん、逃げるのも許しませんよ」

 

和服美人がパチンと指を鳴らすと、釘バットを持った時代錯誤のスケバン共がぞろぞろと現れる。

この時、ワイは神妙な顔つきで腕を組んでいたが、正直怖すぎてチビりそうやった。

 

和服美人がパンパンと手を叩くと、ヤンキー共と教師陣はささっと壁際に退き、彼女の配下のスケバンは何かの準備を始める。

この時、ワイは目を瞑りながら立ち尽くしていたが、心底恐ろしくて泣きそうやった。

 

>>30

知らんよ。全く知りゃんのや。

 

33:名無しの野球人

イッチの立ち振る舞いは強そうやな。

でも、内面が情けなさ過ぎる。

 

34:名無しの野球人

申し訳ないけど、ゴリラみたいな見た目しとるイッチが恐怖で震えてる姿を想像するだけで笑えるわw

 

35:名無しの野球人

和服美人ちゃん、朗らかやな。

塵芥の番長とは思えん。

 

36:名無しの野球人

普段はニコニコしてるけど、有事になったら豹変するタイプなのかもしれん

 

37:名無しの野球人

>>36

一番怖いやつやな

 

38:名無しの野球人

何の勝負をするんだろう

 

39:名無しの凡才

勝負の準備はあっさりと終わった。

……まぁ、準備といっても大層なモノではなく、ヤンキーと教師を隅に追いやって、倉庫から野球道具を引っ張り出しただけやけどな。

和服美人は右手にグローブを装着しており、左手で硬球をにぎにぎしている。

 

「さっさと着やがれ。時雨さんを待たせるな」

 

配下のスケバンにキャッチャーミットと防具一式を手渡される。

最初、ワイは殴り合いの喧嘩をさせられるんかと思ってたが、それは違った。

勝負の内容は野球だったんや。

 

40:名無しの野球人

訳がわからんw

なんで入学してすぐに野球の勝負を挑まれるんやw

 

41:名無しの野球人

本当にこれ、リアルの話よね?

ゴリチンの妄想だったりせんよな?

あまりにも現実味がなさ過ぎるぞw

 

42:名無しの野球人

やはり野球……!

野球は全てを解決する……!

 

43:名無しのモブ

>>41

マジですよ。

イッチさんの勇姿をこの目で見るためだけに塵芥高校に入学した私が保証します。

一応言っておきますが、掲載許可は貰っています。

和服美人さんに。


【写真】

 

44:名無しの野球人

防具をつけたイッチと黒髪ロングの長身美少女が同じ画角に写っとるわ。

どうやら嘘や想像の類ではないみたいやな。

 

45:名無しの野球人

現地民も見てます

 

46:名無しの野球人

>>43

このスレを楽しむためだけに塵芥高校に入学するとか、紛うことなき狂人でワロタ

 

47:名無しの野球人

和服美人ちゃん、本当に和服が似合いそうな顔しとるな。

古き良き大和撫子って感じや。

 

48:名無しの野球人

人の顔をネットに上げんな……と、言いたいところだが掲載許可を貰ってるならセーフ。

セーフ……?

 

49:名無しの凡才

「勝負の内容は単純明快。今から私が投げる球をこぼさずに捕球出来たら、貴方の勝ち。こぼしてしまったら貴方の負けです」

 

和服美人はにこやかな表情を崩さずにそう告げる。

予め球種を宣言したりしないのか……とか、ワイが負けたら何かペナルティとかあるんか……とか、色々聞きたい事はあったけれど聞ける雰囲気じゃなかった。

この時もヤンキー共と教師陣、そして、和服美人の配下のスケバン達はワイを注視していたからな。

この状況で質問したら何かダサいやろ?

だから、ワイは口を開く事なく、キャッチャーミットを構えた。

……これ、カッコええって思わん?

 

50:名無しの野球人

カッコええけども、口に出しちゃったら、お終いや

 

51:名無しの野球人

いや、そこは聞いとけよ!

球種も分からんのにキャッチできる訳ないやん。

 

52:名無しの野球人

フォークみたいな落ちる球を投げられたら詰みやね。

 

53:名無しの野球人

いや、フォークどころか、どんな球でもきついやろ

 

54:名無しの野球人

ニコニコしてるけど、やってる事は鬼畜そのもので草生える

 

55:名無しの野球人

そもそも体育館で野球をやるなやw

 

56:名無しの野球人

教師陣が見逃しているからセーフ!

 

57:名無しの野球人

>>56

多分、見逃しているわけではなく、和服美人ちゃんにビビってて口を挟めないだけなんだよなぁ……

 

58:名無しの凡才

和服美人は無言でキャッチャーミットを構えたワイを見て、口元を歪める。

その笑みは今までの笑みとは違ってて……なんていうか形容し難い不気味さを感じた。

 

「……随分と潔いですね。好きになってしまいそうです」

 

この台詞が耳に届いた瞬間、先程感じた不気味さは一気に消し飛んだ。

ワイはもうこの時点で和服美人の事が好きになっちゃいそうになったが、気持ちを切り替えて脳みそをフル回転させる。

この世界には数多くの変化球が存在するが、その中でも落ちる球はマジで捕りにくい。

低い位置で捕球しなきゃいけないし、構えたミットを返すか否か瞬時の判断も要求されるからな。

だから、ワイは山を張った。

和服美人が投じる球は落ちる変化球であると。

野球の勝負をするだけなら一打席勝負でいい。

それなのに、わざわざこんな意味分からん勝負を仕掛けたのには何かしらの目的がある。

仮に、この勝負の目的がワイの捕手としての技量を見定めるためのものであるならば、難度の高い変化球を投げてくると考えたんや。

ちな、魔球が来たらお手上げ。

そん時は諦めて、ワイの鍛え上げられた体で受け止める。

 

59:名無しの野球人

色々と考えてるんやな、イッチも。

 

60:名無しの野球人

まぁ、そりゃ山を張るよな。

ありとあらゆる球に即座に対応するなんて不可能や。

 

61:名無しの野球人

落ちる変化球にも色々と種類があるから、それでも無謀である事には変わりないけどなw

 

62:名無しの野球人

ワイも可愛い女の子に「好きになってしまいそうです」って言って貰いたいわ。

 

63:名無しの野球人

安心しろ。

塵芥高校に入学して、女番長が投げる球を受け止められれば、ワンチャンあるかもしれんぞ。

ちな、どんな球種が来るのかわからない模様。

 

64:名無しの野球人

うーん、無理w

 

65:名無しの野球人

>そん時は諦めて、ワイの鍛え上げられた体で受け止める。

防具があるとは言えど、硬球を体で止めたら普通に痛いから、良い子のみんなは真似しないでね!

 

66:名無しの凡才

そうこうしている内に和服美人は投球動作に入る。

彼女のフォームはお手本のようなスリークォーターだったが、見惚れている暇はない。

ワイはひたすらに祈る……落ちる球来い、と。

その祈りが通じたのか、和服美人が投じたボールはワイの眼前で落ちた。

だが、落ちるだけに留まらず、不規則に揺れる。

そう、彼女が投じたのはナックルボールだったんや。

それも、125キロほどの高速ナックル。

……ワイは考えるのをやめた。

 

67:名無しの野球人

思考を放棄してて草

 

68:名無しの野球人

プロでも無理やろ、こんなのw

 

69:名無しの野球人

最近の不良は高速ナックルボールを投げられるんか。

すごい時代になったもんやなぁ。

 

70:名無しの野球人

>>69

和服美人ちゃんが異常なだけ定期

 

71:名無しの凡才

自棄になった訳ではない。

来る球を捕る事だけに集中してるだけや。

ナックルなんてお目にかかるのは初めてだから、軌道は読めんからな。

引きつけて受け止めるというキャッチングの定石を捨てて、反応で捕る。

すると、ボールは小気味良い音を立ててミットに収まった。

自分で言うのも、何だが……ワイはキャッチングの天才なのかもしれん。

 

72:名無しの野球人

すごい

 

73:名無しの野球人

これは全国大会三連覇チームの正捕手の風格

 

74:名無しの野球人

捕ることを諦めてなかったんか。

自暴自棄になったのかと思ってたわ。

 

75:名無しの野球人

書き方が紛らわしいんじゃ。

でも、普通に凄い。

 

76:名無しの天才

ふふふ。

随分と驚いているみたいだけど、こんなの当たり前よ。

これくらい難なくこなせないと、天才たる私の女房役は務まらないわ。

 

77:名無しの野球人

>>76

だからお前は誰やねん

後方腕組み面すんなやw

 

78:名無しの野球人

和服美人ちゃんの反応が気になるな

 

79:名無しの野球人

書き込みから漂うバカっぽい雰囲気で忘れてたけど、ゴリチンはあの天童坂から推薦が来るほどの選手なんだよな。

 

80:名無しの野球人

そんな選手が何故、安価で通う高校を決めたのか。

これが分からない

 

81:名無しの野球人

馬鹿と天才は紙一重って事やね

 

82:名無しの凡才

ワイがナックルを捕球した瞬間、静まり返っていた体育館内がザワザワし始める。

 

「俺って何かやっちゃいました?」

 

この言葉を口にしてみたかったが、すんでの所で抑えた。

何故なら、和服美人が俯いて、わなわなと震えていたから。

死を覚悟したワイは心の中で辞世の句を詠んだ。

 

「ワイは死ぬ 絶対に死ぬで いまここで」

 

83:名無しの野球人

おもんな

 

84:名無しの野球人

これはセンス×

 

85:名無しの野球人

俺の中でイッチの株が急降下したわ

 

86:名無しの天才

風情の欠片もないわね

 

87:名無しの野球人

>この言葉を口にしてみたかったが、すんでの所で抑えた。

仮にこの言葉を口にしてたら、和服美人はともかく配下のスケバンにボコボコにされてたやろなw

 

88:名無しの凡才

和服美人はゾンビのような足取りでワイの元に近づいてくる。

この時、ワイは頭の中で自分を育ててくれた両親と世界で一番可愛い妹に別れの言葉を告げていた。

 

「やっぱり、そうなんですね」

 

がばっと顔を上げた和服美人の頬には赤みがさしている。

顔の造形がとても綺麗だ。

こんな美人に殺されるのなら悔いはない……と、考えたワイは歯を食いしばる。

 

「貴方が……アキラくんこそが私の運命の人なんですねっ!」

 

ワイは何が何だか分からなくて言葉も出んかった。

 

89:名無しの天才

は?

 

90:名無しの野球人

???????

 

91:名無しの野球人

なぁにこれぇ

 

92:名無しの野球人

いつまでも情報が完結しない!

 

93:名無しの野球人

何がどうなってんだ

 

94:名無しの野球人

初日からカオス過ぎるやろw

 

95:名無しの野球人

ど う し て こ う な っ た

 

96:名無しの野球人

スレ民ですら混乱しとるんや

イッチはもっと混乱しとるやろな

 

97:名無しの野球人

現地にいたスレ民に聞きたいんだけど、この時の現場の様子はどんな感じだった?

 

98:名無しのモブ

>>97

みんな口をぽかーんと開けてましたよ。

その様子はギャグ漫画さながらでした。

 

99:名無しの野球人

そりゃそうなるわな。

塵芥高校を仕切ってる女の子が、頭お花畑になったんやもん

 

100:名無しの凡才

あ、ごめん。

もうそろそろ学校始まるわw

それでは、ここで失礼する。

続きはまた放課後w

 

101:名無しの野球人

おい!ふざけんな!

 

102:名無しの野球人

何わろとんねん

 

103:名無しの野球人

おい、待て!

失礼すんじゃねぇ!

 

104:名無しの野球人

せめて、和服美人とその後どうなったのかだけでも良いから書いてくれ!

頼む、何でもするから!

 

105:名無しの野球人

貴様!!逃げるな!!!

このスレのイッチとして、説明責任を果たせ!!!

 

106:名無しの野球人

戻ってこい、イッチ!

ヒキニートで日中暇すぎるワイらを置いてかないでくれぇぇぇ!!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る