第22話
放課後、1日の終わりを告げるチャイムが鳴り響き、疲弊し切った俺は最後の力を振り絞って下校するための準備をしていた。
楠森が俺の隣の席に座り、「永愛君ってあの永愛君よね?」という会話をして以降、楠森と多少会話をすることはあれど、それ以上深く関わることは無く、それについては心労が溜まることはなかった。
しかし、俺が今朝綾原たちのグループから話しかけられたこと、そして俺が転校してきた美少女の楠森と知り合いだったこと--この2つの話題で教室中は持ちきりとなり、四六時中クラスメイトからの注目を浴びていたので心労が溜まり疲弊しきってしまったのだ。
普段悪い意味で注目することはあれど、それ以外のことで注目されることは無く、どのように立ち振る舞っていいのか全くわからなかった。
悪い意味で注目されている時は、例えば自分がポイ捨て等の悪いことをしでかしてしまったとしても、『まあヤンキーだしポイ捨てして当然か』くらいの感じで特に気に留められることもないだろう。
しかし、綾原のグループや転校生の美少女と関わりがあったことで注目されている状況でポイ捨てをしてしまったら、『綾原と関わりがあるくせにポイ捨てするような最低な奴だったのか』と評価を大幅に落とすことになってしまう。
ともすれば『ポイ捨てするような奴と関わりがあるなんて綾原も実は悪い奴なのか?』なんて疑問を持たれることにもなりかねない。
落ちた評価を更に落とすことは難しくとも、上がってしまった評価は簡単なのだ。てかまあ俺ポイ捨てなんてしないけど。
そんなこんなで疲弊してしまった俺は、綾原でも見て癒されようと綾原へと視線を向けた。
すると、綾原も俺の方へと視線を向けており、目が合った。
えっ、なんで綾原が俺の方に視線を向けてるんだ?
そう疑問に思っていると、綾原が喋りかけてきた。
「あっ、あの、永愛君。千秋と茜とね、今からファミレスでも行こうかって話してるんだけどよかったら永愛君も--」
「ねぇ永愛君」
「……へ?」
綾原が俺に話しかけている途中で突然声をかけてきたのは、隣の席に座っている楠森だった。
てか今綾原俺のことファミレスに誘おうとしてたよな?
なんて最悪のタイミングで話しかけてくるんだ楠森よ! このまま誘われなかったらどうするつもりだ⁉︎
「……昔同じ小学校に通ってたのに今更永愛君だなんて苗字で呼ぶのは変かしらね。昔みたいに龍人君って呼ばせてもらうわ」
「まっ、まあそれは構わないけど」
「りゅっ、りゅっ、りゅりゅりゅ⁉︎」
突然昔のように名前で呼ばれた俺よりも、綾原の方が動揺しているのはなぜだろうか。
「私転校してきたばかりで友達もいなくて不安で……。だから昔みたいに龍人君と仲良くなれたらなって思ってて。よかったら今から私の家来ない?」
「……えっ、家--」
「家ぇぇぇぇぇぇ⁉︎」
ちょっ、綾原さん、俺より驚くのやめてくれって俺が驚く隙がなくなる。
楠森から突然家に誘われた俺は困惑していた。
だって俺と楠森って犬猿の仲のはずだよな?
いや、そりゃ小学生の頃は俺が楠森に好意を抱くくらいには関わりがあって仲が良かったとはおもうが、俺の中の楠森の最後の記憶は『柄が悪い』という理由で振られた最悪の思い出で、勝手に犬猿の仲のように思ってたんだが……。
思い描いていた再会とは違いすぎて調子が狂う。
もし楠森と再開することがあれば俺はいまだにヤンキーで、自分を貫いていることを自信満々に見せつけてやろうと思っていたのに。
まあ確かに楠森からしてみれば同級生に告白されて振ったというだけのことで、俺以外からの告白を断ったこともあるだろうしあまり気にしてはいないのかもしれないけど。
「そっ、その、突然家ってのはちょっと……」
「私の家学校のすぐ近くだから。どこか行くより家の方が効率的だし」
えっ、そゆのって効率とか大事なんだっけ?
効率以前に『ガラが悪い』という理由で振った男を家に入れて問題ないのか?
「ちょっと楠森さん!」
「……なにかしら」
「今私が先に永愛君を誘ったんだけど!」
「……あら、気付かなかったわ。ごめんなさい。先に誘っていたなら私の家に来てもらうのは無理ね」
ナイスだ綾原、今楠森の家に行って何をすればいいかなんてわからないのでできれば行きたくなかったからな。
「そっ、そうだよ。も、申し訳ないとは思うけど……」
「それなら--」
◇◆
「えっーと、これはどういう?」
俺の前に座る古里と鈴村は明らかに困惑した様子を見せている。
「誘ってくれてありがと。仲良くできたら嬉しいわ」
結局俺は綾原と古里と鈴村と、そしてそこに楠森を加えたメンバーでファミレスにやってきたのだ。
ただ転校生を誘って遊びに来ているだけだと考えれば何もおかしいことはないのだが、俺にとってこの状況は地獄へと足を踏み入れたと言っても過言ではなかった。
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