第53話 開店

 それから二頭の馬を受け取り、俺たちは宿泊所へと戻ってきた。


 どこへ向かうかはまだ決まっていないが、この町を出る前にやっておきたいことがある。


 それはお世話になった人たちに出発を報告すると共に、陽だまりキッチンで俺の料理を食べてもらうことだ。


 というわけで俺は神殿にお願いして出店許可を取り、目抜き通りに面した大きな広場にやってきた。


 今日から一週間、この広場で陽だまりキッチンが開店するのだ。


 すでに騎士団には開店を報告してあるし、陽菜も宮殿で知り合った女性たちに伝えてくれている。


 ここまでやれば、さすがに初日から閑古鳥が鳴くなんてことはないはずだ。


 今日の分の仕込みを終え、満を持してオープンを迎える。


 まだ午前中ということもあり、広場も人はまばらだ。サン=アニエシアの女性たちは遅い朝食を食べ、そのあとは夕食という生活スタイルなので、その人たちが来るのは夕方が近くなってからだろう。


 だから最初のお客さんは騎士団の昼食だと思う。


 と、思っていたのだが、しばらくするとぞろぞろと付き人を連れ、派手なドレスを着た女性が長いウェーブロングの髪を颯爽さっそうとたなびかせながらやってきた。


 夏ということもあってか、かなり短いスカートを履いており、大胆に生足を露出している。


 おや? あの人はどこかで見覚えが……?


「あ! オリアンヌさんだ!」


 陽菜は短くそう言うと、馬車から飛び出した。


「オリアンヌさん! 来てくれたんですね! ありがとうございます!」


 陽菜は女性に駆け寄ると、嬉しそうに挨拶をした。


「ええ。ヒーナちゃんと彼氏くんのお店、見に来たわ。メニューは何があるのかしら?」

「はい。今日のメニューは持ち帰り用のサンドイッチと、あとはそこのテーブルで食べられる定食もありますよ」

「そう。定食のメニューは何かしら?」

「はい。牛サーロインステーキ定食、とんかつ定食、鮭のムニエルの定食、チキンタルタル定食の四種類を用意しています。定食には野菜サラダがついていて、ライスとお味噌汁のセットか白パンと玉子スープのセットをお選びいただけます」

「ふうん? 聞いたことのないメニューもあるわね。ヒーナちゃんはどれがおすすめかしら?」

「お肉好きならまずは牛サーロインステーキ定食がおすすめです。セットはライスとお味噌汁のほうがあたしは好きです」

「そう。じゃあそうするわ。お前、わたくしはそのステーキ定食にするわ。お前たちも、わたくしと食卓を共にすることを許しますわ。ああ、それと、フルーツサンドを五セット」

「かしこまりました」


 付き人の一人が俺のところにやってきて注文してくる。


「牛サーロインステーキ定食を七つとフルーツサンドを五セット頼む」

「かしこまりました。定食はライスか白パンをお選びいただけますが、いかがいたしましょう?」

「すべてライスだ」

「かしこまりました。牛サーロインステーキ定食は一食あたり大銀貨五枚、フルーツサンドは大銀貨一枚となります」

「ああ」

「ありがとうございます。少々お待ちください」


 俺はお代を受け取るとすぐに亜空間キッチンに行き、そして調理をして戻ってきた。


「こちら、牛サーロインステーキ定食となります」


 俺はステーキ定食を一セットずつ付き人に手渡していく。


 ちなみにお盆はなく、木製の大皿にステーキとサラダ、そしてライスを盛り付けてあり、味噌汁は木製のマグカップに入れてある。


「へぇ、これが噂のサーロインステーキですのね」


 オリアンヌさんは付き人が運んだ食事を見て、興味深そうに観察している。


 え? 噂って?


「神よ。今日の糧をお恵み下さったことに感謝します」


 オリアンヌさんはすぐにステーキをナイフで切り、口に運んだ。


「っ!?!?!!?」


 オリアンヌさんは目を見開いて驚いている。


「なっ!? なんですの!? このお肉は! どうしてこんなに柔らかくて、どうしてこんなに甘くて……! 騎士たちの言っていたとおりですわ! これでたった大銀貨五枚だなんて!」


 ああ、そうか。サーロインステーキは魔窟で最初に出して、隊長に怒られたなぁ。


「なんて美味しいんでしょう! わたくしたちが今まで食べていた肉はなんだったんですの!?」


 さすがに大げさな気もするけれど、でも和牛は世界でもトップクラスの評価を得ているのだし、そんなものなのかもしれない。


 見れば付き人たちも、ものすごい勢いで肉を食べている。


「まあ! このライスという食べ物、ステーキと合いますわね! このミソシールというスープも気に入りましたわ」


 オリアンヌさんは相当気に入ってくれたようだ。


「ヒーナちゃん、やりますわね。その年齢でこんな彼氏くんを見出すなんて、ヒーナちゃんは男を見る目がありますわ」

「ありがとうございます」


 陽菜はオリアンヌさんに対し、嬉しそうに返事をするのだった。


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 次回更新は通常どおり、2024/04/13 (土) 20:00 を予定しております。

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