第30話 反乱

 昼食はベーコンとほうれん草のオイルパスタを出し、文句を言われなかった。


 だが、夕食はまたもや文句を言われてしまった。メインディッシュをトマトソースのチキンソテーにしたのだが、どうやらこのトマトがいけなかったらしい。なんでもトマトはこのあたりでは栽培されておらず、南西にある乾燥地帯から来る行商人によって運ばれてくる超高級品なのだそうだ。


 知るか! そんなもん!


 大体、なんで美味しい料理を作れるのにわざわざ縛りプレイをしなくちゃいけないんだ!


 そんなことを言うなら最初から使っていい食材を全部指定してくれ!


 というわけで、ついに面倒くさくなった俺は運んできた食材だけで料理を作ることにした。


 主食は全部黒パンで、味付けは塩とハーブだけ。コンソメスープも無しで、持ってきた干し肉を水で戻して煮込んだスープだ。


 これでもう文句もないだろう。


 というわけで翌日の朝食は干し肉の塩スープと黒パンにしたのだが……。


「あれ? 今朝はあのサンドイッチじゃないのか?」

「どうした? 材料が無くなったのか?」

「おいおい、頼むよ。あの美味いメシを楽しみにしてたのに……」


 朝食を受け取りに来た騎士たちに苦情を入れられてしまった。さらに食事を終えて食器を返しに来た騎士たちは……。


「なあ、スープがまずいんだが……」

「昨日のスープ、もうないのか?」

「黒パンは仕方ないが、あのスープが飲みたいんだが……」


 口々に顆粒だしで作ったコンソメスープを要求されてしまった。


「なあ、お前は固有魔法持ちで彼氏までしてるんだろ? ちょっとぐらいその力を使ってくれたっていいじゃないか」

「頼むよ。もう干し肉のスープじゃ満足できないんだ」

「金なら払うから! どうだ? 帰ったら大銀貨一枚払う。だからここにいる間、俺だけにあの美味いスープにしてくれないか?」

「あ! おい! ずるいぞ! 俺も払う!」

「俺もだ! だから頼む!」


 その必死さにちょっと引いてしまうが、上官命令なんだから仕方がない。


「すみません。俺も出したいのは山々なんですけど、隊長に止めろって言われてるんで……」

「なんだと!?」

「隊長が!?」

「分かった! 俺らで抗議してくる!」

「おーい、お前ら! メシがいきなり不味くなった理由が分かったぞ!」

「なんだと!?」

「どういうことだ!」


 あっという間に騒ぎはキャンプ中に広がっていき……。


「隊長! どういうことですか!」

「美味いメシを禁止するなんて! 俺らに死ねってことですか!」

「お、おい! お前ら! 落ち着け!」

「落ち着いていられませんよ! 美味いメシを食えると思えるから頑張るんじゃないですか!」

「そうだそうだ!」

「横暴だ!」


 隊長はあっという間に他の騎士たちに囲まれ、猛抗議を受けている。


「くっ……お、おい! ショータ! お前! この騒ぎをなんとかしろ!」


 大声で怒鳴ってきたが、俺がどうこうする話じゃないじゃないか?


「あー、俺、ちょっと仕込みがあるんで!」


 俺は亜空間キッチンへと逃げ込むのだった。


◆◇◆


 亜空間キッチンの掃除をし、ハムエッグと焼き鮭、納豆、ほうれん草のおひたしと味噌汁にご飯という和朝食を食べてから出てくると、神妙な顔つきの隊長と大勢の騎士たちが俺の出待ちをしていた。


「うわっ!? なんですか?」


 驚いて聞くと、隊長が頭を下げてきた。


「ショータ、俺が悪かった」

「え?」

「もう何かを禁止とは言わない。自由に美味いメシを作ってくれ」

「今後野営ができなくなるって言ってたじゃないですか。いいんですか?」

「ああ、大丈夫だ。だから頼む」

「はぁ。分かりました」


 こうして食材制限はあっという間に撤廃されたのだった。


◆◇◆


 一方その頃、宮殿に残った陽菜はまたしても中庭のガゼボで聖女とテーブルを囲んでいた。


「あの、聖女様……」

「なんじゃ? ショータの帰りはまだじゃぞ?」

「……はい」


 陽菜はがっくりと肩を落とす。


「まったく、そんなに暗い顔をしておるとショータも心配するぞえ?」

「でも……」


 聖女は手のかかる子供でも見るような表情で小さくため息をついた。


「ふむ。ではヒーナよ。気分転換に礼儀作法でも勉強してはどうかえ?」

「礼儀作法ですか?」

「うむ。女が礼儀作法の問題でとがめられることは少ない。じゃが、国によっては身分を定めておるところもある。そういった国では身分が上の者に正しい礼儀作法で接することができぬと、罰を受けることもあるぞえ」

「罰、ですか?」

「そうじゃ。罰金が多いが……おお! そうじゃ!」

「え? なんですか?」

「たしか昔、どこかの国で男児を産まされるという罰があったそうじゃぞ? あとは、付き人や彼氏が処刑されるというものもあったのう。ヒーナよ。今のままでは……」

「えっ!? そんな……」


 意味深な聖女の発言に陽菜の顔は真っ青になった。


「ならば、学んでみるかえ?」

「はい! お願いします!」

「うむ。いい返事じゃ。ではまずは挨拶からじゃが……」


 聖女は思わせぶりにじっと陽菜の顔を見つめ、そしてへにゃりと表情を崩した。


「実は妾も詳しくないのじゃよ」

「えっ?」


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 次回更新は通常どおり、2024/03/04/ (月) 18:00 を予定しております。

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