第15話 両片思い

「陽菜?」

「えっ? あ、うん……」


 何か悩んでいるような感じだが……。


「どうしたの?」

「……なんでもない」

「え? 何? 気になるじゃん」

「だからー、なんでもないってー。それより、今日は楽しかったね。異世界のお祭りってあんななんだねー」

「うん。そうだね」


 陽菜はあまり深く聞いてほしくなさそうなので、あえて追求しないでおく。


「踊ってる人たち、楽しそうだったよねー」

「うん」

「あたしたちも踊ってみたら良かったかな?」

「ああいうのはやったことないじゃん」

「あはは、そうだね。でも、分かんなくても踊ってみたら意外と楽しいかもよ?」

「でも、踊ってたの、男の人ばっかりだったし」

「あー、たしかにー。外国って男女で踊ってるイメージだったんだけどなー」

「まあ、外国じゃなくて異世界だし」

「そうだねー」


 陽菜はそう答え、にへらと笑った。だが、どことなく強がっているような……?


 うーん、そうだな。ちょっと話題を変えようか。


「そういえばさ」

「ん? 何?」

「太田さん、なんでこんな世界がいいって言ったんだろうね」

「こんなって、女の子が偉い世界?」

「うん。女が少なくて、男はあんな風に付き人になりたいって初対面の陽菜に言ってくるんだよ? 一人や二人ならまだしも、あんなに大勢だなんて、どう考えてもおかしいじゃん」

「んー、そうだけど、あたしは太田さんの気持ち、なんとなく分かるかなぁ」

「え?」


 俺はその言葉に思わずドキリとなった。


 もしかして陽菜も……?


「だって、太田さんって、ほら。男子に人気ないでしょ?」

「ああ、うん。でもさ。太田さんは人気ないっていうか、勝手に孤立してただけだと思うけど……」

「そうだけど、でもね。多分、太田さんは男子に振り向いて欲しかったんだと思うな。だって、もしあたしが太田さんだったらさ。多分怖くて男子になんて話しかけられないと思うもん」

「そう? でも陽菜だったらなんとか話そうとするんじゃない? それにさ。こんな、男が付き人になるのが普通な世界なんて、やっぱりおかしいし、それがいいだなんて言うのもさ」

「そうだねー。そこはあたしもそう思うけど……」

「大体さ。太田さんだってダイエットすれば良かったんだよ。陽菜みたいバレーとかやれば良かったのに」

「まあねぇ。でも、あたしもね。実はちょっと嬉しいんだ」

「え?」


 陽菜は意味深な表情を浮かべながら、そんなことを言ってきた。


「もう。なんて顔してるのよ。だって、ほら! こうして祥ちゃんと昔みたいに仲良くできてるじゃん。最近は部活も忙しかったし」


 陽菜はそう言ってくしゃりと表情を崩した。


 ああ、もう! ホント可愛いな! この陽菜は。


「あ! また顔が赤くなってる! えへへー。ぎゅってしていい?」

「な、なんだよ。いつもやってるじゃん」

「うん」


 陽菜は上機嫌にそう言うと立ち上がり、椅子に座っている俺を後ろから抱きしめてきた。


 っ!? こ、後頭部に柔らかい感触が!?


 わ、わざとやってるのか?


「あ! 耳まで赤くなったー」


 陽菜のからかうような声が聞こえてくる。


 わ、わざとだ。陽菜のやつ、巨乳になったのをいいことに……。


 う……股間の息子が……。


◆◇◆


 その晩、俺は陽菜のことを意識してしまい、上手く寝付けなかった。


 もちろん陽菜と昔のように仲良くできているのは嬉しい。だが、これから先はどうだろう?


 今は陽菜が俺を幼馴染だからという理由で頼ってくれているが、もし陽菜の好みのイケメンで大金持ちなやつが現れたら?


 そしてそいつと比べられたとき、俺には幼馴染ということくらいしかアドバンテージがないんじゃないか?


 そうなったとき、果たして陽菜は……。


 この世界では、間違いなく陽菜は選び放題だ。


 女ってだけでも選ぶ立場なのに、あんなに可愛くてスタイルも良くて、さらにいい香りまでするんだ。陽菜に惚れない男なんていないはずがない。


 そんな陽菜にもし情けない姿を見せ、幻滅されたらどうなる?


 もしかしたら離れていってしまうんじゃないか?


 ……ああ、そうだよ。俺は、陽菜のことが異性として好きだったんだ。


 日本では幼馴染の関係が心地よすぎて、それでいいって思っていたけど。ずっと、ずっとこの関係が続くんだって思い込んでいたけど、そうじゃない。


 俺は、陽菜の彼氏になりたかったんだ。陽菜を独り占めしたかったんだ。


 もちろん、昼間俺のことを彼氏だなんて言ってくれたのが方便だってことくらい分かってる。


 現に、こうして同じベッドで平気で寝られるくらい、陽菜は俺のことを異性としては見ていないのだから。


 だから……!


「頑張らなきゃな」


 俺はそうつぶやくと、深呼吸をした。


 あ! しまった! また陽菜のいい香りを!


 俺は馬鹿か! 毎日同じベッドで寝ているんだからこうなることなんて分かり切っていたはずなのに!


 くぅぅぅぅ。もういい加減、生殺しにされ続けて暴発しそうだ。


 だ、ダメだ。ちゃんと我慢しなきゃ。


 陽菜に胸を張って、付き合ってくださいって言える男になるんだ。陽菜に相応しい、陽菜の隣に立って恥ずかしくない、そして何より陽菜が胸を張って彼氏だって紹介できるいい男になるんだ。


 そうだ。そういう男はこんなところで陽菜の信頼を裏切ったりしない。


 落ち着け、俺!


 こうして俺は再び悶々と過ごすことになったのだった。


◆◇◆


 そうして祥太が一人で悶えていたころ、寝たふりをした陽菜もまた一人で悶えていた。


 祥ちゃん、どうして気付いてくれないの?


 陽菜は同じベッドで寝ているのに微妙に離れた場所で眠っている彼を想う。


 あんなに頑張ってるのに……。


 神様にお願いして、祥ちゃんが一番可愛いって思ってくれる理想の顔にしてもらったのに……。


 どうして告白してくれないの?


 だったら、もうあたしから告白するしかないのかな? でももし拒否されたら……。


 やっぱり幼馴染って、結ばれない運命なのかな?


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 次回更新は通常どおり、2024/02/18 (日) 18:00 を予定しております。


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