第14話 不敬罪

2024/02/16 ご指摘いただいた誤字を修正しました。ありがとうございました

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「祥ちゃん、あの子がここの聖女様なんだね。あんな小さい子がやってるなんてびっくりだね」

「ね」

「あの白い光、太田さんのやつと似てたよね?」

「うん。たしか、神聖力? って言ってたっけ?」

「うん。言ってたねー。太田さんもあんな感じになってるのかなぁ」

「どうなんだろ? そもそもどこにいるのか……」

「だよねぇ」


 そんな話をしつつ、俺たちは屋台巡りを再開する。


 それから一通り神殿の屋台を見て回った俺たちは、さらに神殿の外も見て回った。


 花や飾りで綺麗に飾り付けられた町のあちこちでは音楽が奏でられ、人々は陽気に踊ってお祭りを楽しんでいた。


 踊りが分からないので参加はしなかったが、お祭りは見ているだけでもワクワクするのだから不思議なものだ。


 そうして雰囲気を楽しんだ俺たちは、夕方になって神殿の宿泊所に戻ってきた。


 するとファビアンさんが俺たちの部屋を訪ねてきた。


「ファビアンさん、こんにちは。どうしたんですか?」


 俺はダイニングテーブルの反対側に座るファビアンさんにそう訪ねる。


「はい。昼間の屋台での件についてお話があります」

「あ、はい。おかげでいくらか手持ちのお金が手に入りました。ありがとうございました」

「それはそれは……お役に立てて何よりです」

「お金は今払ったほうがいいですか?」

「いえ、今でなくとも結構ですよ。今回はその件ではありませんので」

「あれ? あ! 机の件ですか?」

「それとも関連しておりますが、違います。ヒーナ様に迷惑を掛けた不届き者のことです」

「あ、はい」


 あいつのことか。ただ、今になって考えるとさすがにあれはちょっとやりすぎたかもしれない。たしかに俺も頭に血が上っていたし。


「あの人の怪我、大丈夫ですか?」

「え? ああ、はい。それは問題ございませんよ。聖女様に治療していただく予約が取れたそうですから」

「そうでしたか」


 それは良かった。


「それでですね。あの男はヒーナ様に対する不敬罪で裁かれることになる予定です」

「え? ふけいざい? ってなんですか?」

「はい。ヒーナ様の商品を毀損し、ヒーナ様の彼氏であるショータさんを脅迫して胸ぐらを掴むという暴行を働きました。これは女性であるヒーナ様の権利と尊厳に対する明確な攻撃でありますから、不敬罪に問われるのは当然でしょう」


 ファビアンさんは平然とした様子でそう説明してきた。


「それで、どうなるんですか?」

「もし不敬罪で有罪となればもちろん罰を受けます。彼の場合は十分な財産があるようですので、その財産の一割がヒーナ様に対する賠償金となり、四割を罰金として国が没収したうえで、五年程度の農場労役刑に処されるかと思います」

「農場労役刑?」

「我が国が管理する農場で働かされる刑罰です」

「そうですか……」


 全財産の半分を取られたうえに農場で五年も働かされるとなると、かなり大変そうだ。


「ですが、彼はヒーナ様との示談を望んでおります」


 示談って、お金を払って謝って、なかったことにする、みたいなやつだっけ?


 俺はちらりと陽菜のほうを見るが、陽菜も困ったような表情を浮かべている。


「示談って、するとどうなるんですか?」

「今回は女性に対する不敬罪ですので、その女性がゆるせば罪は無くなります。示談の条件次第ですが、少なくとも農場労役刑は受けずに済むでしょう」

「なるほど……」

「もちろんヒーナ様のご意志にお任せしますが、示談をされたほうがヒーナ様はより多くの賠償を受けることができますし、何より早く決着します。お荷物を無くされて大変な状況ですから、そのほうがよろしいかと」

「たしかに。陽菜、どう?」

「うん。そうだね。でも……ちゃんと反省して謝ってくれないなら嫌かも」

「それはもちろん、ヒーナ様がお望みとあらばどのような形でも謝罪させましょう」

「それなら……」


 するとファビアンさんはホッとしたような表情になった。


「受け入れていただけて何よりです。それでは具体的な条件ですが、彼からヒーナ様への謝罪、そして彼の資産の十五パーセントをヒーナ様が譲り受けるということでいかがでしょう?」

「あの、それって普通な感じなんですか?」

「はて? 普通とはなんのことですかな?」

「あ、えっと、だから、ここで示談するときって、大体こんな感じなんですか?」

「えっ? ああ、はい。そうですね。不敬罪ですと……まあ、そもそも不敬罪に問われるケースは少ないですが、このぐらいの条件で決着することも多いのではないかと思います。もちろん内容によって変わりますし、交渉によって増減するので一概には言えませんが、相場とかけ離れているわけではないかと思います」

「ならそれでいいです」


 陽菜はそう言ってうなずいた。


「かしこまりました。それではそのように――」

「あ、待ってください」

「なんでしょう?」

「あの、資産ってことは、お金じゃなかったりしますか? あいつ、屋敷がどうのとか言ってましたし、そういうのを貰っても俺たち旅をしているんで困るんですけど……」

「……なるほど。それもそうですね。では資産の十五パーセントに相当する金貨を譲り受ける、でよろしいですか?」

「どう? 陽菜」

「うん」

「ではそのように。謝罪の方法はいかがいたしましょう? 神前での公開謝罪もできますが」

「それは、ちゃんと謝ってくれればいいです。あたしだけじゃなくて祥ちゃんにも」

「分かりました。ヒーナ様はショータさんを殊に大切にしてらっしゃいますね。やはり彼氏とはそのようなものなのでしょうか」

「えっ? えっと……はい……」


 陽菜はそう言うと、照れくさそうにはにかんだ。


 か、可愛い……。


 するとファビアンさんが突然ぼそりとつぶやく。


「やれやれ。我らが聖女様にもそろそろ彼氏を作っていただきたいのですな。まったく、一体いつになることやら」

「えっ? 彼氏なんてまだまだですよー」


 陽菜はまるで友達に話し掛けるかのようなノリでファビアンさんの呟きを拾った。


「そうでしょうか?」

「そうですよ。神殿から出てきて、挨拶していた子ですよね?」

「……子、という表現は問題がありますが、聖女様はヒーナ様が想像していらっしゃるお方で間違いありません」

「あ! ダメなんですね……。ごめんなさい」

「いえいえ。私以外に誰も聞いていませんし、次から気を付けていただければ」

「はーい。それでですね。きっと聖女様も、あと何年かしたら気になる男の子ができると思いますよ!」

「だといいのですがね……」

「そうに決まってますって」

「はぁ。私の生きている間にそうなればいいのですがね」


 ファビアンさんはどこか諦めたような表情でそう答えた。


 うん? ファビアンさんって、まだ三十代くらいだよな?


 なんだか会話が噛み合っていないような?


「では、私はこれで。示談書ができましたらお持ちします」

「はーい。ファビアンさん、ありがとうございました」

「私のほうこそ、ヒーナ様にそのように仰っていただけて感激しております」


 こうしてファビアンさんは部屋から出ていった。


「聖女様の彼氏かぁ。どんな人が選ばれるんだろうね?」


 陽菜は無邪気にそう言って笑ったが、すぐにその表情が曇る。


 うん? 陽菜?


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 次回更新は通常どおり、2024/02/17 (土) 18:00 を予定しております。

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