苦手で、怖くて、──してる。
魔導管理室
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一人の少女の話をしよう。
カッコいい、と言われる、いわゆる「イケメン女子」と言われるような容姿をしていて、女子にしては高い身長と低めの声も相まって同性からの人気が高かった。おまけに成績までいい...私とは大違いだ。
仲良くなった原因は至って単純。席が隣だったこと。そのぐらいしか思いつかない。特にこれといったイベントがあったわけでもない。それにしては距離が近かったような気がするが。「自分に自信がある人」というのはだいたいあんな感じだったような気もする。
私...
中学三年生になってからはクラスが離れたこともありあまりあっていない...クラスが離れたから、という理由だけではないが。二年生の最後、春休みに、私達は...思い出したくもない。あの出来事のせいで、女性が怖くなった。
とにかく。
その時から私と彼女は、普通の友達ではなくなった。友達からあまり会いたくない人へのランクアップだ。いやダウンか?まあいい。
今言いたいのは、
「や、久しぶり、優」
あまり会いたくない人と会ってしまったと、そういうことだけだった。
「...ひ、久しぶり、笹原さん」
今にも雨が降りそうな高校生活一日目の、入学式の直後の出来事だった。
私は雪乃のことが「嫌い」というわけではない。じゃあ何も感じてないと聞かれるとそうではなく、「苦手」...というのもあるが、一番は、「怖い」だろうか。そう思っている。彼女に限らず、女性はだいたいそうだが。
その中でも雪乃は特に怖い。そうなった原因だから。というのもあるが、目が、怖い。「可愛い」というよりは、「かっこいい」と形容される顔に乗った、透き通った瞳から発せられる視線が。隠したいことや、自分でも気が付いていないことまで見透かされているようで。
ああくそ、こういうことにならないようにわざわざ少し遠めのこの高校を選んだのに。
「知り合い全然この学校にいなくて、少し不安だったんだけど。優がいてよかった」
「う、うん。私も、知り合いがいると、少し安心、かな」
震えるな、私。相手が雪乃だから何だ。あれから一年も経ったんだ。記憶も、薄れ、て
『明日から新学期だね』やめろ『最後に思い出』いやだ『だ────────』やめて
「───が───の───で───」
「う、ん。そう、だ、ね。」
やっぱりだめだ。声が震える。舌がもつれる。思い出すな、私、揺れるな、私。去年を思い出せ。あの日々を思い出せ。人付き合いがほぼなくなってしまった悲しい一年を。記憶が薄れずに恐怖にまみれた一年を。ああだめだ。ゆれる。ふるえる。頭が回らない。思考が、ぼやけて。あれ?次は何を話せば。今は何の話をしていて
「ん...そっか」
ふっ...と私の目から視線を外し、教卓の方を見てから、ポツリと呟く。見透かされるような視線が外れ、詰まっていた息を吐く。茹だった思考は冷静さを取り戻し、精神は僅かな安寧を受け取る。くそ、何が、「そっか」だ。何を読み取ったというのだまったく。
...私は、そういう所が——なのに
「先生、なんて人だったっけ。緊張してて忘れちゃった」
前髪をいじりながら私に問いかける。正直私も覚えていない。入学式の中頃で言われて自己紹介までされたが、とっくに忘れて記憶の彼方だ。
「なん、だっけ。こう、水系の名前だったと思う」
目線が向かない分、まだマシだ。記憶の中のものとほとんど変わりのない声が心を揺さぶるが、このくらいなら、なんとか話せる...言葉が詰まるぐらいで。
「あれ、何か光みたいなやつじゃなかったっけ...あ」
足音が聞こえる。そろそろ先生が来るらしい。
「今日、一緒に帰ろう。駅までは一緒でしょ」
受けたくない。が、ここで断るのは不自然だ。それに、これからも彼女と会うことになるはずだ。だから、適応しないといけない。よりにもよってクラスも同じだし、彼女は私を離さないだろう。理由もわかるし原因も八割ぐらいは私にあるが。だから、仕方ない。仕方がないのだ。
「うん。いいよ」
「...」
帰り道、私の少し先を雪乃が歩く。私たちの間に会話はない。どちらかが怒っているとかいうわけでもなく、話題が切れたわけでもない。きっと、向こうは待っているのだ。私が話しかけるのを。
私が怖がっていることを雪乃は気づいてるはずだ。だから、話しかけない。彼女も、話したいことはたくさんあるはずなのに。
「ねえ、笹原さん」
そう思うと、驚くほど簡単に言葉は口からこぼれ出てしまった。困った、何を話すか決めていない。
「えっと...雨、降りそうだね」
何だこれは。コミ症か私。コミ症だったわ。ここはまだ「傘持ってる?」とかそっち方面で話を広げるべきだっただろう。降りそうだからなんだというのだ。
「天気予報だと、そろそろ降るらしいよ。朝晴れてたから私、傘持ってないんだ。優は傘持ってる?」
「私も、傘持ってない。降られたら濡れるしかないや」
私の大暴投をうまくキャッチし、取りやすく投げてくれる...あの日々と同じだ。
話は続く。当たり障りのない話題が生まれは消えていく。こうもリードされてると会話はすべて雪乃の思いのままのような感じがする。こう感じるのも、久しぶりだ...この感覚は、嫌いではなかった。
駅につき、やってきた電車にのり、三駅ほど進んで乗り換える。そこから更に三駅。正直言って、この学校はあまりアクセスが良くない。地元の人ならまだしも、私達の地域から通う人はほとんどいない。似たレベルの学校は乗り換え無しの範囲でも3つはあるし、近くを通るバスもあまりない。だから選んだ。新しい人間関係を構築するために。
なのに、雪乃が来た。なんで、という質問はできない。もし、私が思った通りの答えが返ってきたら、どうしたらいいかわからなくなるから。
「あ...」
電車から降りると、予報と違わず雨が降っていた。
まあ、いい。走れば五分程度でつく。帰ったらすぐシャワーでも浴びれば大丈夫だろう。
...雪乃はどうなのだろうか。記憶が正しければ、私と家がかなり離れていたはずだ。つまり駅からも離れてるというわけで。
あー...どうしようか。いくら彼女が怖いからと言って、風邪を引かれるのはちょっとなぁ...よし
「あの、えっと、笹原さん、その─────家、来ない?」
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